13.〜魔力とは魔法とは〜
前回までのあらすじ
おつかれ睡眠中。
「ーーーーその可哀想な女の子には、大切なひとがいました」
どこかで声がする。ぼんやりとする頭でその声を聞く。
「ーー消えてしまう大切なひとに女の子は必死に、」
「泣きながら、ごめんなさいとあやまりながら、大切なひとを、終わらせることにしました。そして、ほんとうに、ひとりぼっちになるのでした」
どこかで聞いたことのある声。
「そのあとはその大切なひとのために、生きるのです。そうしなくては、」
ナナとは違う女性の声。
「……誰だ?」
俺は眠く重い瞼をゆっくり持ち上げる。そこに映ったのは。
「あ。おは〜」
マジナだった。片手でひらひらと挨拶をする。
「よく眠れまちたか?♡︎」
赤ちゃん言葉で呆然としている俺を撫でる。
「!?!?」
俺は慌てて起きあがろうとするが、マジナの細い指で肩を押される。
いつの間にか俺は自室のベッドに入り眠っていたようだ。
気がつくと仰向けに寝ている俺の上に、マジナが座っていた。
俺の腰の部分に跨って。
そして俺の肩を抑えることにより、マジナは四つん這いになりお互いの顔はなお近づく。俺は叫ぶ。
「ちょちょちょ、それは!ね!流石に!!!!!!」
焦る俺にマジナはニマリと口角を上げる。
「なになに〜?意識しちゃってまちゅ〜??」
さらにゆっくりと顔を近づけてくるマジナに俺は反射的に顔を逸らす。
恋愛経験ゼロ女性と接する機会ゼロ(母親は除く)の俺にはキツすぎた。
マジナのサラリとした髪が俺の顔にかかる。
「実はわたし、結構君に興味あるんだよね〜」
目を瞑り顔を逸らしてもマジナの匂いと声の熱を感じて耳が熱くなる。
「ふぅ〜っ」
ちょうど目の前で顔を横にしたからか、マジナがまたしても耳に息をかけた。
「ぁぁあがががががががかぁつつつつっっっつ!?!?!」
驚いた俺は耳を押さえてつつ逃げようとして後ろに下がる。
その瞬間、ベッドのフレームに頭が当たり、激痛が走る。
「がぁっっっ!?!?」
「あはははっ!大丈夫!?ウケるんだけど!!」
痛がる俺にマジナが声だして笑う。
「じ、じょ、冗談はやめてください!!!」
俺はキツく目を瞑り必死に手を出し振り回してマジナが近づかない様に牽制し、毛布を体に引き寄せ壁側に小さく丸まった。
「ごめんごめん」
けらけらと笑ったマジナは素直に後ろにひく。
「あ〜、マジで面白いね〜。大丈夫?」
俺は心臓を抑える。ドキドキが止まらん
「でも、興味あるのはマジだよ」
また意味ありげにニヤリと笑う。
「いやいや…何度もからかわないで下さい…」
既にグッタリとしている俺。
「マジだって!その体はナナから貰ったんでしょ?」
「そうだけど…」
「ホント凄いなぁ、お肌も人間そのものだし」
そっと親指で俺の頬を触る。
「限りなく“人間”だよね。ナナも頑張ったんだね」
小さい声で呟く。その声色はいつものギャルではなく、優しい姉のようだった。
「リュウジくん」
「え?」
「ナナを許して、信じてあげてね」
綺麗に澄んだ蜂蜜に似た色の大きな瞳でこちらを見つめる。
「君は良い子だね。君ならナナをーーーー」
そう言いかけた時だった。
「リュウジーーーー!!!!!無事かーーー!?!?!」
バターーーンッ!
