15.〜勝ったけど勝ってなくてお料理〜
前回までのあらすじ
勝ったけど勝ってなかった
「??」
「あ、いや。気を悪くするでないぞ!マジナははっきりと負けを認めたし、リュウジの戦いぶりもかなり見事じゃった!初戦であれだけ立ち回れるとは、才能ありじゃなぁ!我の見立ては正しかったのぉ!」
首を傾げ怪訝そうな顔をした俺を見て、ナナは慌てる。
「どこら辺が譲ったように見えたんだ?」
純粋な気持ちで俺は聞く。
ナナが言った通りかなり良い立ち回りだったはずだ。
物理的に戦ったことはなかったが瞬間で良いアイディアがでたし、やったことのない砂煙からナイフを作り出すことにも成功した。あるとしたら…
「最後の蛇にケツ噛まれたところか?」
俺の言葉に慌てていたナナは落ち着きを取り戻し、こくりと頷く。
「ごほん。まぁ、そこもじゃな」
「でも俺のナイフの方が早かったし、マジナが降参したあとだったぞ」
「そうじゃな。動きはかなり良かった。しかしな、」
ナナは俺をしっかりとみる。
「“砂靴”の前にマジナは魔法を発動できていた。おそらくマジナは倒れ込む前に蛇をリュウジの背後から忍ばせておったはずじゃ。マジナは倒す相手の顔を見ながら降参させたいタイプじゃ。砂煙が晴れた瞬間、お主の首に蛇は噛み付く予定じゃった。ナイフを作ると言う機転がなければ負けておった」
「そうだったのか。…でも、その機転で結果勝てたわけだし」
「偶々の機転じゃろ。しかもその機転で作ったナイフじゃが…、かなり作りが甘かった」
その言葉にドキリとする。
「急拵えだったせいか、遠くで見ていた我でさえ砂の荒さとリュウジの焦りが見えていた」
その通りだった。急に思いついて瞬間的に作ったからか、砂の目が荒く、しっかりと握っている手にも所々砂が操れずボロボロと崩れていき、握っているようなフリをしていただけなのだ。
ブラフのような状態になり、俺は密かに焦って手が震えていた。
「マジナは経験豊富じゃ。最後の焦りの意味も、ナイフが切れないレベルである事もバレておったじゃろう。リュウジの経験や機転を加味して、優しさでわざと勝ちを譲ったのじゃ」
ナナは言葉を続ける。
「そもそもじゃ。実戦を交えるとテーブルで話して着替えて庭へ出る間に考える時間はあったじゃろ。何故対峙してもずっと考えておるのじゃ」
その言葉に俺は反応した。
「着替えている間に砂鉄の不意打ちは考えだして実行できたし、マジナの魔法が何かとか知らないから対策の立てようがないだろ」
ナナはやれやれと首を振る。
「確かにマジナの魔法は分からぬ状態じゃった。不意打ちの方法も良く考えられていた。しかし、対峙したときにあんなに焦るような険しい顔で悩んだ顔をしておったのが良くない。あれでは無策ですと言っているも同然じゃ」
「そんなに顔に出てたか?」
「モロ見えじゃった」
ナナは即答した。
「その反応、敢えて間抜けな面をしていたわけではなさそうじゃな。その点マジナは余裕な顔をしていたじゃろ」
「ああ。余裕綽綽って感じだった。でもそれは俺の魔法を知っていて、俺が戦いの初心者だからだろ?」
「いや。マジナは今回のような接近戦はあまりせぬ。緊張とほんの少しの怖さがあったはずじゃ。しかしそれを見せるどころか敢えて不敵な笑みさえ浮かべた。それはリュウジを弱く見ているせいじゃなく、自分を奮い立たせ大きくみせるためのマジナなりの策だったのじゃ」
「自分を奮い立たせ大きくみせるための策…」
俺は言葉を反芻する。
確かにあの時マジナは笑っていた。俺はそれを見て余裕綽綽で自信があるんだろうと考えた。
しかし思い返すと不敵な笑みを浮かべつつもマジナは俺を探るようにじっと目をそらさずに見ていた。もしかして、俺が目を離した瞬間飛び込んできたのは俺が攻撃すると考えたからではないか?俺は目を離した瞬間にどこを見た??マジナの足元を見た気がする。
俺がマジナの足元に攻撃を仕掛けると思ったから、離れるために飛び込んできたのかもしれない。
「リュウジはちゃんと考えられる我の右腕じゃ。対峙するまでの間、出来る策を仕込み、考えたはずじゃぞ。」
ナナはしっかりと俺を見つめた。
