12.〜ギャル魔女はワル魔女?〜
前回までのあらすじ
マジナは悪い魔女
ライフがつきかけ真っ白な俺を哀れんだ目でアダシノが見てくる。
「急にどうしたの」
「さぁ」
子供2人組は声が届かなかったのか、なんの事か分かってないようで頭がおかしいと言わんばかりにこちらを見る。
「あはっ♪ごめんね〜リュージが可愛くて♪ごめんごめん」
えへへと笑うと俺から離れる。そしてちらりと空を見上げると、
「もう暗くなっちゃうから帰るね〜」
と、全て何事もなかったように帰ろうとしだした。
こんだけ場を荒らして放置するのかよ!?という気持ちより強い気持ちがあった。
帰ってくれ!!!!
「ばいにゃら♪」
と俺の気持ちを知ってか知らずかマジナはばけねこ風の軽やかな挨拶をする。マジナが後ろに手をかざすと、箒がふわりと地を離れマジナの背後へと飛ぶ。ノールックでマジナは箒にちょこんと腰を乗せると、箒は上へと浮き上がる。そのままスイと垂直に飛び、角度を変えて進み出す。
俺らを見ることもなく、あっという間に居なくなった魔女を俺たちは何かを言う間も無くただ見送るだけだった。
空を見るまで気づかなかったが、空はもう傾き始めていた。
「嵐みたいな人だったな…。と言うか、こんなに暗くなってたんだな。田ノ原、俺たちももう帰ろうか」
アダシノが静寂をやぶり声をかける。
「あぁ、そうするか」
気を取り直して俺も答える。
「またこの森に来て良いかな?」
アダシノはルゥ達にも声をかけた。
「えー。でもお前らうるさいしなぁ」
ごねるルゥをダビィが一瞥して言った。
「良い。こんなこと言ってるけどルゥも来て欲しそう」
「は!?何言ってんだよ!んな訳ねーだろ!」
ダビィの言葉にルゥが噛みつく。この2人はいつもこんなやりとりをしているんだろうな。会話からも、肩がくっつきそうなほどの距離からも仲の良さが伝わる。
二人で暮らしているのかとか、親御さんはどうしてるのかとか気になるところはあったが聞かないでおこう。
俺はその場で伸びをする。結構歩いたし運動した。ナナ以外の人と話したのも久しぶりな気がする。
何よりアダシノが同級生ってのも収穫だったし、詳しく中身の動作確認はしていないが携帯も手に入った。
今日は久々に良い日だったなと大きく空を見上げる。赤梔子からゆっくりと藍色にグラデーションをつくり日が落ちようとしている。
俺らは森の入り口まで2人に見送ってもらい、アダシノと森を後にした。
帰り道は思ったより会話が弾んだ。同じ転生者だからだろうか、妙な安心感と連帯感をお互い感じたみたいだ。
「アダシノは前と見た目変わんないんだな」
「田ノ原が変わりすぎだろ〜」
俺たちは肩を並べて歩いていた。
「いや、俺のはナナがいい体を用意してくれたからだから。逆にアダシノが変わってないのが不思議だよ」
「カラダ??」
「ああ、器、だっけ?元の姿よりこっちのが全然良いから俺は別にさ」
「え、待って。ウツワ???」
アダシノが被せるように聞き返す。
その質問の意味がわからず俺は顔を見る。向こうも不思議そうな顔をしていた。
「え?」
「え?」
「え?…魂をこっちの体にうつしたんだろ???」
「え?…俺は前の体のままこっちに召喚?されたらしいけど…」
「?」
「?」
「「????????」」
俺たちは食い違いに気づき戸惑った。
同じ時間に同じ世界に召喚されたはずなのにこの違い。
どう言うことだ???ナナが嘘を言っているとは思えないが、アダシノもそんな嘘はつきそうもない。
確かにアダシノは前のアダシノと見た目は同じだ。
髪以外は。
「あっ!これは染めてるんだ!出生不明な人間の黒髪は不吉だって言われてさ!!」
俺がまじまじと髪を見つめていた事に気づいたアダシノは頭を触りながら必死に弁明のようなものをする。
こんなにワタワタする人間が嘘をつくか?それに言った通りアダシノの見た目は前と同じすぎる。
