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18.【挿絵】〜美しき当主様に会いに〜

前回までのあらすじ

本当に申し訳ない。


 俺たちは、いや、ナナ以外の俺たちはいささかモヤモヤしながらご飯を食べ進めた。

戦犯を咎めるも本人はどこ吹く風というか我々の真意をきちんと理解していない感じだった。

 折角の他人の作る、しかもお店の料理。もっと純粋な気持ちで舌鼓を打ちたかった。

柑橘系のソースがかかったハーブが練りこまれているつくねに、パリパリとしたチーズのようなものが添えられており、隣には野菜でコントラストも最高だ。

 空いていた皿に運ばれてくるのは、出来立ての温かい柔らかいパンと硬めのパン。テーブルの中央には個包装されたバターにマーガリン、ジャムが置いてある。

次に出てくるのは魚料理だった。

赤みの魚に薄い衣で揚げており、上からたっぷりのタルタルソースがかかっている。チーズの風味も感じられ、シーザードレッシングの様な味の深みもある。

口の中が、先ほど味わった柑橘の濃いソースの味からいい感じに落ち着く。下に添えられているたっぷりの玉ねぎも相性抜群だ。

最後はデザート。

果物のゼリーと切った果物だ。

シンプルな最後ではあるが、今まで食べた濃厚な味をさっぱりとした爽やかで軽やかに戻す。今は昼だ。この後も動くだろうし、むしろゼリーや果物のような

重くないデザートはぴったりなのかもしれない。

食事の途中は何となく「お、美味しいなー!」と下手な演技で別室に届くように叫んでいたが、

「うまかった~!」

 やがて夢中になっていた俺は素直な感想を思わず叫んでしまう。なにせ今まで薄味で同じような食卓だったからだ。食に興味ない俺ではあったが、こんなに美味しいご飯は久しぶりだった。

 まるで今まで水しか飲まなかった人間に美味しいジュースを飲ませたときのような感覚だ。ばちばちと鮮やかな味が感覚となり満足感がすごい。


「紅茶ある~??」

 マジナが果物を頬張りながらアダシノに聞く。

「あー、紅茶はまだ無いんだ。そろそろ回ってくるとは思うんだけど…」

 気まずそうにアダシノが言う。

「回ってくる?回覧板形式なのか?」

 聞きなれない言い回しに訳の分からない尋ね方をしてしまう。

その言葉にアダシノはハッとした表情になり、そのあとナナを見た。

「そうだ。お礼を忘れていたな。ナナちゃん、ありがとう」

その言葉にナナはこちらを向く。口の中で果物を転がしており、よくわかっていなさそうだ。

「ナナが何かしたのか?」

代わりに俺が聞く。

「紅茶はこの街にほぼ流通してなかったんだ。その原因が前の当主なんだよ。紅茶自体、流通は少ないものだったんだけど、レアな物だからって当主が屋敷にため込んでたみたいで。今回ナナちゃんが当主を変えてくれたおかげで紅茶の流通がこっちまで届くようになったんだよ。」

