6.〜はじめてのおつかい、前編〜
前回までのあらすじ。
はじめてのおつかい状態
(挿絵入れてみたので表示変だったら教えてください)
俺は町を歩く。
「私は友達づくりをしてくる。状況は分かる様にしておるから安心せい。」
「じゃあの」と竹原挨拶つきで、俺を置いてすぐナナは飛び去った。
〜はじめてのおつかい異世界編。〜
とりあえず、偵察を兼ねて町をぶらついてみる。家は洋風な造りで、雑誌とかに載ってそうなどっかの外国みたいだ。道路はレンガの様なものが敷き詰められていて歩きやすい。
世界が違っても道や建物の作りは似てるもんだなと感心する。文明というか文化?も似ている様で、時々漫画で見るような中世の市民のような服装の人は見かけるがあまり服も髪型も違和感がない。
「おっ。お菓子屋だ」
何処からかあンまぁ〜い匂いがすると思ったら、お菓子屋を見つけた。何かの縁だ。入ろう。
扉を開けて中に入る。
挨拶した方が良いのかな。外国では怪しい者ではないことをアピールするために挨拶をして入店すると聞いた。でも違ったら「えっ何こいつ。友達?」と思われるし逆に不審がられるから辞めておこう。
店員はチラリとこちらを見たが、特にアクションはなさそうだ。良かった。
店内には沢山のお菓子が売ってあった。キャンディやら焼き菓子やら。細かい名前は分かんないけどカラフルな物が多くて女子受けとかしそう。そんな感じ。
何も買わないのは店員に悪い気がするので苺の乗ったドーナツを取る。俺は苺系が好きだ。ナナにも何か買っとくか。
突然だが俺は4人家族で、女は母親しかいない。母親に母の日と誕生日以外でプレゼントとかした事がない。しかも喜ばれたことがない。だから正直女性が喜びそうなチョイスに自信がない。せめてナナのアレルギー食品だけでも知っとくべきだったな。俺は思考を張り巡らす。
今まで作った料理など鑑みるに、小麦アレルギーではなさそうだ。キャンディとか時々食べてたけど、キャンディとかいう単純なお菓子では芸がない。せっかくだし、驚かせたい。出来るやつって思わせたい。
俺がドーナツなので、ナナもドーナツにしようか。
苺が乗ってるやつを選んだから、次期魔王様なら苺のやつよりもっと豪華なトッピングにしようか。
ドーナツに盛り盛りの生クリームの上からチョコソース。苺とバナナみたいな果物の上に散りばめられた目の痛くなる様な自然界にないであろうカラフルなチョコみたいなやつ。コレだ。異世界映え。
見てるだけで胸焼けしそうなお菓子だが、コレは女子受けするだろう。SNSとか雑誌とかにこういうの載ってるし。多分。
俺って結構女を喜ばせる才能あるんじゃないかと思った。
店を出て、また道を行く。
道行く人を見ると、元の世界っぽい服装や、外国風な民族っぽい服?を着ている人が大半だが、中には俺みたいに鎧を着ている人や杖を持っている人やらコスプレっぽい人がいる。勇者とか、魔法使いとかだろう。こう見ると漫画とかアニメで見た世界だ。鎧を着ている俺も勇者とかに見えているんだろうか。実は、魔王の臣下なんだよなぁ。
などと考えていると、今度は香ばしい匂いがしてくる。
「おおっ!パン屋だ!」
腹減ってたんだよな。店内を見ると、大盛況だった。
「大盛況…マジかよ……」
ナナからもらった紙を見る。
字は汚いが、俺のためを思い分かりやすい大きい字で書いてくれたと思うと嬉しいな。
『1、はやりの みせで まおうの ぶかと なのる』
うぉお、無理無理!実際に人が結構いる所を見るとやる気が落ちる。人前で話すの苦手だし!