と大きな音を立てて扉が開く。
そこにいたのはナナだった。
慌てて駆けてきたのか扉を開けた体制のまま、肩を大きく上下に動かし息が荒かった。
グワりと目を見開きこちらを見る。
その瞬間、ナナは「ひぃぃい!!」と声を上げて慌てて顔を両手で隠した。
忙しいやつだ。
「破廉恥じゃっ!!!ふ、ふふ、ふ、ふ、不適切な関係じゃ!!!」
そう言いつつ覆った指からチラチラとこちらを覗いている。
ベッドの上に男女が2人。
男は壁側に毛布を持って小さく丸まって座り、女は男に覆いかぶさるように近づき頬を触っている。
確かにこれは…。
「ま、マジナぁっ!!お主っリュウジに手を出してはならんっ!リュウジは我の、右腕ぞっ!?!?」
「ほいほーい☆」
ブイっとポーズを決めながらマジナは俺からパッと離れる。
いつものギャルだ。
ベッドから降りたマジナと入れ替わるようにナナは近づいてきた。
「リュウジ、無事か!?おぉおぉ、怖かったのぉ!?」
ささっと毛布を剥がして衣服に乱れはないか確認される。
「どこも不愉快なとこは無いか?」
続いて腕や首を覗き込み何かの確認をしている。
「もぉ〜わたし何もしてないし!」「大丈夫だし〜」と髪先をイジりながら口を尖らせてマジナは呟いている。
「………ふぅ!害はなかったようじゃな」
ひとしきり確認をして安堵したようだった。
「安心したようで何よりだ。で、何でここにマジナがいるんだ?」
「あぁ!それはじゃなぁっ」
「ちょいちょーい!」
会話をしようとすると、すぐにマジナが割って入る。
「とーりーあーえーずっ!!騒ぐのは終わりっ!まずは朝ごはん!マジナ特製パンケーキ、食べよー!」
ぐー!と親指を立てて突き出し、ウインクをする。
誰のせいでこんなに騒がしいんだか。
「まずは何でマジナが居るのかじゃが」
「そうそう。昨日約束したのは明後日、つまり明日だろ」
あの後、俺たちはぞろぞろと下の階に降りた。
マジナは当たりの前のように台所へ入り、粉物を棚から取り出して塩と水をささっと加えて混ぜ始めた。場所の把握もしているようで、俺がこちらに来るより前からこの家に出入りしていたのだろう。
「リュウジが聞きたいといったことが気になっていたようでな、早めに準備をしてこっちに来てくれたそうじゃ」
「そうだよ〜!ナナにも最近会えてなかったし!」
「我も会いたかったんじゃが、町をおとした事もありヤル事も多くての。中々行く機会が無かったんじゃ」
「それ町で聞いてビビったよー。マジでやるとはねぇ〜。うんうん!凄い!」
「我はヤル女じゃぞ!」
生地が焼ける良い匂いがこちらまで漂ってくる。
「流石!…でも町的にも良かったんじゃない?クソ領主がマジ最悪って言ってたし。あいつ自分の事ばっかで皆の事マジで何も考えてなかったよね〜。わたしのこともジロジロ見てきてキモかったしさ。
町の人でナナが意外と良い人で安心した〜って言ってる人もいたよ」
「そう思ってくれてるのなら幸いじゃな」
「あ、てかリュウジがなんかめちゃデカい爆発させたんでしょ。それも聞いたよ〜!」
「あぁ、それはじゃな。我がやった爆発なんじゃが、リュウジがやったように見せかけたのじゃ。リュウジを舐められたくなくてやったんじゃが、リュウジに迷惑をかけてしまってな…」
ナナは少しバツが悪そうにこちらをチラリと見た。
「…まぁ、もう俺は気にしてないよ」
本当はちょっとだけ気にしているが、ナナも反省しているし何より悪意があった訳ではないのは明白なのだからこれ以上は何も言わない。
「よーし!でけた〜!マジナのマジでパンケーキ!」
じゃーん♡︎という擬音付きで俺とナナの目の前に皿が置かれる。
一枚の大きなパンケーキに果物とジャムが顔のように配置されている。