「おぉそうじゃった。今の当主はそういったものには固執しないタイプじゃからな。次期に溜め込んでいた茶葉の分は破格で売り出すと言っておったな」

「え?当主が変わったのとナナが関係あるのか?」

 俺の言葉に呆れたようにナナが言う。

「町に行った時のことを忘れたのか?あの日、権利は譲渡されたじゃろ」

「あぁ、そうだったな。忘れた」

 マジで忘れていた。

「仕事は新しい当主を立てて、そやつにお願いしたのじゃ」

「そうだったのか」

「ああ。しかも紅茶だけでなく、白砂糖みたいな高価なものまでなんだ!皆喜んでる」

 嬉しそうにアダシノは言う。

「あやつはそういった物には興味がない。欲の少ないタイプじゃ。前当主が私腹を肥やすために取りまくっていた余分な税も取らぬと言っている」

「町を代表してお礼を言うよ!ありがとうナナちゃん」

 イイハナシダナー。俺は喜ぶアダシノを見る。本当に嬉しそうで、ナナは良いことをしたのだと分かった。

「新しい当主様にもお礼を言っててくれ。確かすごい美人なんだろ?」

「そうじゃ」

「俺はまだ見れてないんだけど、まるで後光が差すような雰囲気で町中の男がメロメロだって果物屋の奥さんが怒ってたよ」

 その言葉にナナもマジナも笑う。

「確かにメロメロなるね〜!めっちゃ魅力的だもんね!」

 そんなにか?俺も興味が湧いてきた。

「リュウジ、お主は惚れぬと思うが万一惚れたら我に相談せい」

 俺のそんな気持ちを察してか、ナナは咎めるような言い方で言い放つ。

「リュウジは抗えるかな〜?」

 マジナはくつくつと煽るような悪い笑顔でこちらを見る。

「ふんっ。問題ないに決まっておるじゃろ」

 言い捨てるようにナナが答える。

「何でナナが答えるんだよ」

 俺は呆れたように言うよりほかなかった。魅力的な後光の差しているような美女とはどんな姿だろうか。確かに気になるな。

「ふふふっ。リュウジってば会いたそ〜な顔してる。会えるんだよね、ナナ?」

 楽しそうにマジナはナナに言葉を投げた。

「………まだリュウジには早かったかもしれんな」

 口を尖らせてナナは拗ねるように言った。

「この後、新当主へ会いにいくのじゃ。そこへは右腕あるリュウジの顔合わせもしておきたくての」

 ナナは口を拭く。

「リュウジ、決して惚れるでないぞ」

 強い視線でこちらを見る。何か怖い。

「別に惚れないって」

 視線を逸らしながら一応否定しておく。

「心配じゃの〜」

 やれやれとわざとらしくため息をつき顔を横に振る。

「だから惚れないってば」

 俺らのやりとりを見ていたアダシノが笑う。

「はははっ!仲良しだなぁ!」

 あまりに爽やかに笑うもので、明るすぎて俺は恥ずかしくなる。

「いや、別に仲良くないし」

「なにっ!?仲良しではないかっ!」

「ナナには言ってないから!」

「我らは仲良しじゃろ!?」

「あー!もーうるさいっ!」

 大声で俺はナナを制する。ソレを見てマジナは

「ナナ〜。リュウジってば照れてるんだよ。キャワ〜☆」

などとほざく。キリがないな…。

 そんな感じで俺らは重い空気から抜け出し、うるさく会話をする事に成功した。ずっと重苦しい息苦しい空気だったらどうしようかと思っていたが助かった。

 「そーだ☆」ポンっと手を叩き、マジナは持ってきていた珠玉の草をアダシノに渡す。アダシノはソレを慌てて棚から出した布で隠した。

 それを見届けたナナは

「そろそろ行くか」

と声をかける。どうやら今から新当主様へ会いに行くらしい。

「もっと居ればいいのに」

 アダシノは残念そうに言う。折角居心地良くなってきたんだから、俺もアダシノに賛成だ。マジナは自身の目の前でクルクルと指を回す。

「まーでもさ。ウチらがいたら、出たいものも出られないじゃん?」

 その言葉にハッとする。

 そう言えば、扉の中には会うと気まずい人がいるな…。しかも結構時間が経っているから、落ち着いている筈だ。

気付かされた俺はそそくさとテーブルの上を整える。アダシノも残念そうな顔をしたまま、何も言わずに皿を運び出した。



「じゃあ、またな」

 アダシノは眩い笑顔で手を振る。

「じゃね〜☆」

「じゃあの」

「お、おう」

 マジナとナナも気軽に手を振る。あのスクールカースト上位系主人公に手を振ってもいいのか微妙な気もしたが、2人に倣って俺も小さく手を振る。

 アダシノは嬉しそうに俺にも手を振りかえす。何だか陽キャに認められた気がして気分が良い。




「いやー楽しかったね!」

 マジナが鼻歌まじりに言う。禿同。俺は大きく頷く。