「どうしよ」
悩みながらも腹がぐぅと鳴る。腹が減ってるのは事実。しかし入れば名乗らないといけないのは嫌だ。
「どうしよ〜」
悩んでいると、
「あのー、邪魔なんだけど」
後ろから声。細かく言うと後方下から声。
声の主を見ると、ローブを着た子供だった。
「さっさと入ってよねー。勇者のくせに判断が遅い遅い」
「あっ、スイマセン」
咄嗟にドアを開けてしまい、子供がささっと中に入る。鎧を着ていたからだろうか、勇者と間違われていた。
「ちょっと、私も入るんだから開けててよ。気が利かなーい。勇者だからって生意気しないでよねー」
「あっ、ハイ」
躾のなってない子供だった。言う通りにするのは、俺にも非があると思ったからだ。決して体が勝手に従ったとかパシリが根についてるとかではない。
良い匂いだなぁ。
パンの香ばしい匂いを思いっきり楽しむ。焼き立ての、温かい美味しい匂い。種類もあるし、高級なパン屋とかでもある黒いパンとかお洒落なパンもある。でもやっぱり良くある塩パンとかグラタンパンが好きだ。
朝食用に2つづつ取る。値段も多分おそらくだが安い気がする。食べ歩き用には揚げた肉のサンドイッチパンだ。揚げ物とか久しぶりだ。
オヤツ用のフルーツサンドイッチもある。なんと驚くことに断面がお花みたいになってる。何というか、すげえ。
ウキウキな俺は列に並んだ。他の人の選んだパンを見て楽しむ。次はジャムパンを買うのも良いかもしれない。当然だが店のジャムパンは菓子パンのジャムパンよりビックリするぐらい美味しい。
俺は他所様のパンを見ながらウキウキワクワクしていた。
そして、思い出した。指示のこと。
まぁ、名乗る時に大声で無闇に叫ぶのは痛々しいし、恥ずかしいから買ってからでいいだろう。それか買う時に自然と名乗るか。そうしよっかな。誰に言ってるんだ状態になるより良いだろうし、勇者っぽい身なりだし冗談と店員も捉えるだろう。
「預かるよ!」
順番が回ってきた。威勢のいい体格のいい笑顔のオッサンだ。出来れば隣の綺麗なおねぇさんが良かったけどしょうがない。
「計2180ベルだよ!」
いつ言おうか。
「ほいっお釣り!」
いま、言うか?
「どうしたっ?兄ちゃん!」
言ってみるか?
「あっ、おっ俺」
「?」
「あのっ、実は魔王の臣下、なんです」
「何だって??」
「今日、町を支配しに来たんです。へへっ」
へらっとして、冗談ぽくする。ちょっと怖いし、目は合わせない。
大人なら笑って流してくれるか?チラリと店員を見る。
「・・・おい、てめぇ・・・・」
さっきの笑顔は一転、眉をピクリとさせるおっさん。
やばい。
「町を支配するってぇどういうことだ!!」
大声で怒鳴る。隣の綺麗なお姉さんも周りのお客さんもこっちを見る。
「俺たちの敵かぁ!?ぶっ殺すぞ!!!!」
「ひぇっ」
「俺は無能力者のしがないパン屋だがなぁ・・・」
恐ろしい怒気でお釣りのコインを指で掴み、コインを溶けかけのチョコの様にグニャリと潰す。
「命がけでっ!町とパン屋を守るぞォ!!」
死ぬほど怖い!!
「す、スイマセン!失礼しますっ!!」
俺はトレーに置かれたお釣りをアワアワと大体取り、慌てて店を出る。客の目が痛い。
怖い、怖すぎる。俺はトンデモナイことをしたのでは?
走ってパン屋からオッサンが出てこないことを確認しつつ隠れる様に公園に入る。
殺されるかと思った。マジでなんであんな怖いの。
心を落ち着かせるためにパンを取り出して食べる。美味い。
店にいる人たちも絶対頭おかしいやつだと思ったよな。でも冗談って思った人もいるはずだ。子供の言ったことだぞ。あんなに一方的に怒ることない。大人気ないってああ言うのを言うんだよな。余裕がない大人はダメだ。しかも人に渡すお釣りを指で潰すのも最悪だ。焦ってトレーに少しお釣り取り忘れたし。仮に魔王の部下でも俺はお客さんなんだから神様の様に扱えとは言わないが、それなりに扱って欲しかった。大体お金を扱う商売なんだし俺がお釣りを全て取ってから怒るべきだ。おれが置いてきたお釣りはどうするんだよ。ポケットマネーにするのか?どうせなら募金していて欲しいわ。パンは美味いが接客はダメだな(早口)
ため息が出る。上司に指示されたことをしてるだけなのに、最悪だ。まじ鬱だわ。
項垂れながらもそもそ食べていると、
「あの、すいません」
声がした。顔をあげると、
イケメンがいた。
