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17.〜主人公枠スピカ団〜

前回までのあらすじ

良い話だった


 朝になり、目を覚ます。

戦って魔法の練習して、昨日はかなり疲れたようでベッドに倒れ込みそのまま気絶するように眠ってしまった。

 陽の光で起きた俺は慌てて周囲を確認する。

…………マジナが来た跡はない。

 安心すると同時に残念な気もする。来たところでどうにか出来る勇気もないけどな。

 顔を洗うために鏡を見る。うん。良いんじゃないか?

前世よりかなりイケている。俺は決め顔をキメてみる。

うん。良いんじゃないか!?この顔のおかげでマジナも積極的だったのかも…。やっぱりイケメンて得だな。俺はムフムフと鼻の穴を広げてしまう。

「なーにを鼻の穴広げておるのじゃ」

「おわっ!!!!!」

 鏡越しに呆れたナナと目が合う。

「か、か、勝手に入るなよ!」

「何度もノックをしたんじゃが?折角起こしに来てやったというのに…」

 そう言ってナナは時計を指す。11時15分……。

「確かに寝過ぎたかも…」

 いつもならもう朝練している時間だ。本当に疲れていたんだなと俺はため息をつく。

「確かに寝過ぎたかも…じゃないぞ!今日はひるげをあの小僧と取るのじゃろ!?」

「!!!!!!!!!」

 その言葉に俺は飛び跳ねた!

アダシノ!そうだ、今日がマジナとアダシノとご飯を食べる日なのだ。

「やっっっべ!!!」

 俺は水でバシャっと一度だけ顔を洗い、適当にぬぐってから濡れた手で髪を結ぶ。そんな俺を見てナナはやれやれと大袈裟なポーズをとる。俺はその態度に文句を言う時間もなく床に落ちていた服を鷲掴みした。

「待て待てっ!」

 鷲掴みした服をナナが慌てたように取り上げた。

「何だよ。時間ないんだけど!?」

「この阿呆!折角の外出なのに皺くちゃを着る奴がおるか!」

「別に良いだろ。どうせアダシノなんだし」

「ダーメーじゃ!」

 別に良いのに。珍しく頑ななナナを今度は俺が呆れた顔で見る。

ナナは棚から服を引っ張り出し、「コレもダメ、コレもダメじゃ…!どうして全部シワシワなのじゃ!?」と叫びながら部屋を汚す。

 最終的には

「ほんっとーー!、は納得がいかんのじゃが、コレが一番マシじゃ!」

 とプリプリしながら黒いシャツを渡された。黒いから皺があまり気にならない。これ逆にオシャレじゃね?と言おうとしたがヤメた。怒られるのが目に見える。

「あーあー!本当は嫌なんじゃがコレを履け。全くもって不本意じゃ」

 今度は嫌そうな顔をしてズボンを渡される。大きめのズボンでシワもデザインのように見える。

「遅くなると夕方は寒くなる!この薄手のフードも羽織ると良い!」

 俺はへいへいと返事をしながら素直にズボンを履いてフードを羽織った。

「下でマジナが我々を待っておる。せめて水でも飲んで空腹を埋めるのじゃ」

「我々?ナナも行くのか?」

 連なって階段を降りると眠たげなマジナが待っていた。

「リュウジお寝坊さんだね〜☆」

「そう言うマジナも眠そうだな」

「私はリュウジに貰ったスマホにハマっちゃって」

「ずっと見てたのか!?」

 そう。俺のスマホは結局動かず、使い道もなかったので使えるマジナに預けることにしたのだ。

「ほれ、リュウジ。水じゃ」

 飲み次第行くぞ、とナナが声をかけてくる。

ナナはいつもの服に、いい匂いのする飴玉が沢山入った袋を手に持っていた。飴玉は透明に薄くピンクがかっており、ピンクの花びらのようなものが入っていた。

「何だソレ?」

「コレか?コレは当主様へのプレゼントじゃ!」

 そういえば、昨日マジナのカバンに赤い小さな花と、ピンクの花が入っていたな…。

「昨日マジナが持ってきたやつで作ったのか?」

 何気なしに俺が言うと、二人が驚いた。

「よく見とるの〜!」

「すごーい!」

 そんなに驚くことか?