「外で人と食べるってのもいいもんだな」

「ね〜♡︎」

 スピカ団を出て暫く歩きながら、楽しさの余韻を味わっていた俺とマジナの弾んだ声の会話にナナはムッとした様子だった。

「なんじゃなんじゃ。我と2人だけでは寂しいか?」

「そうじゃないけど、大勢の人と和気藹々と話すのは楽しいもんだろ」

「ん〜、そうかの〜?」

 ナナは渋るような声を出す。

「そうだよ〜っ!」

 先を歩いていたマジナはこちらを向き、ナナをギューっと抱きしめる。

「それに2人だけじゃ世界征服は難しいじゃ〜ん☆」

「え〜?そうじゃの〜」

 キャピってるマジナにナナはまだ渋る声だ。

「確かにな。俺はまだまだ未熟だし、人数は多い方がいいかもな」

「それはつまり、」

「ナナと2人も楽しいけど、人数不足ってのは事実だろ」

 反論しようとするナナに被せるように俺は話を続ける。

「別に人数増えたところでナナと話さなくなるって訳じゃないし、寧ろ人が増えたら色んな奴がナナと仲良くなれて、ナナも今まで以上に楽しくなるかも知れないぞ」

「そうかの〜」

 ナナはむむむとするが、先ほどより眉間の皺はほぐれているようだ。

「そうだよ。想像してみろよ。あの家には部屋もあるからその分仲間も増えて、テーブルも大きくしてさ。料理が得意なやつがスピカ団みたいな美味しいご飯つくって、風呂の順番をジャンケンで決めたりしてさ。寝るギリギリまでゲームしたり本読んだりして、寝落ちしてる奴を起こして寝させてさ。どお?楽しそうじゃないか?」

 俺の言ったことを想像したようで、ナナは口元が緩んだ。

「そうじゃの。そう言われると楽しそうじゃ!良いのぉ!!」

 先ほどの渋い態度からコロリとうって変わり前を見てニコニコしだす。

現金なやつだ。楽しそうに想像するナナを俺は眺めた。

 もし本当に沢山仲間が増えたら嬉しいが、そうしたらナナは俺にしてくれたように世話を焼くだろう。ナナはうるさいが、よく見てくれる。強く叱ったりもしない。皆ナナを好きになるだろう。ナナの良さを知ってもらうのは嬉しいが、少し寂しいな。

 そんな俺にくるりと向き、ナナは楽しそうに優しく笑う。

「なぁに、案ずるなリュウジ。どんな奴がどんだけ来ようとも、我の一番はリュウジ、お主だけじゃぞ」

 その優しげな笑顔に、俺は泣きそうになる。何だろう、ナナが背負っている夕焼け空がそうさせているのだろうか。

「………恥ずかしい事を言うなよ」

 俺は理由も分からず込み上げる涙をかくするように下を向き、声を出す。

「ラブラブだねぇ」

 マジナは苦笑のような笑いをしながらこちらを見た。

俺は何も言えずただ歩く。ナナは「その通りじゃ!」といつものようなドヤ顔でマジナに親指を立てる。

「あ〜ついた!」

「歩きだと結構かかるもんじゃのぅ」

「坂の上だもんねぇ〜☆」

「ここが当主がいる所か…」

 下を向いていた俺は顔を上げる。ここは…

「爆発で壊した所じゃないか!?」

 驚いて涙が引っ込む。確かに近づいているなとは思ったが、講堂とかなんかそう言った公的な場所だとばかり思っていたから、ここに人が住んでいるとは…。

 門番はいないようだが、大きな門扉。玄関らしき場所には縦に伸びた大きな入り口、すげぇ。

「良く気づいたね〜☆悪き当主の根城を爆発で壊された名所として保存させるらしいよ〜☆こちらになりまーす!」

 マジナは勝手に庭に進みバスガイドのようにエアーマイクを持ち、反対の手でお上品に指す。見てみると、広い部屋の屋根と壁がボロボロになっていた。

 部屋には何もない(片付けたのかもしれないが)ようで、伽藍とした寂しい空間が広がっていた。

「すげぇ。これナナの魔法だよな?」

 大破した部屋をみて、俺は言う。空飛ぶだけじゃなくこんな魔法も使えるとは。

「よせよせっ!そんなに褒めるでないっ!」

「まだ褒めてねぇよ」

「そんでぇ、ココが麗しい新しい当主様のお城!」

 部屋を眺めていた筈のマジナはさっさと扉のほうへ行き、ドアノブに手をかけていた。

「早っ!?」

 俺の驚きをよそにギギギ…とマジナは扉を開ける。音は古く重々しい感じだが、予想に反して簡単に開けれたように見えた。

「待てよっ」

 2人はあっさり入ってしまい、俺はそれを慌てて追いかけた。



 中はとても広く、豪奢な造りだった。個人のお屋敷、というより範疇を超えている。

 入り口を入ると、中世ヨーロッパのお城ような大きなロビーになっていた。装飾の施された大きな柱に、品の良いテーブルと柔らかそうな椅子。奥から始まる階段には途中に踊り場があり、花台にシックな花瓶、ピンクと白の花束が飾られていた。