金髪に濃い青い目。鎧に身を包み、いかにも勇者だった。鎧も俺のより立派。
ザ・正統派勇者。
申し訳なさそうに、こちらに話しかける。
「ちょっとお聞きしたいんですけど」
「あっ、ハイ。なんですか?」
残りのパンを口に詰め込みながら、何となく俺は立ち上がる。背筋が伸びる思いだ。イケメン勇者効果。
「パン屋にいました?」
イケメン勇者は爽やかに聞いてくる。
「・・・・えっあのっ」
明らかに狼狽する俺。
「あっ、大丈夫ですよ」
そんな俺に優しく笑いながら言う。くそっ、優しい。
「パン屋で“魔王の部下を”名乗る者が現れたって町の人から聞いて。一応調査の依頼を受けたので、声をかけさせてもらいました」
あくまで低姿勢。後光がさして見える。
「お釣りも預かってますよ」
「あっ、ありがとうございます」
そう言って残りのお釣りを俺に渡す。眩しいわ。少し不思議そうにイケメン勇者はこちらを見る。
「失礼ですが、男性ですか?」
「あっ、はい」
イケメン勇者はニコリと笑いながら
「髪も長いし、綺麗だったので女性かと思いました」
とかチャーミングなお顔で全女性即オチな事を言う。
ひょえぇぇ。コレがイケメン特権。こんな事言って許されるのはカースト上位人生イージーモードのイケメンだけだわ。怖い怖い。
「あっ、あの、パン屋では騒ぎを起こしてすいませんでした。あんな大ごとになるなんて…」
イケメン天然ライトで目が潰れるので目は合わせない。
「あぁ。多分大丈夫ですよ。誰も信じてないですし」
それはそれでムカつくな。
「最近物騒なので念のための確認です。」
「あっ、えっ、最近物騒なんですか?俺生後てか転生2ヶ月の実質赤ちゃんなので」フヒッ
「えっ?」
「あっ、いや、こっちの話です」
俺も顔面良くなったからせめて特有のフヒッってやつ辞めたい。
「アナタは“魔王の部下”では無いですね?」
改まって聞かれる。どうしよ。正直に言ったら捕まるかな。答えに詰まる俺に勇者は少し不審がる。やべー
「あーいたわ」
勇者の後ろから聞いたことある声。
「見つけたかー?アダシノ」
後ろから勇者の足を蹴る。パン屋の入り口で会った礼儀の知らない子供だ。
「あれっツクシ。来たのか」
「ツクシさん、だろー。生意気ー」
勇者と知り合いらしい。
ツクシと呼ばれた子供が俺を指差す。
「あーコイツ。コイツが“魔王の部下”とか騒いでた。貧弱そうだし?絶対嘘」
「嘘じゃ無いわっ」
生意気な言葉に思わず答えてしまった。
俺の言葉に勇者アダシノとツクシが反応する。ツクシは一歩下がり、アダシノは素早く剣を構える。ヤッチマッタ感。公園にいた人達もコチラを見る。
『2、さわぎを おこして ちゅうもく させる』
脳裏にメモが横切る。ここか?ここなのか?
『3、まちの おしろに むかって てをむける。』
ちょっとズレれば、俺と町のお城っぽい金持ちそうな家の直線上に勇者を配置出来そうだ。
半歩ズレる。ゆっくり城に向けて手を向ける。この状況だと勇者に手を向けている様に見えなくも無い。
勇者の剣を握る手が強くなった気がした。生意気な子供もこちらを注意深く見ている。
空気が重い。問題はこの次だ。
『4、なんか ながめの じゅもんを となえる (おわりは かしこま! って さけんでね)』
何か長めの呪文てなんだよ!何が起こるかわからないが、でも、この空気、言うしか無い。「なーんちゃって。てへぺろ」じゃもう済まされない。どんな呪文でも良いだろう。適当な文を繋げよう。えーとえーと
「天翔る星の輝きよ、時を超える水晶の煌めきよーー汝のあるべき姿へ戻れーー体は剣でできているーーぴーりかぴりららぽぽりなぺーぺるとエドワードエリックアルフォンスエリックリップヴァーンウィンクル」
「じゅ、呪文か?」
俺の嘘呪文に対して、慌てたようにアダシノが言う。
「いやー魔力は感じないしー?ブラフじゃないかな。聞いたことないし。せっかくだし最後まで聞いてやろーぜ」
ツクシはあっけからんと言う。くそ。どんな結果になるか分かんないがコレにかけるしかない。あまり魔法もの知らないからな魔法少女も分野じゃないし。
「エートエート寿限無寿限無〜五劫の擦り切れ〜」
もう何も出てこない。もういいか?
「詠唱破棄!かーらーのー」
「かぁあしこまぁぁ!!!」
魔法もの好き。プリパラ好き。学生時代に書いた。
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