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14.〜賢い⑨教室と実戦〜

前回までのあらすじ

マジナの⑨教室


「何で知ってるんだ!?」

 驚く俺にマジナは笑いながら自分の右目の前で輪をつくる。

「へへ〜☆」

「千里眼か……」

「正解〜!」


 千里眼でどこからどこまで見たんだ…。聞きたくない…。


「ごほんっ。あー、つまり、あれだな。その魔法を認識出来る魔法名があればイメージしやすくなって精度が上がるってことだな」

 俺は誤魔化す為に話を進めた。マジナは大きく頷く。

「そうだね。オリジナルの魔法名なら相手にどんなものかってバレにくいし。口唇補助は他にも、わざと分かりやすい魔法名を聞かせることによって相手に敢えてどんな魔法かを認識させたりもするよ。これは一種の暗示効果だったり相手の魔力を少し掠め取ってその魔法に混ぜて利用したりも出来るんだよ。怖いよね〜」

 なるほど、そんな使い方も出来るのか。

「あ、じゃあさ。詠唱…なんて言うのかな、長い呪文も口唇補助か?」

「うーん、広義で言えばそうかな。長い呪文は大体がお願い系、報酬系って感じで別れるよ」

 紙に“口唇”と書き“補助”と線で結んだあと、口唇の後ろに“短…普通に”“長…おねがい、ほーしゅー”と書く。

「お願い系は別の魔法使いや妖精や精霊の力を借りるとき。魔法使いとのやつは面倒だからとばすね。妖精とかのは妖精たちに話しかけてこういうことして下さいってお願いしているみたいな感じかな。妖精の善意というか気まぐれを活かす感じ。稀に妖精とずっと一緒にいるとオリジナル魔法名でも通用する時がある。心が通じ合う的な?

 報酬系はそのまんまで、長いの言えたからその分おっきな魔法使える!みたいな」

「そうか。とりあえず俺は口唇補助を練習するべきだな」

「そうだね!それと普通の念じる方の練度もあげてね!あ、あと」

 そういうとマジナは紙にハートを書いた。

「気持ちかなっ!」

「気持ち?」


 マジナはペンを置くと、髪からヘアピンを取り出した。


ヘアピンを手の平に置くと、ぽんっとピンク色のクマのぬいぐるみへと変わる。クマを自分の前のテーブルへ座らせてると、くるりと俺の方へ回転させる。

「そう。イメージ強化も関わってくるんだけど、気持ちも大事!

例えば、もし砂の魔法のリュウジが鉄使い“まさお”と戦った時、リュウジはその場にある砂を使いました。…全部の砂でまさおを攻撃してみて」

 クマがひとりでにカタカタ揺れる。これが架空の鉄使い“まさお君”のようだ。

 俺はテーブルの砂を使いいくつかの塊を作る。心なしか砂が重く感じるが、ポコポコとボールを当てるように攻撃した。クマ、もといまさお君は少しずつ後退する。

「ああっと!リュウジ、強い!まさおが引いている!しかし、鉄使いのまさおは言いました。「それは砂鉄で、鉄使いである俺のものだ!」」

 急に熱が入ったようで実況中継のように叫びだす。

「リュウジはどう思う!?」

「どうって…確かに砂鉄は鉄だなとは思う」

「じゃあなんでソレ操ってるの?」

「えっ?確かに…」

「そこだー!」

 そう叫び人差しで俺の頬をぐりぐりと突き刺す。

「いたい!いたい!」

 地味に痛い!ネイルの爪が食い込む!

「気持ち!大事なのは気持ち!気持ちで負けてるぞ!!!!諦めたら試合しゅーりょー!!!」

「何だよそれっ!急に怖っ!いてー!!!」

 マジナは俺から爪を離す。いった…。恐る恐る頬を触る。

血が出てるんですけど…。

「はい!ゆーあーでっと!」

 そう言ってマジナはビシッとテーブルを指差す。

 テーブルには、砂がまさお君の前に力を失い散らばっていた。ピクピクと蠢いているが、動くというほどではない。


「リュウジは砂を操れるんだけど砂じゃないとダメなんだよ」

「?」


 トンチか?

