3.〜俺の可愛い魔王様??〜
前回までのあらすじ。
ここ、異世界。
「異世界…」
「そうじゃ。さて、どこから話をしてあげようかの」
異世界…。昨今、創作世界に急激に発展した異世界転生モノ。
「我は部下を探していての。丁度器となる身体には事欠かなかったが、それを入れる魂がなかった」
現代主人公が異世界で絶大な能力を振るう。
周りが苦労している敵も難なく倒し、ムカつく噛ませ犬や煩い大人の前で軽々と超大魔法を何発も出して圧倒させる。
「ここの世界は易々と魂は手に入らないから、色んな世界について調べていたんじゃ。
するとな、お前たちの世界ならいけるんじゃないかと思ったのじゃ。ふふ、流石我」
苦労せずチートな技を連発し「そんな凄い事なの?」と首を傾げる主人公。
「偶然にもそっちの世界では『異世界転生もの』が流行ってるとの事じゃったから説明も簡単じゃろと考えたのじゃ。現にお主も知ってるみたいだったしの。狙いを定めてる時に一発で綺麗に死んだ魂があったからの、運命を感じたのじゃ。」
したり顔で少女はこちらを見る。
そんな世界、
「有り得ないな」
「は…?」
流石に二次元と現実の区別はついている。
体が元気なのも病院じゃないのも、昏睡状態になってる間に体が完治して療養のため病院からどっかに移動したんだろう。
目覚めた混乱状態の人間にそんな妄想を話すとは嘆かわしい。親の顔が見てみたい。
俺はため息をつく。
「そう言うの、良いから。早くお父さんかお母さんと代わってくれる?」
「な、何じゃと!ここには我しかいない!話を信じないと言うのか!」
信じられないと言った目で少女は驚く。
「あとね、その口調は辞めた方が良いよ。今は可愛いから良いけど大人になったときに恥ずかしくなるから」
「く、口調は元からじゃ!舐めた口を聞きおって!このっ!」
「君こそ舐めた口だよね。というか君、誰?」
努めて冷静に冷めた目で見る。
冷静な指摘に戦慄いていた少女だったが、
「⁉︎た、タイミングが狂ったが、耳をかっぽじってよく聞くがよい!!」
慌てて勢いよく立ち上がり、えへんと背を伸ばす。
「我は悪の魔王となるもの!
アーガイヴァンズ=バウルウッド=ナナ!じゃ!
ナナちゃんと呼ぶが良い!」
ばぁーん、と効果音がつきそうな感じ。
俺はやれやれとため息をつく。
「悪の魔王って、魔王の時点で悪属性だからクドイかな。魔王でいいと思うよ」
「おお、そうか」
「あと魔王なのに、ちゃんづけで呼ばせるのはちょっと安く感じるから辞めた方が良いかもね」
「おお、」
では。といってこほんと咳払い。
「我は魔王となるもの!
アーガイヴァンズ=バウルウッド=ナナ!じゃ!」
ばぁーん、と効果音がつきそうな感じ。
「良いね」
「流石じゃな!早速役に立つではないか」
お互い親指を突き出す。
「じゃあ、誰か大人の人を…」
「だからじゃな!」
さりげなく誘導したがダメだった。ナナという少女は俺を現実を受け入れない人間として認識したようで、「手のかかる困ったちゃんじゃな」と呟きながら棚の引き出しを開ける。
引き出しから鏡を取り出して俺に渡して厳かにうなずく。
「真実と向き合うが良い」
渡された鏡を見る。顔を映す。
そこにいるのは、俺じゃない。
そこにいるのは、肩ほどの長さ髪を持つ綺麗な顔立ちの人間だった。しかも髪色は淡い赤みがかった紫色だ。
「おいおいマジか」
これは現実か?
「整形じゃないぞ」
先に言われた。確かに事故後の整形なら元の顔に戻されるはずだ。
「マジか」
「マジじゃ」
マジかぁ。異世界転生ものの主人公じゃん?