 床には絨毯も敷かれており、あまりにフカフカなので土足で踏んで良いのか不安になってしまう。

 俺は気を遣って絨毯の端で柔らかさを堪能していのに対し、ナナとマジナは気にせずズカズカと土足で踏み荒らし「ふかふかじゃの〜」と楽しんでいる。

「おーい!来たよー!」

 マジナが階段の上に向かって適当に声をかける。


「お待たせしてしまい、すいません」


 鈴のような、美しく、懐かしく、空気が震えるような声がした。

声のする方を見る。



挿絵(By みてみん)



 美しい。



 それが最初の感想だ。感想というより、思うより先にそんな言葉が出てくる。

階段の上にある椅子に女性が腰掛けていた。

遠くても、僅かな光に照らされていても解る。美女だ。

長く麗しい髪は絹糸のように艶やかでしっとりしている。肌は陶器のように白くなめらかで傷ひとつない。長い睫毛に薄い唇。衣装も白く、皺ひとつない美しさだ。

 毅然とした座った姿に思わず膝をつき頭を垂れたくなるような。

「なんじゃなんじゃ。上から見くさりおって、出迎えんか!」

 ナナが不満そうに文句を言う。こんな美女にそんな粗野な言い方をするとは呆れる。

「あら。…………車椅子なので少々お待ち下さい。今運んでくれる義弟がいませんので」

 良く見ると、腰掛けていたのは車椅子で、美女は儚げな声を発すると、キィキィと車椅子を動かして消えてしまった。あの細い腕でタイヤを回すのは骨が折れるだろう……。

「おい、ナナ!あの人は車椅子だったじゃないか!大変だろうに、可哀想な事言うなよ!」

 抗議の声を上げる俺をナナはジロリと見て、何も言わなかった。心地悪い。

 やがて一階の奥で機械の扉が開く音がして、二階にいた美女が姿を現した。

「お待たせいたしました。出迎えもせず、申し訳ありません」

 美女が近づくたび、フワリと甘い匂いが漂う。香水臭くなく、生花のような化粧品のような匂いだ。

「貴方がリュウジ様ですね。ナナ様よりお話は伺っていますよ」

 キィ…。車椅子が音を立ててコチラへゆっくり近づく。

美女は俺から目を離さず、俺も美女から目を反らせない。どこか光を映さずぼやけた瞳は、底なし沼のようで気づかないうちに俺を釘付けにさせる。優しく微笑み、話す美女はまるで後光のさす女神様のようで力が抜けるようだ。心臓は高鳴り五月蝿い位だ。俺の瞳の中には美女の長く妖しい長い髪と睫毛がキラキラと艶めき、鼻腔には不思議なほど惹かれる甘い麝香の如き匂い。胸は苦しくなり、頭いっぱいに美女が入り込んでくる。