「出来ることを全てやったのなら、堂々としておれ」
「…ナナ…」
その言葉にハッとして俺はナナを見つめる。
「これから先、分からぬ者を相手にする事も増えると思う。不安になり焦る事もあるであろう」
ずっしりと構えている小さいナナが大きく見え、その大きな瞳に俺は吸い込まれそうになる。
「我は知っておる。リュウジは頑張っている。最善を尽くすことを知っておる。我がリュウジを絶対に敗北させたりはせん。リュウジは己と我を信じて焦らず進め」
ナナはそう言うと笑い、その小さな掌を丸めて俺に差し出す。
「…俺はまだまだ未熟で不安にある事もあるけど、ナナを信じて頑張って、……胸張ってみるよ」
こつん。
ナナの拳に俺も拳を軽くぶつける。
「ありがとう」
経験した事無い事ばかりだな。小さいのにとんでも無くデカく感じる漫画みたいな少女も。こんなに真っ直ぐに信用してもらえるのも。
「おまた〜!」
俺らが向かいあって笑っていたら、マジナがやってきた。
「まじジャリジャリがヤバかった〜!続き続き〜!」
そう言った後に向き合っていた俺らを交互に見ると「何なに?」と不思議そうに聞いてきた。
「何でもない、続きするか。今度は完膚なきまでに勝つからな」
俺は強い口調でマジナに宣言する。
「あー優しくしてあげたのバレちゃったか〜」
ニシシッとマジナは笑う。
その言葉を聞き苦笑いをする。
最初の立ち位置に戻り、俺はマジナと対峙した。
最初に考えた策はもう通用しないかもしれない。でも。
俺はしっかりと立ち、真っ直ぐにマジナを見る。
「絶対に負けない」
はっきりと口に出した言葉は、戻すことは出来ない。だからこそ有言し実行させざる得ない状況をにさせた。
緊張する。でも、最初とは違う。俺は口角を無理やり上げた。
「かっこいいね、リュウジ」
そんな俺の姿にマジナは声を投げつけた。それはお世辞や揶揄なのか、いや、どちらでもいいか。
他人の評価や感想なんて今は気にしない。今考えるのはしっかりと勝つことだけだ。
冷静になれ。考えろ。
「行くぞっ!」
俺は啖呵をきると、すぐにマジナの下へと飛び込んだ!
「おぁっっ!!」
「ちょっ、!待ってくれ……!」
「ぐぁあっぐっぅぅ!!!!!!!!!」
「こ!降参!降参だって!!!!」
「がっ」
「あべしっ!!!!」
「ひでぶっ!!!!!!!」
「参った!」
「まいりましたっ!いでっ!やめろ!!!!」
惨敗だった。
負けない宣言はどこにいったのか。覚悟を決めたかっこいい笑みは?………俺も同感だ。
俺は転がった状態で項垂れる。
「リュウジー。大丈夫そ??」
「ま、まぁ。今日は初めて実戦じゃし?早々に上手くいく事はないじゃろう…!だ、大丈夫じゃ…!」
こちらを心配そうに見ながら二人が声をかけてくれる。
「というかじゃ!マジナ!お主は接近戦はほとんどしたことがなかったはず。なぜそんなに動けるのじゃ」
そう。マジナは強かった。体術を主に繰り出し、銃のようなあの魔法は俺の行動を制限したり誘導するような使い方をしていた。
完全に胸を貸りている状態だ。
「そうそう。最近ね~美容のためにストレッチと護身術学んでるんだよね☆」
見てみて~と足を上げてY字バランスをする。誇らしげな笑顔を浮かべるマジナ。
「なるほど!リュウジ!お主が負けたのはきちんとした理由があったのじゃ!案ずることはない!」と慌てたように諭すように口調強くナナは声を上げる。
「…そのストレッチと護身術、俺にも教えてくれ…」
俺はやっとの思いで声を絞り出した。
「りょ!」
Y字を崩さず空いた手でマジナは綺麗に敬礼のポーズをした。
その元気な笑みに俺は脱力し、ずるりと地面に突っ伏した。もう何の気力も残ってない。
「まー、もぅお昼だし?休憩しよ、きゅーけー」
「そうじゃな。リュウジ、おつかれじゃった」
俺の元に駆け寄り、二人は手を差し伸べる。
俺はその手に捕まり、ゆっくりと立ち上がった。
「良いかリュウジ。やろうと思ってすぐ完璧に出来る、という事は少ない。大事なのは決意し胸に刻むことじゃ。最初は失敗し、そんなこと出来ないと悩むかもしれない。でも大丈夫じゃ」
「分かったって」
