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16.〜お料理下手過去〜

前回までのあらすじ

かつて俺は料理が下手だった。



 限りなく薄味のスープを俺は無言でナナに差し出した。

ナナがスープを掬い、ごくりと飲む。

「こっちに来て料理なんてしたことないからさ、いやー、人の家で作るのは難しいな…」

言い訳も陳腐に聞こえてしまう。ナナは何も言わず、そのまま硬い具材を口に入れて噛む。ボリボリ聞こえる。

「………ごめん。ほんとは料理したことない……。なんか言い出せずに作ったら失敗した………ごめん」

 沈黙が怖くなり、俺は消え入りそうな声で白状した。ナナはその言葉を聞きこちらを向いた。

「そうじゃったのか?多少薄味が過ぎるが、ぎりぎり我好みの薄味じゃ」

「…え?………で、でも、人参もめちゃくちゃ硬いし…」

「確かにの。まぁ、顎の鍛錬と思うことにすれば良い。そも、リュウジが料理初心者であることは分かっていた」

「そうなのか?」

「ああ。食材の切り方もガタガタじゃし、何より刃物の持ち方が危なすぎるからの」

「え、じゃあ何で何も言わなかったんだよ」

「お主が言わなかったからじゃ。一人でやりたいのじゃろうと思って何も言わなかったのじゃ。まさか未経験者じゃったとは思っとらんかったがのう」

 けろりとしてナナは言う。料理も怒られず、未経験者だと叱られず、俺は安堵した。こんなことなら最初から正直に言えばよかった。

「リュウジ。こんなことなら最初から正直に言えばよかった、と思っておるじゃろう」

「え!?」

 俺は図星をつかれてギョッとした。ナナは「やっぱりじゃな」とこぼす。

「リュウジ。我はリュウジより永く生きておる。お主は赤子も同然じゃ。何も出来んでも分からんでも、それは可笑しなことでも愚かなことでもない。誰しも何事も初心者から始まるのじゃ。

最初から一人で挑戦するのも度胸ある素晴らしいことじゃ。じゃが、最初から我が作り方を教えていた方が危なくもなかったし、もっといいのが出来たとは思わんか?決して怒らないから、今度からは気兼ねなく初心者であることを我に教えてほしい」

「ああ…そうする……」

 俺は何も言い返せず頷いた。そんな俺を見てナナは笑いかける。

「そうしょげるでない。リュウジは一生懸命考えてこのスープを作ってくれたんじゃろ?上出来じゃ!!」

 そう言うとテーブルを乗り出して子供の頭をなでるようにワシワシと俺の頭を撫でまわすのだった。

 それから俺はやったことのない家事(全部だが)はきちんと自己申告をした。毎回ナナは嬉しそうに「教え甲斐があるのぉ」と言うと一通り教えてくれたのだ。

 勿論一回では全然できず鍋を焦がすなどの失敗をしたりしたがナナは笑って

「”鍋に強火で放置は良くない”。ほれ、また一つ学びを得たではないか!」

 と逆に喜び大きく頷いた。その口調から思わず孫の行動を喜ぶおばあちゃんを想像してしまい、俺もつられて笑う。

 ナナといると失敗も怖くないな、と思いドンドン家事が出来るようになったのだ。




「まぁ確かに家事はナナのおかげだな。失敗しても怒らないし、逆に褒められるし」

 今までを振り返り俺は認める。その言葉にナナは「えっへんじゃ!」と鼻を高くした。

「いいなぁ~。最高ぢゃん!」

「そうじゃ!リュウジは素直で最高じゃ!」

「違うよ~!リュウジも最高だけどナナも!二人とも最高!!」


 そう叫びながらテンションが上がったのだろうか、マジナは天井に向けて指を突き出す。その指から火花がバチバチッと飛び出し、天井で弾ける。

赤青黄色、カラフルな火花は小さな花火のようだった。ビックリもするが、感動するだろう。


…ここが台所でなければ。しかもここは狭い!