「最初はこれを砂って気持ちで認識してたから操れたけど、途中で砂鉄だから鉄って認識しちゃって操りにくくなっちゃったんだよ」


……つまり、

「認識で操れるかが変化するってことか?」

「そう!でもさ、よく考えて?砂って何?」


「砂ってなに????」


 急に真理をつく質問をされて俺は固まる。

 トンチか?


「砂っていうのは、岩石が砕かれたり侵食されて小さくなったものなんだよ」

「まぁ、確かに」

「つまーり!」

 テーブルを指していた指をビシッと俺へ向ける。

「岩石!つまり、そこには鉄鉱石も含まれるのっ!つまり!」

 今度はテーブルの砂鉄を指差す。

「この砂鉄も砂の一種ってこと!」

「なるほどなぁ」

 トンチみたいだな。俺は素直に感心した。



「またこの“砂”動かしてみて」

 マジナの声に応えるべく俺は最初と同じように念じた。

 鉄の一種だと思うと自分では動かせないと無意識に思ったのだが、“砂”鉄だと思うといつも通り反応し散らばった砂は一つに集まった。


「結局この砂鉄は砂なんだけど、ちゃんとリュウジが砂って認識しないとダメなんだよね」

「…てことは、逆に言えば認識しさえすれば操れるのか」

 その言葉にマジナはパァッと顔を明るくさせて笑顔になる。

「そう!リュウジの言う通り!魔力が強い人は無理矢理動かせるっぽいんだけど、普通は認識したものだけなの。」

 マジナは俺の手をとり、真っ直ぐな目でこちらを見る。

「皆はこの認識を理解できないことが多くって!リュウジすごいよ!大事なのは柔らかく、認識を広げること!」

 ニコニコした笑顔は屈託なくこちらも口元が緩む。

「考えを変えれば、操れる砂の種類が増えそうだな」



「その通りじゃ。しかも砂によって成分が違うから、特性を生かせばもっと使える範囲は増えるぞ!」


 いつの間にか、隣にナナが立っていた。



 ナナはそう言いながら笑顔を崩さず俺の手を握るマジナの手を無理矢理離させる。口元はなんだかピクピクして、なんかちょっと怒ってないか?


「講習は中々有意義じゃったようじゃな〜、リュウジ」

「え、あ、あぁ」

「手まで握るのも講習の一環か?」

「え、いやぁ」

「我がリュウジのために炊事洗濯まで代わってやったと言うのに、我が見ていないことをいい事にデレデレしおって。マジナもじゃ」


 じろり、とマジナを睨む。プリプリ怒っているナナに、マジナはやっばぁと言いたげな顔だ。

「歳の端もいかぬ純情な男子に距離が近いわ」

「ごめーん」

「まったく…。相手によって距離の取り方を変えんか」

「ごめんごめん☆」

 いつもこんな感じなのだろうか。ナナの怒りを軽く受け流している。


「まぁ!とりあえず、実戦も交えてみよー!」

 というマジナの言葉に従い、俺とマジナは外にでた。




 ナナは庭にあった小さい椅子を持ってきて、見守るように座っていた。

俺とマジナは自然と対峙するように向き合って立つ。

 距離にして5メートルといったところか。

 俺は上にいつもの軽い甲冑のような物を装備した。一方、マジナは朝と同じヒラヒラしたおよそ戦いには向かないような格好で立つ。いつもと同じ、いや、いつもより楽しそうに口元が上がっていた。余裕を感じる雰囲気に俺は少し緊張した。