リビングへ移動し、マジナが作ってくれる昼食を待つ。
ナナは庭から戻る際も、ザッとシャワーを浴びてる際も、ずっとフォローの言葉を俺にかけ続けていた。子供のようにくっつき必死にかけてくれる言葉に最初は嬉しかったり恥ずかしかったりしたものだが、延々と言われると段々くどくなってきた。
「マジナ、手伝うよ」
「あっ!コラっ!リュウジ!まだまだ言いたいことがあるのじゃぞっ!今からリュウジの良い所をじゃな~っ!」
「もう分かったって。大丈夫だから」
ナナから逃れるべくマジナに手伝いを申し出た。台所に入るとハーブの良い匂いがする。匂いの出どころである鍋にはハーブに野菜が入っており、木べらがひとりでにくるくると鍋をかき混ぜていた。
「何をしたらいい?」
俺は洗い場で魚の鱗取りに励むマジナに声をかけた。硬いスプーンを尻尾から頭にかけて動かし鱗はビチビチと跳ねる。
「んーとね、炒め物頼んでもいいかな?」
俺はフライパンの隣に置かれている大きな皿に目をやる。ありがたいことに具材ごとにきちんと分けて載せられていた。
フライパンに油を入れてふと気づく。
「ニンニクあったほうがいいか?」
「おっ!いいね~。ニンニクあったんだ」
「ああ。冷凍してあるんだ。まだ火にかける前だから気づいてよかった」
「よろよろ~☆」
「というか、炒め物も魔法でやればいいんじゃないか?」
俺は思ったことを口に出した。俺はそういいながら冷凍庫からニンニクの欠片が入っている袋を取り出す。必要な分だけを取り出して、冷たい欠片に水をかける。
「鍋をかき混ぜるのは単純だから魔力も少量で済むけど、炒め物は結構難しいんだよ」
「そんなもんなのか?」
「鍋は深さもあるから壁に沿って大体グルグル回る、みたいな魔法で済むけどさ」
そういいながらもマジナは手を止めず、慣れた様子で丸裸になった魚の腹を裂き内蔵を取り始める。
「炒め物って油適量入れて熱っされるの待って、具材は硬いものから選んで、火の通り加減をなんとなく確認して順に入れて…って意外に手順多いんだよね。その時の具材の大きさや使うフライパンの大きさによって混ぜ方を変えなきゃいけないしさ。家のいつも使ってるヤツなら良いんだけどね。複雑なのは集中力もいるから他の作業が疎かになりがちだし、魔力の消費も激しいからね。結局のところ自分でやった方が良いんだよ」
「なるほどな。そう考えると結構炒めるのって大変だな」
「そーそー。まぁ料理系の魔法を多く習得してたりしたら少ない魔法量で出来るんだろうけどね~」
常温から火をかけ、ニンニクの香ばしい匂いがうつった油に、硬いものからザラザラと入れて熱を通す。
「それに魔法じゃなくて、リュウジの愛情たっぷりだからこそより美味しそうだし♡」
そう言いながら、良い匂いだと言わんばかりに匂いを吸う。
「我を置いて楽しそうじゃの~~~~~~~~~~」
ゆらりとナナが入ってくる。さっきまで不貞腐れて机に頬をついていたというのに。
「出来上がるまで机で待っておけばよかったのに」
「何を~!我も楽しそうな会話に混ぜるのじゃ!」
「いや台所に三人は狭いから」
「嫌じゃ!手伝うから居させてくれ!」
俺たちの会話を聞いてマジナは笑う。
「仲良しだね~♡リュウジは料理も出来るしナナは大助かりじゃない?」
その言葉にナナはえっへんとドヤ顔をする。そして胸を大きく張り、腰に手を当てふんぞり返る。
「何を言おう、リュウジに家事を教えたのは我じゃ!!!」
「え、マジ?」
「マジじゃ」
そう。
俺は自慢じゃないが今まで家事をしてこなかった。故に家事に関しては壊滅的なスキルだったのだ。
家事が出来ないとばれるのが何となく嫌で雰囲気でスープを作った。一応野菜だし沸騰させるまで強火で作ったので火は通るから、お腹を壊すことはない、と考え抜いてはいた。
しかし、具材の大きさがめちゃくちゃで、入れる順番も適当だったのでかなり硬い野菜いりのものが出来上がった。味つけに関しては何も考えてなかったので調味料も入れなかった。結果として溶けたジャガイモ硬い人参たまねぎの少し野菜味のうっすーーーーーーーーいお湯が出来たのだ。