「あででっ!あっつ!!!」

 火の粉が頭の上に落ちてくる。

「ぎゃっ!こらマジナ!!止めるのじゃ!」

「きゃ!ごめーん!思わず出しちゃった☆」

 慌ててマジナは手を引っ込めるが、花火は消えず、バチバチと弾けて火の粉が下へ降り注ぐ。

「おい!火の粉でまな板が燃えてるんだが!?」

「やばっ。魚も燃えてるんだけどー!?」

 狭い台所で俺たちはギャーギャー言い合いながら火消しに格闘することとなった…。




「いやー☆激うまだった〜!」

「水浸しになった炒め物もまぁまぁ美味かったな」

「マジ?私ってば鬼天才じゃん?」

「嫌味だよ…」

「まぁ食べれるから良いではないか」

 きゃっきゃとマジナは笑う。反省しているのか?と疑いたくなる様子だが、ナナの言う通り食べれるから良いか…。

 何だかんだで俺たちは食卓を囲んだ。いつも2人だからか、1人増えただけでかなり賑やかになった気がする。




「複数で食べるのも良いもんだな」

 俺は食べ終わってナナに声をかけた。マジナは庭の草花の様子を見たいと言って出ていった。俺とナナで洗い物をする。その最中、ナナは少し考えたように

「リュウジは、マジナにここに居てほしいと思っておるか?」

 と尋ねた。俺はその質問と予想外に真剣な顔に驚いたが、素直に答える。

「あ、いや、別にそこまで真剣にとらなくて良いよ。いつも2人だから新鮮だなって。それだけだ」

「そうか」

 こくりと頷くナナを見る。真剣なような、安堵したような、困ったような真意がつかめない表情だ。

「あのさ。俺、別にマジナの事好きってわけじゃないからな?」

 なんとなしに言う。すると

「ぇあっえ!?そうなのか!?!?ーーーーーあっいやいやっ、はてさて~?何のことじゃ?」

「その取り繕い方は無理あるだろ…」

 ナナは分かりやすく取り乱した。俺はやれやれとため息をつく。

「そりゃマジナは可愛いし距離近くて挙動不審になるけどさ。恋愛的な意味じゃないぞ」

「で、でも顔を赤らめたりするではないかっ!?」

「いや、だからそれは距離感バグってるからだよ!俺みたいな陰キャは、あんな顔とか体が近かったり、まばゆい笑顔を向けられたら免疫なさ過ぎてドキドキするんだって。服装だってあんな胸とか脚をゴニョゴニョ…」

 最後までセクシーであると口に出して言えない所も陰キャらしいと言える。俺の言葉にナナは今日一番の笑顔を咲かせる。

「なーんじゃ!良かった!!我はてっきり我よりマジナと一緒に暮らしたいのかと思って悲しかったのじゃ!」

 さらりと可愛らしいことを言ってわーはっはと笑いながら俺に抱き着く。

「おあっ!?なんだよ急に!」

「ほれほれ~。ドキドキするのじゃろ~?」

 ウリウリと全体重をかけて体を擦りつけてくる。

「子供に興奮するわけないだろ」

「なんじゃなんじゃ~。こぉいうのが良いんじゃろ?ほれほれ~」

「だーっ!だからコケるから!危ないから!」

 悩みが取れたのだろうか、全力で激しく俺に抱き着くナナ。正直マジで興奮はしないが、嬉しくて照れ臭く、つい冷たくあしらってしまう。

「微笑ましいね〜」

 マジナはそう言いながら、角からひょっこりと顔を出してによによする。ナナはがっしりと俺に捕まったままドヤ顔でマジナに言う。

「はっはっは!マジナよ!リュウジ と仲良くする事を特別に許可するぞ!」

「??どゆことー?」

「我は以前の我では無い。お主がリュウジと距離が近くてもなーんも思わんのじゃ!」

「よく分からないけど把握〜☆」

 ラジャーッと敬礼ポーズをした後、「では。えーいっ」とマジナも俺に抱きついた。

「は、はわわっ……!」

 身動きの取れない俺はそのまま避けることも出来ず抱きつかれる。

そう、ナナのせいで避けれなかったのだ。これは不可抗力。女の人に抱きつかれたいという願望でわざと避けなかった訳では無い。

「リュウジって、意外と背が高いよね…♡︎」

「はわっ!」

 マジナはこてんと俺に頭を預けると、上目遣いで俺に話す。コレはヤバい。

俺は今まで世の女とは無縁に生きていた。孤高の存在だったのだ。

それが、こんな、急に、金髪美女に抱きつかれているだと…!?

 嗅覚と視覚、触れている部分に皮膚感覚に集中する。

絶対今の俺キモいよな。でも止まらない。

 細いっ…!細すぎるっ…!女の人ってこんなに腕が細いのか!?よくこれで俺を投げ飛ばしたり出来たな!?俺は驚く。と同時にマジナが硬直している俺の手の甲を何も言わずに握った。

「ひぅ!!!!」

 思わず俺は息をのんだ。

 細くて白い指がゆっくりと触れる。細くて白い指は思ったより冷たく、滑らかにゆっくりと動く。物理的にゆっくりなのか感覚的にゆっくりなのか判断がつかない。そのくらい俺には刺激的なことなのだ。前世では絶対あり得ない!!なんだかマジナの洋服の質感ですら普通より柔らかく感じてしまう…。柔らかい布地が俺の腕にくすぐったく擦れる。

「っっっギブっ……!!!」

 俺はふらりと丸く倒れこむ。思考の止まりかけた脳みそで本能的に身体的変化の前兆を察知したのだ。中学生には刺激が強すぎる。

「ぎゃわっ!?おい、大丈夫かリュウジ!?」

 俺に体重をかけていたナナも一緒に倒れ込む。

「動けるか!?」

「……暫く無理だな…」


 マジナは俺が倒れる際にサッと避けたおかげで縮こまる俺とベタッと倒れるナナを上から見下ろしている。

 これ確信犯だろ…?