ウインクしている顔がなかなか可愛い。
顔の下には点々とジャムが置かれている。
「あっ!そのジャムはウチの今日の洋服をイメージしましたっ♪」
ジャムを見ていた俺に気づいたマジナは解説をした。
そう言われて初めて今日のマジナの装いに目をやる。
髪はいつもの三つ編みをグルリとドーナツの様にひと巻きした後にお団子にしていた。お団子の結び目には黒いベルベットのリボンと黒く所々に黒丸がついたレースが大きい扇状に広がっている。
首にはベルト。銀色の十字架が下がっている。
そして洋服。鎖骨がよく見えるデコルテのあいた黒い服。襟元を装飾しているレースも黒だ。胴部分には髪飾りと同じような形の黒いリボンがついている。腰部分に切り替えにもレースがついており、後ろの裾は長めの燕尾服のように二手に別れていた。
腕はくしゅくしゅと絞りの入った七分袖で、肩から全部黒のシースルーになっている。
右手には銀色の太いバングルが一本と細いバングルが三本。全て同じように装飾も捻りもないシンプルなものだ。
爪には黒い薄いマニキュアをつけており、人差し指には等間隔にドットが描かれていた。薬指はどちらとも黒のマニキュアに銀の大きな石がついていた。
靴は黒いエナメル質で、ヒールが高いぶん分厚くてゴツい安心設計だ。
スカートは沢山のフリルで作られており、かなり短い。黒いスカートから伸びるしなやかな足には編み上げのレースニーハイ。太ももを絞めている太い黒ゴムとスカートに繋がる生足部分にドキドキする。
この姿で俺に乗っていたのか…。寝ぼけてて良かった…。
改めて今朝の体勢を思い出すとかなり刺激が強い。美人のギャルに迫られるとか最高すぎる…。
「これリュウジ、見過ぎじゃ!ニヤニヤしよって!」
ナナの声でハッと我にかえる。いけない、口元が緩んでた。
慌ててパンケーキを口に入れる。美味い。
「そんで、聞きたいことってなぁに?」
マジナも席につきパンケーキを食べながら聞いてくる。
「魔法が強くなる鍛錬方法について聞きたいんだ」
「魔法が強くなる鍛錬方法?リュウジは何の魔法だっけ」
「俺は砂の魔法だ。だけどあんまり上手くいってなくって。量で言うと両手で握れる分だけって感じだ。かなり集中してイメージしないと操れないから、同時に複数の操作は出来ない」
「我はなっ、まだ数ヶ月しか魔法を使ってないのにコレだけのことがでるリュウジを誇りに思っておる。大体砂の魔法はな、小さい分操る量がかなり多い。それを両手分となると中々出来ることではない!」
ナナが必死に持ち上げてくれる。
「褒めてくれるのはありがたいけど、俺としてはもっとガッツリしっかり操りたいんだ。小さい分操る量がかなり多いって言うけど、実質的にはかなり少ないしなぁ」
マジナは俺とナナを交互に見て「ふーん」と呟く。
「実戦を考えると、俺的には砂を剣にしたり遠くに弾を飛ばすみたいにしたいんだよな。その為には威力や強度が必要だし、戦うならもっと使える量も増やさなきゃな」
俺は今後の目標を伝える。ナナは慌てたように俺を見る。
「確かに右腕として働いてはもらうが、そこまで急かんでも…」
「でも結局はそこに行き着くだろ。出来なきゃいけないなら、早い方が良いだろ」
俺はナナの言葉を制止する。魔法の力を得て浮き足立っていたが、とんとんと上手く上達せず自分でも焦っているのが分かる。
でも、それ以上にナナに喜んでもらいたいのだ。
俺のことを想ってくれるナナに、恩を返したいのだ。
「ちょいちょーい!」
マジナが声を上げる。
「リュウジのガチの思いは分かった!ナナの気持ちも分かった!
ドーンと!マジナちゃんに任せんしゃい☆」
グッと親指を立てて俺たちに突き出してウインクをとばす。
本当に大丈夫なのか?