 手は汗ばみ、美女の白く美しい手が触れるであろう俺の頬はピリピリと神経を集中させている。

「そこまでじゃ、ハスカ」

 ナナが強い言葉とともに、美女が伸ばしている手を掴む。

その言葉に俺はハッとした。俺はぐらりと力の抜ける足に力を入れるが上手くいかず、片足をつく。右手で胸を掴み、クラクラとする頭に酸素を送るよう、大きく息をする。

「痛いです。ナナ様」

 ソヨギ、と呼ばれた美女は、ナナによって強く握られてる手を見る。

痛い、と言いつつ言葉には微塵も痛そうな声色ではない。

「リュウジは我の大事な右腕じゃ。そのような行動は慎め」

 ナナが離した手首をさすり、頬に手を当てる。

「まぁ怖い」

 ちっとも怖そうな声色ではない。ハスカ、ハスカ様は俺を見る。

「すいません、リュウジ様。お顔を良く拝見したくて、わたくし…」

 目が合い声をかけられると、頭がハスカ様の声でいっぱいになる。柔らかな声と身姿に鼓動が早くなった。

「あ、だ、大丈夫です…!」

 俺は語気を強くし、思い切り目を反らしてなんとか気を持ち直す。

「良くやった!その調子じゃリュウジ!」

 嬉しそうにナナが叫ぶ。

「嫌われてしまいましたね」

「いやいや!違います!コレはそのっ!美しすぎてっっ!」

 悲しそうな声色に俺は目を反らしたまま赤面して答える。見つめ合ったままだと、素直にお喋り出来ない気がした。

「とゆーかさぁ、顔合わせ終わったでしょ?そろそろお遊びはお終いにしない?」

 つまらなさそうにマジナが言う。

「おとーと君、遅いんでしょ?私が車椅子押すからさ」

 いつもの元気いっぱいギャルの様相とは思えないほど冷たい声だ。

「そうじゃな、リュウジの頑張りも見たし行くか!ほれ、二階じゃろ」

「そうです。二階です。ご案内いたしますね」

 ゆっくりと車椅子を回転させてハスカ様は俺に背を向けた。

かなり髪が長く、床にたっぷりと髪を乗せる姿は某国のお花をつけたお姫様を彷彿させる。器用に髪を避けて、先程来た一階の奥へと向かった。

 マジナとナナについて行こうと歩いた。

ガッ!

 俺はぶつかった。何に?壁か??俺にもわからない。

????なんだコレ。さっきまでマジナもナナも歩いていた場所だが、俺が通ろうとすると、透明なガラスのような壁のような何かしらで進めない。

「????おい、ナナ!」

 俺は焦ってナナを呼び止める。ナナは俺を見るとやや驚いたように言う。

「おや?なんじゃ。着いてきたいのか?」

「え?」

「残念じゃが、ここから先は男子禁制じゃ」

「え!?俺がここに来た意味は!?」

「ハスカとの顔合わせじゃ。それは今終わったじゃろ。リュウジの用は終いじゃ」

「え!?」

 勝手すぎないか!?何も聞いてないんだが!?

「大人しく待っとくのじゃ」

「え!?」

「じゃあの」

 ケロリと竹原式挨拶を言うとナナは2人の方へ駆け出した。俺も後を追おうと右往左往するが、一定の場所にガラスのような硬質な壁ができており入れない。

「…………なんだよ」

 俺は小さく呟くとフカフカの椅子にドッシリと腰掛けた。

………。

どのくらい経っただろうか。ここには時計がない。

 しかも最初は気づかなかったが、階段の側に大きな絵が飾ってある。醜悪さと傲慢さをミキサーにかけて混ぜたようなブヨブヨに太ったオッサン。ひと目見てコイツが前の悪き当主様だろう。

 気持ち悪いオッサンと2人きり。つまらん。

椅子の縁に顔を乗せた時だった。

………パチンッ。

 どこからともなく音がした。シャボン玉が割れるような、弾ける音だ。

暇をしていた俺は、どこから音がしたか探すことにした。

適当にぐるぐる探し回った俺は、あれ?と思い、手を前に出し壁があった場所を触ろうとする。

…ない。

…壁がない。

壁が、ない!

 俺は慌てて手をグルグル動かしかながら壁があった付近を練り歩く。ないな。

おぉ!壁がない嬉しさに俺は喜んだ。だけど、壁がないからといってどうしたものか。ハスカ様たちが向かった場所へ行くと、ロビーの奥の方にエレベーターがあった。車椅子だからエレベーターを使って二階に向かったのだろう。俺も二階へ行くべきか?でも邪魔にならないだろうか。

 そんなことをぐるぐると思考していると、庭が目に入った。よく手入れをされているようで、花は均等に並び、白い花を咲かせていた。生い茂った緑の葉は綺麗で、草木に詳しくないが雑草ではなく人の手によって育てられたことが分かる。

 俺は庭を良く見るべく、エレベーター横の通路に入った。通路には大きな窓があり俺の目的を果たすのにはおあつらえむきだ。

 庭を良く見ようと、窓に張り付いた時だった。


「お前は誰だ」


 冷たく低い声。明らかに敵対心を持つものの声だ。

バッと声の主の方へ体を向ける。

 黒く短い髪。右手には小さな植木鉢を持っていた。

 白いシャツを着ており、黒い短いズボンを履いている。小さな唇に大きなアーモンドアイの中性的な顔立ち。灰色と青の混ざった瞳は強くこちらを見る。

「侵入者か?」

 少年は背中に手をやると、すらり、短剣を取り出した。突然の出来事に俺は思わず身構えた。

 そんな俺を見て、少年は自身の手に持った花の植わった鉢を見た。

「この花はアフリカンマリーゴールドだ。知ってるか?」

 そう言いながら、花をこちらに見せるように持ち上げる。

「?」

 だから何だ、そう言おうと思った時だった。

少年は植木鉢を高く放り投げた。

「え…!?」


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