それなら。
「つかぬ事を聞くけどさ」
「なんじゃ」
異世界転生ものなら。
「俺の能力ってなに?」
チートな能力。
「?」
秘められし無尽蔵な魔力。
「そう、無二唯一の存在。」
「??」
俺の質問を全く意に介さない様な顔をする。
「何を言っておるのじゃ?」
俺は馬鹿なことを聞いているのか?少し恥ずかしくなる。
「…いや、ここ異世界じゃん」
「まぁリュウジにとっては異世界じゃな」
肯く少女。
「なんか、魔法とか使ったり、超能力的なものあったりするのかなぁって思ったんだよね…」
確かに、俺は異世界に転生した様だ。しかし転生しただけで、邪悪な竜に世界が脅かされていたりとか魔法学校とかあったりとかその可能性は無いということももちろんあるな…。
しかし、少女の格好といい、転生されられた事実や魔王に憧れる姿勢を見るとその可能性が高いと思った。だから聞いたのだ。
でもそんな言い方されたら俺が的外れなオタク発言してる痛いヤツみたいじゃん。
「あぁ。あるぞ」
「あるんかい!」
俺、痛いヤツじゃなかった!正しかった!
「そちらの世界から見たら珍しいじゃろうが、時期に慣れると思うぞ」
何てこと無い様に少女は言う。
「俺のっ!」
「ん?」
「俺の、能力は何だ!?」
やや興奮気味になってしまい身を乗り出す俺に「近い近い」と後ろに身を引く。
「特にないぞ」
えっっっ
「その器の身体は私が造ったからな。ただの器にただの人間の魂じゃぞ」
「特別な能力など、無くて当たり前じゃろ。第二の人生を歩める事に感謝するが良い」
えっっっ
「えっっっ」
「え?」
「うそ…」
「嘘じゃな…何じゃ何じゃ。泣きそうな顔しおって」
折角奇跡的に生まれ変わり、しかも超常的な能力が存在する世界にいるというのに、無能力。流れ的に魔法に対する無効化体質とかそんなんでも無い。俺は…
「俺はどこ行っても結局無能なモブなのかよ…」
「ええぃ泣くな泣くな」
無様な結果にむざむざ泣く俺を、少女はばつが悪そうに慰める。
しくしく泣く俺を少女は背中をさすり、うーんとうなる。
「…まぁ能力は無いが、与えてやれるかも知れん」
「……え?」
「その身体は少々特殊でな、私の力により生を得ておる。という事はだ。その身体には私の魔力が多少なりとも宿っているという事じゃ。何か能力を授けれぬか試してみようか」
そう言うと、少しの間部屋から出て行った。
子供相手に泣いてしまい少し気恥ずかしい状態だ。涙を拭う。
「ほれ、コレはどうじゃ」
戻ってきた少女の手には小さな小瓶。薄い飴色の液体が入っている。
「一気に飲むと良いぞ」
「コレは?」
「私の魔力を溶かして精製したものじゃ。多くの能力を持っていたのを危惧した知人が見兼ねてこういうのを作ってくれたのじゃ。コレには私の能力の一部が入っているからな、私の魔力と親和性が高いからきっと使えるはずじゃ」
蓋を開けると、ふわりと匂いがする。古ぼけた様な懐かしい様なそんな匂い。嫌な匂いじゃない。
持っている手は震えるが、やるべき事は決まってる。
瓶を口元へ持ってきて、傾ける。
ごくり。
一気に飲み干す。不味いのが定番だが、不思議と美味しい。夏に冷たい水を飲んだ様な、身体に冷たいものが行き渡る感覚がある。
「どうじゃ。ほれ、」
少女が植木鉢から一握りの土を持ってきて俺の掌に乗せる。
「動くようイメージするのじゃ。より鮮明に。よりリアルにな」
しかし幾ら念じても、土は動かない。
「土なんか動かないぞ…」
「違う違う。土ではない。砂じゃ。砂の感覚を思い出すのじゃ。砂を触ったことはあるじゃろ。それを鮮明に思い出せ。
砂の一粒一粒を動かすイメージじゃ」
一粒をゆっくり動かすイメージをする。体育の授業中に話を聞きながらいじった土に似ている気がする。少し湿った茶色粒。それを指で摘んで意味もなく盛り付けたり、落書きを消す時に手のひらで擦ったりした時の感触を思い出す。小さくて、ザラザラもサラサラもしている感触を、ゆっくりと慎重に思い出す。
すると、
「浮いたぞっ」
手に乗っていた砂の数粒が浮いて、すぐに掌の土に落ちる。
驚きと感動で少女の顔を見る。
「おお。上手いではないか。まだ一握りは早いか。だが鍛錬を積めば一握り位は動かせそうじゃな」
嬉しそうな俺にニコニコ顔で少女は言う。
「私はナナ。ナナ様でもナナちゃんでも好きに呼べが良いぞ」
こうしてナナと俺の生活が始まった。
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