「ありゃりゃ〜。童貞くんにはまだ早かった系?」

「どどどどど童貞ちゃうわ!」

 確信犯だ!!

「これマジナ!やり過ぎじゃ!ゼロ距離は禁止じゃ!」

「ごめんごめん☆」

 てへっ☆とウインクを決めて謝る。絶対響いてないな。

「はぁ…。やれやれじゃ。リュウジが落ち着いてから再開じゃな」

 そう言い立ち上がったナナはソファにかけてあった膝掛けを俺に掛けてくれた。マジナは笑いながら「なんか時間かかりそうだし薬草採っとこ〜」と他人事のように出ていくのだった。




 その後落ち着きを取り戻した俺はマジナと朝のように対峙するもやっぱり全然さっぱり勝てなかった。

 あまりの勝てなさに俺がガチ凹みしていると、哀れに思ったのかお開きになった。その後マジナは俺の魔法の練習に付き合ってくれて精度や意識すべき点を教えてくれた。

「そうそう。刃物の場合は先端にも意識を集中して。実際に切るなら鋭く強固で無いと使えないからね」

 座って落ち着きながら言葉を自分に落とし込んでいく。

 教わる前よりナイフの強度が強くなり、作るまでの速度がかなり早くなった。

 やっぱり実際にあるものじゃないと作るのが難しい。俺は自分の持っているナイフを置いてそれをコピーするイメージで砂で作り上げる。

「このナイフが完璧になったら町で新しい武器を買って同じようにやれば武器も増えると思うよ」

「地道だなあ。もっとバッと武器を出して自在に操れれば最高なのに」

 俺は愚痴る。

「リュウジはソレに特化した魔法じゃないからしょうがないね。まぁ、特化してなくても出来る可能性はあるけど」

「そうなのか?」

「うん。リュウジは砂しか操れないでしょ?それは砂と波長が合うから魔力を使うことができて操れるんだよ。もし砂だけじゃなくて水とも波長が合うとしたら?砂と抜群に波長が良いだけで、もしかしたら、水ともちょっっっと波長が合ってるかもしれないじゃん」

「それなら砂も水も、二属性も操れるのか!?」

「原理としてはね。でも、そうそう居ないよ。」

 砂以外にも操れるかもしれないのか??俺は胸が高鳴るのを感じた。

そうだ。

「俺、砂の魔法をナナに貰ったんだ。その方法で水とか他の属性も貰えないかな?」

 その言葉に意外そうにマジナは驚く。

「え、貰って??」

「だから、魔法が欲しいってナナに言ったら、何か美味しい水を貰ったんだ。ソレ飲んだら砂が操れるようになってさ」

 俺の説明を聞き、マジナは手を顎に当てて考え込む。

「そんなこと…?でも、ナナなら……。やっぱり完成して…じゃあアレは………」

 と、ブツブツと低い声でマジナは独り言を言い出す。

なんだか良くないことを言ってしまったようだ。どうしてそんなに難しい顔をするのか俺には検討もつかなかった。でも、

「ごめん…」

 俺は謝る。その謝罪に反応し、マジナはキョトンとする。

「え、あ。何?どうしたの?」

「ごめんマジナ。今の忘れてくれ」

「え?今の?」

「そう。ナナから砂の魔法貰ったってこと」

 でも、ソレを他人に知られるのがナナにとって不都合なことだってのは分かった。きっと他人には出来ないことなんだろう。


「俺さ。ナナに迷惑かけたくないんだ。魂を助けてもらったし、色んなこと教わったし。……優しくしてもらって感謝してるんだ」

 マジナの目を見る。驚いているが、俺の言葉を聞き、頷いた。

「……分かった、忘れる」

「ありがとう」

「代わりに、これだけは教えとく」

 マジナは声をひそめる。

「ナナは魔力量も飛び抜けてる。これは魔族なら普通よ。でも、ナナは色んな属性も使える。コレは他の魔族にも出来ないと思う。この事は人間にも魔族にも知られない方がいい。……あの子も忌み嫌われる能力として苦しんでる」

「分かった」

 マジナは多くは語ってはくれなかったが、俺は深く聞かなかった。

「あー、つまり!俺は強くなりたいってこと!どうしたらそんな体術凄くなるか教えてくれ!」

 なんだか気恥ずかしくなった俺は勢いよく立ち上がった。

「おけおけ☆リュウジは機転と手数は多いけど、精度も戦い方もまだまだだもんね♡︎」

 マジナは、いひっと笑い同じように立つ。

「私もリュウジ一緒だよ。ナナが大切なの。強くなって守っちゃおうね☆☆」

 そして握った拳を軽く突き出す。

俺も無言で頷いて拳を突き返す。

 気がつくと、空はまた帷を下ろすように薄暗くなってきていた。

俺たちは明かりのついているナナの家へと入るのだった。


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