「たまたまだよ。何か花に効能でもあるのか?」

 俺は照れ隠しで口早に聞く。最初に来た時のテーブルに置かれた花と同じだったとはなんかキモくていえなかった。その質問に二人はぴたりと止まり、ナナはすぐににっこりと笑った。

「これは食べたものを幸せにするのじゃ!」

「そんな美味しいのか?」

「甘美な味じゃ!」

「俺も食べたいな」

「リュウジは今のままで充分じゃ!」

 あまりにニコニコとするナナを見て飴玉に惹かれたが、実は俺は飴玉が苦手なのだ。喉に引っかかって死にかけた過去があるのだ。ダサすぎて誰にも言えないが。

「さぁゆくぞ!」

 ナナは大手を振って玄関へ行く。俺は慌てて飲んだコップをテーブルに置いて追いかけた。マジナは大きな欠伸をしながらゆっくりと扉を開ける。

「今日は良い天気じゃ!歩いてゆくぞ!」

 眠たげな俺たちを見もせず、ナナはズンズン進んでゆく。

元気なお子ちゃまだ。






「じゃーん!ここが門じゃ!」

「見れば分かるじゃん」

「知ってる」

 ナナの紹介に俺たちはややグッタリとして答える。目を擦りながら結構な距離を歩いた気がする。時間は…

「今何時だ??」

 目の前に手で輪っかを作りマジナは見回す。

「公園の時計は13時すぎだね」

「13時すぎ!?」

 お昼すぎてるじゃないか!?俺は驚くが、驚いているのは俺だけだった。

「まぁ大体ピッタリじゃん?」

「ひるげに丁度いい時間じゃな」

 口々に問題がないと言いたげな口振りだ。これはアレか。田舎時間的な感覚なのか。

「だいじょーぶだよ。スピカ団の場所わかるから!すぐだよすぐ!」

 俺の中では大丈夫じゃないんだが、この世界の人間が言うなら大丈夫か…。

「大丈夫じゃ!我もついて行ってやるぞ!」

 仲間だもんげ!と言わんばかりの笑顔でこちらを見る。

事前に連絡してないのに人が増えて大丈夫か?俺は不安になったが誰もそんな事気にしてないのでまぁ良いかと思った。田舎ってそんなもんだよなと思う事で自分を納得させたのだ。

「こっちこっち〜」

 マジナは角で手を振る。

 俺は何となくフードを被り、緊張しつつ町を歩く。

昼時のせいか人手がほとんど居なくて安心する。

「ここでーす☆」

 マジナはジャンッ!とポーズをとる。

そこには可愛らしい看板に手書きで“Spica団 お気軽にどうぞ(╹◡╹)”と書かれていた。ゆるふわでカフェかと勘違いしそうな雰囲気に俺は拍子抜けした。

「たのも〜!」

 と元気よくマジナは扉をがばりと開く。マジナの明るい声に、

「遅い!!!!!!!」

 マジナの声を上回る、鋭い声量が聞こえた。

 扉を恐る恐る見ると、扉のすぐ中に女の人が立っていた。

 金髪の髪をポニーテールにして、小さい白いリボンで結んでいるその女の人は、腕を組み眉を吊り上げ口を一文字にして、ハッキリと怒っているであろう事が分かる。


挿絵(By みてみん)



「遅いじゃない!」

 もう一度彼女は声を出す。俺は思わず謝ろうとした。しかし、

「別に良いじゃ〜ん☆12時って約束はしてないし!」

 悪びれずにマジナは言う。その言葉に彼女はムカっとしたようで、マジナを強く睨む。怖い。

「私たちは招かれた客人だよ?客人に会って早々そんなに怒るのは良く良くないよ〜」

 怒っている彼女を挑発する様に薄く笑いながらマジナは続ける。

「そうじゃそうじゃ。若いうちからそんなに眉間にシワを寄せていると、後でクるぞ」

 後ろでうむうむと大きく頷きながらナナが言う。その言葉にバッと眉間に手を押さえ、彼女は慌てた顔をした。しかしその顔はすぐ怒りに変わる。

「って!怒らせたのはあなた達でしょ!?」

 マジナとナナは二人して「?」といった不思議な顔をする。

「?じゃ、ないわよ!」

 全くもう!とプリプリと怒る彼女の肩を叩いた者がいた。

「ヒカリ!ごめん!俺が時間指定しなかったのが悪いんだ」

 爽やかボイス。アダシノだ。

「アンタももっと怒りなさいよ!アンタだって11時くらいから扉前で立ってずっと待ってたじゃない!」

「良いんだよ。俺が待ちたくて勝手に待ってたんだから」

「どこまでお人好しなのよ!」

 ヒカリと呼ばれた彼女はアダシノにも怒る。11時って俺はまだ寝てた…。すまん。

「ごめんな〜、リュウジ、マジナ。…あ!君も来てくれたんだ!」

 ヒカリが部屋の中に入り、アダシノが出てくる。アダシノは想像していなかったであろう新しい客人を見て驚く。ナナはアダシノを見てニッコリと手を挙げる。

「この間は挨拶もせんで悪かったのう」


では。といってこほんと咳払い。


「我は魔王となるもの!