でも、俺も見た目が違いすぎる。顔つき骨格身長といい、明らかに別の体だ。
「…どういうことだ…?」
考え込む俺をみて、アダシノが言う。
「まぁ、別に良いんじゃないか?」
あまりにあっけからんと言うので、思わず何故だろうという表情でアダシノを見た。
「田ノ原は田ノ原。俺は俺。今は、それで良いんじゃないか??」
斜陽に照らされながら、明るく笑うアダシノ。
眩しい夕日がアダシノをふちどり、キラキラとその姿をうつしだす。
何の疑問の解決にもならないんだが、と口を開きかけて止める。
確かに何も知らない俺たちが考えたところで意味をなさないだろう。
爽やかな笑顔でこちらを見るアダシノを見ていると、何となくつられて口が緩むのが分かる。俺は黙々ぐるぐると考える節があるから、アダシノみたいな真っ直ぐなタイプは羨ましい。
こいうのを主人公って言うんだろうな。
俺は目を細めて、真っ直ぐ突き進むアダシノを眺めた。
◆ ◆
「本当に良いのか?」
「あぁ、俺も早くギルドに帰らないと」
「そうか」
森と町の間に俺の家はある。折角打ち解けることができたのでナナへの報告も兼ねて家に招いたのだがアダシノは家を一瞥すると断った。
「また今度誘ってくれよ!絶対な!」そう笑うアダシノを見送り、俺は家の中へと入った。
「早いな。マジナは息災じゃったか?」
2階からトントンと降りてきながらナナが声を掛けてくる。
「あぁ、ただいま。森でたまたま会えてさ、すごい元気なギャルだったわ」
「ギャル?」
「あー、若いイケイケ元気な明るいパリピ女性ってこと」
俺たちはそのままリビングに行く。俺は椅子へ腰掛け、ナナは台所から2人分の飲み物とクッキーを持ってくる。水はレモンとハーブのようなものを浸からせたものだ。
「まぁマジナは確かに明るいな。しかし森で会えたとは幸運じゃな〜」
「他にもルゥとダビィって子供にも会った。水色の魔法使いってダビィの事なんだな」
「おお!ルゥとダビィ!」
ポンと手を叩き驚く。どうやら知っているようですぐに笑顔になる。
「子供たちはどうじゃ、元気じゃったか?困った様子はなかったか??」
「元気すぎだな。特にルゥってやつ」
「おーおー!ルゥは特段元気よのぉ〜。あの子はダビィか好きじゃからなぁ〜!……あ。今のは聞かんかった事にしてくれんか?」
ナナは慌てたように手で口を抑える。あんな態度で好きなのバレないわけないだろと俺は呆れた。
「いやそんなのバレバレだろ。何か俺たちのことダビィを連れ去るんじゃないかって急に攻撃してきたし。どういうことだ?」
その言葉にうーんとナナは考えこむ。“連れ去る”という部分にどこまで言っていいか考えあぐねているようだ。少しして、ナナは口を開く。
「ダビィは昔、別の国にいたんじゃ。その国では凄い貴重なレベルの強い魔力でな、秘蔵っ子としてダビィはかなり窮屈な思いをしていたと聞いておる。それを助けるためにルゥが頑張って連れ出して、今はその国の奴らに捕まらぬよう、森にいるって訳じゃな」
最後はだいぶ大まかな流れだったが、なるほどな。
子供2人が隠れるように森に住む理由としては納得だ。
あの問答無用な異常なまでの警戒心。そしてダビィのとんでもない強さ。
子供2人で町に住むには目立ちすぎる。身を隠すとしては森は最適なのかもしれない。でも、
「2人で本当に大丈夫なのか?その国の奴らが攻めてきたら流石に2人だけじゃ太刀打ちできないんじゃないか?」
「安心せい」
ナナは優しい目で俺を見る。
「あの森には結界を張っている。基本的は入れないようにしてるのじゃがな。まぁ、それを突破できても“森に入った”と認識した時点ですぐに子供たちにも知らせが届くのじゃ」
「“にも”?」
「うむ。あの子供たちを温かく守っている者たちがいるということじゃ。ちなみにマジナもそのうちの1人じゃ」
「え。じゃあ、マジナがあの森にいたのって…」
「ふふ。そういうことじゃな」
笑いながら俺にウィンクをする。