俺たちはちょっとだけ不安になるのだった。
朝食を終え、ナナは足場に乗りながら皿やフライパンは洗う。
俺は朝食をとったテーブルでマジナから講義を受けることになった。
マジナは俺の隣の席に座り、大きな紙と鉛筆を取り出す。
「まず、リュウジは魔法をどうやって使ってるの?」
「えっと、使う魔法のイメージを強くして動けって念じて使ってる…?」
「なるほどね〜」
思案した顔で紙を睨む。
「難しいんだけどさ、魔法って魔法量と魔法の使い方の要素があるんだよね」
マジナは紙に“魔法量”と“使い方”と書き、グルリと丸をする。
「魔法量は大体分かると思う。魔法石とかじゃなくて、その人自体が持ってる魔法量ね。そんで使い方ってさ、大体3分類に別れるんだよね。直接魔法使うのと補助的なものを使って魔法使うのとそれ以外」
そう言いながら“使い方”の下に“直接”“補助”“それ以外”と書き込んだ。
「直接魔法はリュウジの言ってたみたいに直接念じて動かすやつ。念じる以外はややこしくなるから今回は外しとくね。それで、補助的なものって言うのは道具もだけど、身体や言葉を介して補助するものなの」
「どういうことだ?」
「簡単に言うと、念じる時に口に出した方が魔法を使いやすいってこと」
たとえば、とマジナは容器を取り出した。蓋を取り、テーブルの上に砂をサラサラと落とす。マジナは砂に指を近づけた。そしてゆっくりと砂から離れると、その指と一緒に砂が付いていくように動き出した。
「こう言ったシンプルな動作は念じるだけで大丈夫だよね。だけど…」
マジナはまた指を砂に近づける。今度は砂を指で弾いた。
舞い上がった砂はゆっくりと宙に浮くが、動きを止めやがて重力に引っ張られてテーブルの上に全て落ちた。
「もう一回いくよ」
マジナは再び指を近づけ、
「“蝶よ”」
そう声を出して砂を弾いた途端、先ほどより砂は素早く宙へ浮き蝶の形へと変わる。しかし、蝶は羽ばたくことはなくすぐに砂へと変わり元のテーブルへと落ちるのだった。
「まぁ、咄嗟に考えた魔法と名前だからね。すぐ解けちゃった」
テーブルの砂を一箇所に手で集めながらマジナは言った。
「…マジナも砂の魔法なのか?」
「違うよ。今回のは砂の魔法石を使ったの」
ほら、とマジナは俺に右爪を見せた。朝食の時に見た薬指の光っていた銀色の石は光を失いうす薄汚れたようになっていた。
「なんか汚くなってる」
率直な感想を伝える。
「この魔法石の魔法量を全部使ったからね。これは使い切ったからキラキラが無くなったけど、他にも使い切ると小さくなったり変色するのもあるよ」
「この魔法石はもう使えないのか?」
「うーん、これはもう使えないと言うより使う意味があんまりないかな。魔法石は魔力をいれる器みたいなもので、魔力を注げば使える。この石は魔法を入れる容量が小さくて注げる魔力量自体が少ないから魔法で使用しても出来ることは少ないからね。もともと可愛いからネイルに使ってただけだし」
「複雑だな」
「そうだねぇ」
マジナは紙へと目を移し、“直接”と“補助”に下線部を引く。
「私は今この直接魔法と補助的な魔法を使ったんだ。1回目は直接。念じて蝶を作ろうとしたけど途中でダメだった。2回目の補助的なのでは口に出して。まぁ魔法石も使ったけど。持続力は皆無だったけど、一応出来たよね?」
「あぁ。蝶の形をしていた」
マジナは頷く。
「今回のは思いつきで作った魔法なんだけど、要は念じるだけより声に出した方が精度が上がって成功しやすいって話なんだよね。これは口を使うから、口唇補助って言うよ」
「なるほどな。勉強でも頭で反復するより声に出したり紙に書いた方が身につくって言うしな」
「そうそう。口に出して耳で聞いてってヤツ」
「言葉は何でも良いのか?」
「そうだね。シンプルなのは動作名でもいいし、難しくて複合的な魔法であれば言葉を作った方が良いね。」
ふむふむと理解している俺を見て、マジナは笑った。
「“砂靴”とかね」
「!!」