アーガイヴァンズ=バウルウッド=ナナ!じゃ!」


 ばぁーん、と効果音がつきそうな感じ。


「おぉ〜!カッコいいな!!!」

 アダシノは楽しそうに拍手をする。子どものノリにも合わせられるとは流石主人公枠だな。

「そうじゃろう!リュウジと一緒に考えたのじゃ!特にな!この!指の開き具合!バシッと決まっておったじゃろう」

「確かに指先まで意識してるのが伝わってきてたな!凄かったよ!」

 気を良くしたナナは鼻息を荒くしながら力説をする。アダシノはそんなナナに子どもを相手にするようにわざとらしく大袈裟に褒める。まぁ子どもなのだが。

「リュウジ!こやつは良い人間ではないか〜!」

「別に悪い人間と言った覚えはないが…」

 嬉しそうに目をキラキラさせながら勢いよくこちらを向く。

「あらあら〜。いらっしゃ〜い」

 騒々しく中に入ると、のんびりとした優しい声がかかる。

そちらを見ると、優しげに微笑む大人の女性がいた。

「あ、ユキナさん!この人たちが話してたリュウジとマジナ!そしてナナちゃんです」

 アダシノは女性に紹介する。

ユキナと呼ばれた女性は、真ん中わけの淡い水色の髪を腰まで伸ばしており、優しげな表情をしていた。品のあるワンピースを着ており、大人の雰囲気が漂う。

「私はユキナと言います。ここのスピカ団の副リーダーです。あ、此処でカフェもやってたりするの〜。よろしくね」

 にこ、と優しく微笑むユキナさんにこちらの頬まで緩む。あの可愛らしい看板はそのためか。

「ユキナさーん!」

 マジナが床を蹴り、ガバッとユキナさんに飛びつく。そしてギューッと力強く抱擁しだした。あんなに激しく飛びついたのにびくりとも動かないなんて、実は凄い人なのでは…。

「あらあら〜。マジナちゃんだわ〜」と何事もなかったようにユキナさんはマジナの頭を撫でる。

「マジナはユキナさんとと知り合いだったのか?」

 アダシノが尋ねる。

「そだよ〜✌︎ゴリラにユキナさんは勿体ない!ゴリラと別れて私と結婚して!!!!」

 グリグリとユキナさんに頬を擦り付ける。

「あら〜それはダメよ〜。グレゴリオは大事な旦那様だもの〜」

「えー!私よりもぉ〜〜????」

「あらあら、困っちゃうわね。……でも、ラブで言えばそうかしら〜」

 ユキナさんは「あら恥ずかしいわ〜」と両手で自分の頬を包み赤らむ。めちゃくちゃ癒される大人の女性だ。

「やばー!めっちゃラブじゃん!ずるーい!妬けちゃーう!!羨ましい〜」

「あらあら拗ねないで。ーーーって立ったままなのはダメね。こちらへどうぞ〜」

 ブーブーと拗ねるマジナの頭を撫でて、俺たちに席を案内する。完全に子どもをあやす母親だな。ふとナナを見ると、二人のやり取りをを見ていた。俺は

「ほれ。ナナもさっさと席につくぞ」

 ナナの頭を軽く撫でて席に促す。ナナは

「なんじゃ子どもの扱いをしよって」

 と撫でられた頭をさすりながら席に近づいた。それに気づいたアダシノは、サッと椅子を追加で持ってきて用意をする。

「ナナちゃんの隣はリュウジで良いかな?」

「当たり前じゃ。リュウジは我の右腕ぞ」

「それは物理的な話じゃないだろ」

「はははっ!じゃあ、右隣に座ってもらおうか」

 ナナの席に乗ってたテーブルクロスを右にずらす。そして、近くの棚から可愛らしい花柄のついたピンクのテーブルクロスをナナの前にひいた。それを見たナナがムッとする。

「なっ!!アダシノよ!子供扱いするでないぞ!」

「え?…あ、ごめん。ナナちゃんは可愛いし、この花柄が似合いそうだなって思ってコレにしたんだ。別に子供扱いした訳じゃないよ」

 アダシノはさらりと言う。

「むっ。そうじゃったのか?」

「うん。ほら、この花はナナちゃんの髪の色にそっくりだしね。でも嫌なら変えるよ。嫌がることはしたくないし」

