悲しい系のおはなしの短編
某所で書いて欲しいと言われたので書きました
その日は、月の明るい夜だった。
「こんばんは、やっぱり今日もみすぼらしいのね」
「エミリちゃん…」
ボロ小屋の窓は月の光が良く通った。似つかわしくない二人の姿が青白く照らされていた。
こんな所に来たら怒られちゃうよ。その子は決まってエミリに言うのだが、その日はそれがなかった。
「ほら、今日もあなたに似合いそうなもの沢山持ってきたわよ!」
その子の顔立ちはとても綺麗で、初めて見かけた時からエミリはその子が羨ましかった。
「うん! こんなに綺麗だとどんな服でも似合うわね!」
「えへへ…」
その子はエミリにそう言われるのがとても嬉しかった。
「なのにどうしてあなたはそんなにもみすぼらしい服が大好きなの?」
エミリがいくら綺麗な服をあげても、翌日にはみすぼらしい服を着るのだ。
その子は決まって黙るので、エミリは慣れっこだった。
「そうそう、今日はこれだけじゃないのよ! あなたやっぱり名前がないの?」
その子は決まって頷くのだが、その日のエミリにはそれが嬉しかった。
「実はね、私あなたの名前を考えてみたの!」
二人が真正面から見つめ合うのは、その日が初めてだった。
「ルビィ! 赤くて綺麗な目をしてるからルビィ! どうっ? どうっ!?」
「ルビィ…」
その子の目からは涙が溢れていた。
「どう? 気に入った?」
「うんっ…うんっ…!」
「そんなに気に入ってもらえるなんて…フフ。大切にしなさいよ。ル、ビ、イ!」
「大切にするっ…大切にするっ…!」
自分の考えた名前をここまで喜んでくれるなんて、エミリはとっても嬉しかった。
別れが名残惜しかったので、その日の二人は少しだけ長く一緒にいた。
月を眺める二人は、お互いがお互いにもたれかかっていた。
「それにしても今日は随分と月が綺麗ね、ルビィ」
「うん、綺麗…すごく、綺麗…」
ルビィが最後に見た月は、青く、白く、とても綺麗だった。