「ゆる〜い感じでやってこ〜!どっちかが降参したら終わり〜!」

 ごくりと唾を飲む俺に、キャッチボールの練習か?と疑いたくなるくらい緩い声かけをしてくる。


 マジナが何を操るか、どんな事をしてくるか、全てが未知数だ。


「こないの〜?」

 マジナが声をかけてくる。どうする?俺が操れるのは2メートルくらいだ。とりあえずバレないように操作圏内に入るか?その後はどうする。また砂の塊で攻撃するか?一気に操作できる塊は四つまで。だけど同じ動きのみだし、今は使えない。その上どんな魔法か分からない以上、迂闊に全力は出せない。

 マジナは俺をじーっと見ている。もしかしたら千里眼で考えまで読み取っているかもしれない。俺は慌てて目を逸らす。


「じゃあこっちから行くね〜♪」


 楽しげに声をかけて、マジナは土を蹴った。あんなにゴツくて高いヒールなのに一瞬で距離を詰めてくる。そのままの勢いで右手を伸ばして俺の顔を掴みにきた。

 俺は慌てて後ろに下がり避けた。つもりだった。

 その瞬間、ゴッッッッ!と重い衝撃が腹に響く。

「ガッッッァっ!!!」

 甲冑のおかげで直接攻撃は受けなかったものの、凹み具合からそれが強い力だったと言うことは明白だ。

 俺はよろけながらマジナを見た。突き出した右手に気を取られていたが、左手を拳銃のように握っており、その人差し指から薄黒い紫色の煙のようなものが出ていた。

「惜しかったな〜」

 ニマリと笑う。マジナは着地した体制で左手の人差し指の煙を消すようにふぅっと息をかける。

「考えさせないよっっ☆!」

 すぐに俺に左手を向ける。

「っ!!!!」

 距離が近い!咄嗟に俺は銃口が向けられている頭を下げた。

ゴッッッッ!

 左手の指から黒紫の弾丸のようなものが一瞬で頭上を掠める。弾丸は頭上を通過して、近くの低木に当たる。後ろでバキッッと鈍い音がした。

 早すぎる!連続使用できる上に速度も威力も凄い。

俺は姿勢を下げた勢いでそばに落ちていた大きめの石を拾いマジナに投げつける。

「わっ!いったーい!」

 マジナは後ろに下がり、おちゃらけたように石をキャッチして叫ぶ。

 煽りには乗らないっ!俺はマジナを無視して地面から砂を呼び素早く棒のような形状にさせて強く握った。大きく振り上げる!

「短いっ!届かないよ!」

 無視してそしてそのままマジナに目がけて振り下ろす!

振り下ろす瞬間、俺の持っている砂の棒はグイッと伸びてマジナの頭上に落ちる!ギリギリ砂の操作圏内だ!

「わっ!」

 驚いたマジナは右手で頭上を覆い、右手の甲から円陣のようなものが飛び出して俺の砂の棒を防ぐ!

 円陣はガラスのような硬い感触がした。ガラスが割れた後、俺は砂の棒を解除する。

 魔力を解除した砂はそのままマジナの頭上にふりかかる。マジナはまた俺に銃口を向けようと左手を構えた!あの手をどうにかしないと!俺はマジナの左手首に飛びつき、強く握る!

「きゃっ!痛いっ!」

「こ、こ降参してください!」

 細い手首を折らないよう怯えつつ、動かないようにしっかり掴んだ。

「わかったよぉ!」

こーさんし」

 その瞬間、マジナの目に力が入るのを見逃さなかった。

「なーい!!!」

 その言葉と同時に右手で俺の側頭部を掴もうと手が動いたのに気づいた!

 俺は咄嗟に空いている右手をマジナの方へ向ける。

「“飛べ”っ!」

 瞬間、俺の右手首から砂が飛び出し、マジナの顔に勢いよくかかった!

「きゃっ!!!」

 マジナは慌てて右手で俺の砂をカバーする。


 今だっ!