「待て待て。嫌とは言ってないわ。子供扱いしていないと分かれば良い」

「良かった」

 さっきまでの怒りはもう無く、あっという間にナナは上機嫌になる。

流石だ。子どもの扱いも、女扱いも慣れていらっしゃる。

「はい。リュウジはこっちな」

「末恐ろしいな、お前…」

「??」

 天然でこんな事出来るなんて恐ろし過ぎる。俺には到底出来ない。

俺だったら「別に良いだろ、子どもなんだし。嫌だったら自分で変えてくれば?」とか言ってしまいそうだ。しかもアダシノは本心で言っている感じがまた怖い。

 アダシノに恐ろしいものを見るような視線を送る俺をナナはニヤリとして見る。

「リュウジもレディの取り扱いを学ばんといかんぞ」

「レディって…。ナナは危険物だからな。取り扱い注意が必要だな」

「何を〜!女心を全っ然理解できんからと言って適当なことを言いおって!」

 ナナは俺が座っている椅子の足をゲシリと蹴る。

「我は立派なレディじゃ!のうアダシノ?」

「そうだな。素敵なレディだと思うよ」

「えぇ…」

 絶対勝てない言い争いに俺は口をつぐむ。言い負かされるのは傷つくからな。割れ物注意だ。

「くだらない、騒がしい奴らだなー」

 そんな俺たちに対してだろうか、どこからか声がした。

声がする方に視線を下げると、

「おわっ!」

いつのまにか子供が立っていた。このローブを着た、生意気そうな子供は……。

「おお!いつぞやの童ではないか!息災じゃったか?あの後泣いとらんかったか??」

 俺やアダシノが声を出す前に、ナナが子供に声をかける。最悪なことにナチュラルな煽りつきで。

「童はお前もだろ!!!!!別に泣いてもないしー!!!!!」

「あら〜ツクシちゃん。お家の中ではコートはどうするんだったかしら〜?」

「あっ。い、今やるっ」

 若干の圧のこもったユキナさんの言葉に、ツクシは怒りを中断して焦りながらローブを脱ぐ。その下には濃い紫のローブと同系色の紫を基調としたセーラー服のようなものを着ていた。

「お手手はもう洗ったのかしら?」

「今!今行こうと思ってた!」

 ユキナさんに逆らえないのか、こちらをギロリと強く睨むと奥へ駆け込んでいった。

「可愛らしい子じゃのぅ」

 ナナは癒されると言わんばかりに微笑む。お前どうかしてるぞ。

「お待たせしました〜。特性どんぐりスープで〜す」

 台所からユキナさんが暖かそうなスープを持ってくる。目の前に置かれたスープからは湯気が出ており、ナッツの柔らかい匂いが漂ってきた。

 口に入れる。

「美味しい!」

「ほぅ!中々じゃ!」

「最高じゃん☆!」

 俺たちの素直な感想にアダシノもユキナさんも「あらあら照れちゃうわ〜」と言いながら嬉しそうな顔をする。めちゃくちゃ可愛い。

 めちゃくちゃ癒される〜。

「おい!こども!」

 ほんわかした空気が粗野な言い方で乱される。

ツクシだ。改めてピキッたオデコをしながらナナをまた睨む。ナナは

「おーおー。コートを無事かけれたか!偉かったのぉ。次からは言われないでも出来んといかんぞ」

 優しくも咎めるような、まるで出来の悪い孫を見る眼差しでナナはツクシを見る。だから煽るなって。

「はぁぁあー!?コートいつも掛けれてるし!お前のせいだしー!!!!」

 ギリギリとこちらまで聞こえてくる歯軋り。当のナナはやれやれといった顔でツクシを見ている。なんだか

「可哀想だな」

 思わず俺は心情を口に出してしまった。その言葉にギョロリと視線だけで俺を殺しにくる。

「は!?誰が可哀想だって???哀れな目で見やがってー!元はと言えばお前だろ!!アレは本当にお前の魔法か!?絶対違うだろ!!!!!大体お前が魔王の部下とか言って町を混乱させてー○×△⬜︎!!!!」