「というか、マジナの家は凄い遠いらしいな。今回は会えたからいいものの、気軽に行ける感じじゃなかったぞ」
ナナのウィンクを軽くかわして苦言を呈する。
「?そうかの?」
ナナはきょとんとする。
「あのちびっ子2人が数日かかるって言ってた」
「??そんな遠かったかの?」
そしてすぐにポンと手を叩く。
「そうじゃ!我は飛んでいくからの!そんなにかからないんじゃ!」
「俺は飛べないんだからな…」
「いや〜悪いことしたの。まぁ、普通はあの森を通過するじゃろうから結果的に今回みたいに会えたはずじゃ」
ははは、と苦笑してナナは水を飲む。
「それよりじゃ。一緒に帰ってきていたのはこの間の男なのか?」
「アダシノのことか?」
そういえば、ナナも公園の時にアダシノを見たんだっけ。
「アダシノというのか」
「そう。ーーー実は、あいつも俺と同じ転生者だったんだ!!」
ばぁーんという感じで言ってみた。俺以外にも同じような人間がいてさぞ驚くことだろう。俺は鼻高々になった。
「……な、なんじゃってーー!?」
一瞬の間をおき、大袈裟に驚いた素振りをする。棒読みにも似た叫び声は俺をガッカリさせた。
「何だよ。知ってたのか?」
「いや、今知ったわ」
「知らないのにそんな反応なのか!?」
「まぁなんじゃ。最初に会った時からアダシノという者からもリュウジと同じ転生者としての雰囲気を感じていたというかな。実はアダシノという名前自体はちらと聞いていたのじゃ。突然現れた、黒髪異色の勇者として」
「なるほどな」
そうだ、
「ナナ。実はな、アダシノと俺で転生方法が違っているらしいんだよ」
そう告げた時、ピクリと動揺した…気がした。
「……どういうことじゃ?」
しかしすぐにキョトンとした表情でこちらを見る。気のせいか?
「俺は魂をこっちの器に入れてもらっただろ?アダシノは体ごとこっちに召喚されたらしいんだ」
ふむ。とナナは考え込んだ。
「憶測じゃがーーー」
ゆっくりと口を開く。
「状況が違うんじゃと思う」
「状況?」
「リュウジとアダシノがこちらへ来た時の状況は知っておるか?」
「ああ。俺はトラックに轢かれた瞬間、真っ暗な場所へ飛ばされてナナが魂を器に入れてくれたんだ。アダシノはーーー詳しいことは聞いてないけど、轢かれる俺の後ろ付近にいたのに間違いはない筈だ。だから俺が轢かれた時と同時に転生していると思う」
「そこじゃな」
うんうんとナナは頷く。
「轢かれたという事はじゃ。リュウジは体が物理的に死んだため魂だけの状態でこちらへ連れてきた。体は持ってこれない状態じゃったという事じゃな。しかし、アダシノはまだ轢かれておらず、轢かれる直前にこちらへ連れてこられたから体もあった、こういうことじゃな」
なるほどな。魂しかない状態の俺と、体もまだ存在する状態だったアダシノ。ここが分かれ目だったか。
俺としては元の顔体より今の方が好きだから、別に体ごと来たかったとは言えないが。
「してリュウジ」
ナナは真面目な顔をする。
「な、何だよ……」
真剣な表情に俺はごくりと唾を飲む。
「………アダシノという者に虐められなかったか!?!?」
「えっ!?」
「ほれ、この間公園であんな事があったじゃろ??先ほど一緒に帰ってきた時に何か断られていたじゃろ!あやつはヘラヘラ笑っておったが、リュウジは寂しそうな笑顔じゃった!我は心配だったのじゃ!!!!!」
「えっ」
「我が大事な右腕を傷つけられて怒らぬ者なぞ居らぬ!!!」
「えー」
「リュウジは優しい子じゃ!きっと傷物にされたんじゃろ!?言うてみい!!我は怒ったりせん!!!!!!!傷物にされたんじゃろ!?!?」
「お、お、落ち着け!!」
「家族を傷物にされて落ち着いてられる者はおるのかーー!?」
「だーーー!!うるさい!!落ち着け!傷物って言い方止めろ!!というかいじめられてないし!」
机を叩いて興奮しているナナを遮って俺も声を上げる。