 俺は両手でマジナの両手首を強く掴む!マジナも俺の手から抜け出そうと激しくもがく!目に砂が入ったようで痛そうだ。

「もう最悪っ!“蛇となり牙を剥け”!」

「“砂靴”!!!!」

 俺はマジナの言葉を遮るように、間髪入れずに叫んだ!

その瞬間、マジナの右足がツルリと空中に滑る。重心を失ったマジナの身体はそのまま地面へ崩れ落ちた。乾燥した地面は土煙が舞う。

 俺も一緒にマジナが頭を打たないよう抱え込むように倒れる。


「………あの、降参してくれますか???」


 その言葉を聞き、マジナは胸元をチラリと見て小さく呟いた。


「あー、滑った時の土煙でナイフ作ったの?すごっ」

  マジナの胸元に俺は刃を突きつける。俺の手は震えていたが、しっかりとナイフを握る。

「ねぇリュウジ、降参してほしい?」

「………マジナは殺したくないな」

「…優しいね」

 目を俺から逸らしたままマジナは優しく言う。

「降参、」

 その言葉に俺は胸を撫で下ろす。ナイフを解こうとした時だ。

「しーない♡︎」

 がぶっっっ!

「あ”でっっ!!!」

 俺のケツに激痛が走った!

 慌てて見ると、マジナの放り投げている右手から薄ピンクの蛇が生えており、俺のケツに思い切り噛みついていた!

「甘いね〜!」

 ケラケラと笑うマジナ。これは卑怯だろ!

「あはは!ごめんごめん。私の負け!こーさんです!」


 俺たちは立ち上がり、マジナは手を差し出してきた。

俺もケツを触りつつ、それに応えて握手をした。ブンブンと俺の手を無邪気に振る。

いってぇ…。

「凄いじゃんリュウジ!」

「まぁたまたまだな…」

「あの飛んできた砂は隠し持ってたの?」

「ああ。両手とも袖の隙間に砂を入れてたんだ」

「あ!“砂靴”も超良かった!いい使い方〜!」

「まぁ、あれは思いつきだったから上手くいってよかったよ…」

「またまた〜!」

 ばしばしとマジナは俺の肩を叩く。

 実際、“砂靴”をああ言う風に使うのは初めてだった。


 両手が塞がるなんて想定していなかったし、意外とマジナの力も強かったのであまり魔法に集中できる気がしなかった。

 ただあの状態を打破するために何が出来るかを考えたときに、体勢を崩させるという案が浮かんだだけだ。しかし力が拮抗しているため俺の足を動かせるのは不可能で、俺の使える魔法を思い出した時に“砂靴”が出てきたのだ。

 “砂靴”は何度も練習してきたし、感覚は覚えていたので何とかなったというところだ。やっぱり練習は必要だな、と改めて感じた。



「まだまだヤるけど、口の中ジャリジャリするからちょっとうがいしてくる!」

「じゃあ俺ここで待っときます」

「おけおけ〜☆」

 明るく走ってマジナは家の中に入る。

待っとく間も練習しとくかな。

 俺は砂を指で呼ぶ。砂は舞い上がり、サラサラと一本の紐のように連なって地面と俺の指を結ぶ。

 くるくるとゆっくり指を宙で回すと、砂もゆっくり一緒についてくる。

 しかし、ついてくるのは指から1メートルほどで、それより下は形を保てず地に落ちる。

 難しいな。


「のうリュウジ」

 俺を見ていたナナが声をかける。


「先の戦いぶりは見事じゃった」

「ありがとう」

 ナナならもっと手放しで喜ぶものかと思っていたが、今回は含みのある褒め方だ。

「……何かアドバイスあったりするか?」

「うぅむ。マジナが負けを認めたから差し出がましいのじゃが」

 ナナは少し言い淀むとこう言った。

「今回はマジナが勝ちを譲った、という方が正しいぞ」


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