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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
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-幕間-3-5

 ぴんと澄んだ朝の空気。洗い立てのような太陽の光が差し込む街の大通り。

 新しい一日が始まったその中、背を丸め気だるそうに歩いていた。

 頭の中はまだ布団の中に居る様で、ぼんやりとして仕方が無い。一つ、喉の奥まで見えるような大きな欠伸をすると、肺にひやりと冷たい空気が満ちていく。


 ──目の前には、見慣れた三人の冒険者の後姿。僕には一歩離れるくらいの距離感が丁度良い。

 ここで暮らしを立てられる様になってどれだけ経っただろう。まさか他人とこうして街を歩くとは思いもしなかったが、近頃はこの光景にも随分と慣れてきた。

 きっと今の僕は実に凡庸で、そこらでよく見かける冒険者然としているのだろうなと常々思う。全く、おかしなこともあるものだ。


 ギルドへ着く前に、何か軽くで良いから腹に入れておきたいが。さて、どうしたものか。

 並ぶ出店に眼を滑らせると、店頭に並んでいたローストしたナッツの詰め合わせを一つ注文する。ウィルマは朝っぱらからよくもあんな甘ったるいものを選ぶなと、少し驚きながら見ているとアルマンが皆に語りかけた。


「なぁ、近頃迷宮でおかしなことが起きてるらしいんだが…皆は何か知らないか?」


 ──おかしなこと。

 迷宮に夢を抱いて冒険者になったアルマンだ。"おかしい出来事"の前に"面白"という一言が付くのだろうなと、そんなことを考えて苦笑しながら店主から品物を受け取る。

 袋越しに掌に感じられる、ほんのりと温かい重さが心地良い。袋の口を広げた途端、ふわりと香ばしい薫りが鼻腔をくすぐった。──ふと。まだ寝起きだった頭に昨夜宿で耳に届いた会話が蘇り、それは自然と口を衝いて出た。


「この手の話で合ってるかは分かんねぇけど…気色悪い形のクラニアが獲れた、とか騒いでたヤツがいたな」


 ──情報の正誤が定かでは無い噂話なんぞ、なんとなしに聞いておくに限るのだろうが。


「ぁー、おかしなことってそういう事?この前のファイアウィスプの件みたいな?」

「前回俺達が潜った時には、そういうの見なかったよな?」


 どちらにしても。

 魔物なんて出来る限り相手にはしたくないし、必要以上に迷宮に潜りたいとも思わない。通常と異なる状態なのだとしたら、それは尚更だ。僕達が今こうしていられるのも、今迄対応出来ない驚異に運良く遭遇していないだけなのだ。


「成程…表層でもか。もしかしたら、それに関する調査の依頼とか出てるかもな」


 想像通りではあるのだが、本当にコイツはいつもそうだ。

 平坦で、穏やかで。今の生活を維持出来る最低限があれば十分だろうに、それ以上を求める。まさに根っからの冒険者だ。僕とは正反対と言って違いない。


「出た出た…こうなったアルマンとウィルマは本当止まらないからな」


 ──しかしまぁ、うん。

 その日々には、恐らく僕一人では見る事が出来なかったであろう景色や経験、感情の機微が確かにあった。


「ちょっとティル、なんでそこであたしも?!…いや、まぁ、確かに面白そうなのがあったらワクワクしちゃうけど…」

「ははは、まぁそれも悪いことじゃないだろ」


 不満げな視線を送るウィルマをからかいつつ今度こそナッツを口に運ぶと、歯触りの良い爽やかな木の香りと素朴な甘味が口に広がっていく。


 ──わざわざしなくても良い馬鹿げた苦労や、こちらの利に殆どならない非効率なことに首を突っ込むことも少なくは無い。お節介で、御人好しで。決して心地よいことばかりでは無かった筈だ。

 それなのに。いざ振り返ってみると、そんな日常は悪くも無かったと思えるのだから不思議なものだ。


「勿論一部の収集品の高騰もまだ続いてるからさ。予定通り、収集依頼(そっち)の方はちゃんと探そうと思ってるよ。当然だけど、いきなりだと対応出来ないしね」

「んー…そうさなぁ。まぁピークも割りと過ぎてきてるだろうから、アルマンの言う通り併行しながら情報収集すれば良いんじゃないか?」


 二人は落としどころを見付けることが出来たのだろう、大体の目標は決まったらしい。まぁ堅実そうに言ってはいるが、恐らくしっかりと奇種に関連することも調べるに違いないだろうが。

 まぁ、やることをやってくれれば好きにすれば良いさ。出来る事をやって精々稼がせて貰うだけ。スラムでも街でも、いつだってそれは変わらない。

 違うとすれば。隣に慣れ親しんだパーティメンバーがいるかどうか。それだけだろう。


 ──今が幸せかと問われたら、なんと答えるべきか。

 なかなかすっぱりと言葉が出てこないが、まぁそこまで悪くない日々は送れていると、そんな位には満足してると言えるのだろう。

 首から下げた傷だらけのリングが微かに揺れ、朝日に照らされ一寸鈍く浮かび上がる。なんだか懐かしい、不器用な笑顔を思い出した様な。そんな気がした。

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