「大体!アダシノは同じクラスのやつだったんだよ!知・り・合・い!」
「………!!アダシノと、知り合い…」
「そう!虐められたりもしていない!アイツは良い奴!分かったか!?」
「………………分かった。リュウジを信じようぞ」
何だか不服そうな顔をしていたが、とりあえず落ち着かせることができた。
「うーむ。しかし2人が知り合いじゃったとはなぁ」
まぁほとんど他人だけど。
「あ、そうそう。明後日またアダシノと会うことになったんだ。」
「!なんじゃなんじゃ?何の話じゃ??」
またもや警戒したようで身を乗り出して聞いてくる。
「いや、実はまだマジナに鍛錬方法を聞いてなくてさ。明後日にマジナが珠玉の玉ってのをアダシノに渡しに来るらしいからその時に聞こうと思って」
「珠玉の玉…痛みなどに効くやつじゃな」
「らしいな。ま、そんな訳で明後日は町に行くよ」
「マジナが同席するなら安心じゃな」
納得がいったようでナナは席に座り直す。そして皿に入っていたクッキーを一枚指でつまむ。
「良いかリュウジ。そのアダシノはリュウジの知り合いだったかもしれん。しかし彼の転生理由が分からぬ以上、味方では無いかもしれん。何か違和感を感じたら小さいことでも直ぐに我に伝えろ。気を許しすぎたり、油断はするでないぞ」
「分かってるよ」
俺の返事を聞くと、クッキーを口に運んだ。
「我にとってリュウジは大事な仲間じゃ。お主を失わないためなら何でもしようぞ」
ばきり、と音を立ててクッキーを噛み砕き俺をまっすぐ見据える。
その眼差しはいつになく真剣で真摯でまるで魔王を思わせる気迫だった。
ナナは魔王を名乗る者になろうとしている。それをハッキリと思い出させるほど背中がひりつくのを感じた。小さな体のどこからそんな気迫が出るのだろうか、怒ったダビィとはまた違った雰囲気に鳥肌が立つ。
「!!……まぁ我にとってリュウジはそのくらい大事な存在ということじゃ」
固まっている俺をみて、慌てたようにいつものように明るくナナは振る舞う。
「リュウジ疲れたじゃろ。今日はもう休むが良い」
いつもと同じように優しい目でこちらを見る。
「あ、あぁ」
「我もそろそろ休もうかの」
何事もなかったかのようにナナは椅子から降りると自分の空いたグラスと皿を持ち台所へと向かう。
「…………俺クッキー食べてから行くから、先に寝てて良いよ」
「…そうか。夜更かしは程々にな。お休み」
「…………おやすみ」
ナナはそのまま扉を開け、トントンと階段を登っていく。ナナの自室の扉が閉まる音がした。
「…………はぁ〜〜〜〜〜…」
ナナが来ないのを感じると、俺は全身の力が抜けるのを感じる。
ナナがあんな表情をするだなんて知らなかった。
もちろん出会って日が浅いのもあるが、今までのナナといえば不遜に笑って決めポーズを決めたり、一緒に魔王らしい座り方を模索したり、クッキーを食べ尽くして俺が怒ると子供らしくシュンとしたり、俺が落ち込んだらおばあちゃんみたいな表情でこっちを見てあったかいお菓子とハーブのお湯をくれて慰めたり、明るく優しい顔しかしらなかった。
正直、ダビィと出会った時のあの怒りの表情より怖かった。
恐ろしいものに睨まれるような、動くと殺されてしまうような、そんな気分だった。
「でも、俺を失わないためなら何でもする、か………」
表情は今までにないくらい恐ろしかったが、ナナの言葉を俺は噛み締める。
まるで漫画みたいな台詞だ。
でも悪くない。
いや嬉しい。
そこまで想ってくれるだなんて思ってもみなかった。正直魂を救ってくれたナナには家事手伝いくらいしか恩は返せてなかった。むしろ俺の練習に手伝ってもらったり家事も失敗して迷惑をかけてばっかりだ。
俺は天を仰いだ。
「ここにこれて良かったなぁ」
噛み締めるように呟いた。
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