 あまりの怒りなのだろう、最後ら辺はうまく言葉にならないようだった。こんなにキレ散らかしてる子供は見たことがない。

 最初は鋭い眼差しに力強い立ち姿だったのに、今では顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる。

「ほれ、泣くでない。心情を慮れんかった我が悪いんじゃ。怒らせてしまったのであれば謝ろう。リュウジ、心の中の声を簡単に漏らすもんじゃないぞ」

「すいません…思わず…」

「そう言った安易な行動が、時には無垢な心を傷つけるのじゃ。見ていみぃ、あれほど勇ましかった姿が今は年相応の泣き姿じゃ。見ていて痛々しいではないか。」

「……ナナ、それ煽ってるぞ」

「悪かったの、ツクシ。あの時はお主の強い魔法をいとも容易く壊してしまって。まさかアレでお主の心を傷つけてしまうとは思わなくての」

「………」

「心、というかプライドじゃな。でも安心せい。アレほどの魔法をその年で使えるなんてそうそう出来ない。まぁ我は簡単に壊してしまったのじゃが…頑張って習得したであろう魔法をあんなに無惨に壊すのは、流石にダメじゃったなぁ。我の配慮不足じゃ」

 ナナはしんみりと謝る。いや、謝ってるのか????

ツクシは強く下を向き、表情が分からない。

 俺は怖い。このどうしようもない重く冷たい空気。地雷に突っ込む上司を制止できない無力さ。

 地獄の空気を物理的に流動させたのはナナだった。もう辞めてくれ。

「まぁなんじゃ。こう言った悔しい経験が、己を強くするのじゃ!」

 ぽんっ。

 ナナは椅子を降り、恐ろしい煽りを口にしつつ、慰めるようにツクシの肩の上に軽快に手を置いた。

だめだコリャ。

「ーっっ!!!!クソやろーーー!!!!!!」

 手を置いた瞬間、ツクシが大爆発した。

すぐにナナの手を払い除け、殴る。

しかし、その殴った拳は即座に避けたナナの顔の前を空ぶった。

「避けるなっっっ!ぶっ殺してやるー!!!!!」

もう一度反対の手で殴るがナナに軽くいなされる。

「わ!わ!なんじゃなんじゃ!?落ち着くが良い!」

 冷静な対応をしつつナナは驚く。

「避" げるな"ぁっっっ!!!殴られろ!!!」

「痛いのは嫌じゃっ!なぜなのじゃ!?謝ったじゃろっ!」

「クソクソクソクソクソッッッッ!!!!」

 どんなに殴っても全然当たらないナナにツクシも感情の収拾がつかないようだった。申し訳ないけど、ナナ。一発殴られてくれ…。

「どー!どー!どー!」

 絶対収拾のつかない自体に男が動いた。そう、アダシノだ。俺じゃない。

 アダシノはサッとツクシの両腕を捕まえる。

かなり暴れているが、アダシノの力には勝てないようだった。

「離せーー!!!!クソアダシノーっ!!!」

「とりあえず落ち着けって!」

「お前もあのクソの仲間かー!?」

「俺はお前の味方だって!いいから落ち着け!!」

 今度はこっちで揉みくちゃになっている。俺はあわあわするしか出来ない。どうしよう…。最悪だ…。

 無力な自分にしょんぼり(´・ω・`)していた時だった。

「ツクシちゃん」

 優しげで芯のある声、ユキナさんだ。

名前を呼ばれたツクシはピタリと止まる。

ユキナさんはしっかりとした足取りでツクシの前へくると、ぎゅっと抱きしめた。

「ツクシちゃん。悔しかったのよね」

その手で背中をさする。ツクシの表情はユキナさんの背中で見えない。

「大丈夫よ〜。ついカッとなっちゃったのね」

 ツクシが動かなくなり、ユキナさんはツクシの頭を撫でた。

「大丈夫よ。ちょっと休憩しましょうか〜」

 ツクシの手を取り、ユキナさんは立ち上がる。

「アダシノくん。お料理は台所にあるから取り分けて皆さんに配ってくれるかしら〜」

 変わらぬ優しい声でアダシノに声をかける。

「はい!了解です!」

「皆さんも最後までおもてなし出来なくてごめんなさいね〜。またお話しましょ〜」

 圧倒的にこちらが悪いと言うのに、ユキナさんはにこやかに最後まで気遣いを見せてくれた。女神だ。

 ユキナさんに手を引かれ、別室へ入っていく時にツクシはコチラを振り返り、真っ赤な顔のまま何も言わずにビシッと力強く中指を立てた。

 俺は申し訳なさと不甲斐なさでなんとも言えない表情だったと思う。


 扉がしまり、またなんとも言えない空気が流れる。

「のう、リュウジ」

 ナナが声を上げる。お、反省したか?俺はこの重苦しい空気の戦犯を見る。


「ツクシとやらは、今回決して涙を見せなかった。あやつは強くなるに違いないっ!」

 目を輝かせてコチラを見る。反省など微塵もなく、寧ろ誇らしい瞳をしていた。

「少しは反省しなよ」

 流石のマジナもツッコむ。俺も同感だ。

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