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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
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88/138

-幕間-3-4

「店員さん!こっちだ、こっち!注文頼むよ!」

「はは、早速遠慮無しだな。…うん、それじゃぁティル?折角だし、お言葉に甘えて今日はたっぷりご馳走になるよ」

「…まぁいいや、好きなだけ食ってくれよ」


 テーブルの真向かいに座る二人が賑わう店内に楽しそうな声を響かせるのとは対照的に、僕は諦めた様に言葉を漏らしていた。

 まぁ今回ばかりは"程ほどに"と口にする訳にもいかない。精々これからその分もしっかり稼がせて貰うか、とそんな言葉を飲み込みつつ、僕は大袈裟に肩を竦めながら目の前の光景を眺めていた。


 ───

 ──


 迷宮を駆け、背中の冒険者を急ぎ診療所へ運び込んで数時間。

 案内された病室を覗くと、ベッドにはブロンドの髪をした青年が穏やかな表情で寝息を立てている。その様子を静かに眺めていた大柄の男がこちらに気付くと、幾分疲労の色を滲ませつつ笑顔を作って見せた。


「遅くなって申し訳ない。…その、相方の容態は大丈夫なのか?」

「あぁ…うん、腕はもう大丈夫だそうだよ。いくらか血を失ったのもあるけど、ここ最近の疲れが溜まってたみたいでね。今しばらく安静にしとけってことらしい」

「そっか…それなら、少し安心した。……今回は、本当に申し訳なかった」

「はは。まぁとりあえずは、お互いこうして帰還出来て何よりだよ。…そう言えば、ちゃんと名乗ってなかったね。俺はセス、こっちのがアルマンだ」


 こんな状況でも律儀に自ら名乗る男の穏やかな視線を追いかけ、もう一度アルマンの様子を伺う。ひしゃげ、潰され裂かれていた手指は何事も無く健康そのもので、白かった顔にもしっかりと色が戻ったように見える。

 僕自身が助けを求めた訳では無い。が、彼らの行動で僕は命拾いをしたし、それが原因でコイツの相方はベッドの上だ。それが客観的な事実だろう。


 ──とすれば。僕が気にするべきはこれからだ。

 結果だけ見れば運良く快方に向かったが、一歩間違えばコイツらの冒険者としての未来は相当に厳しいものになっただろう。病室を訪れる前に治療費は先に支払ってきたが、それだけでは償いは十分とは言えない。

 正直に言えば逃げ出したいのは山々なのだ。しかしながら、やろうと思えば魔術でもギルド経由でも、追跡/特定する事はそう難しくない。最低限の体裁は整える必要があった訳だ。


「…今回の詫びは、改めて明日させて貰っても良いか?えぇと…セスも疲れてるみたいだし、本人も今日はゆっくり寝てた方が良いだろうからさ」


 こういう手合いが相手で且つこちら側に非があるのであれば、さっさと謝意を示すに限る。許してくれるかは関係無く、"きちんと謝罪をした"という事実を作る必要があるのだ。どちらかと言えば親切心ではなく下心に近い感覚だろう。


「ん?あぁ…そこまで気にする必要は無いだろうけど、話をするなら今日じゃない方が良いだろうな」

「いや、ケジメだからそういう訳にはいかないだろ。…これ、僕の名前だ。確認してくれ。あとは…」


 一旦セスにギルド発行の登録証を手渡すと、どうしたものかと一寸黙考する。こんなことになるとは思わなかったから、相応な物が今手元に無い。何か、何か無かったか──

 ふと。一つ相応に価値のある物が脳裏に浮かぶ。それは駄目だと即座に却下し何度も思考を巡らせるが、しかしながら他に良い案が一向に浮かばない。

 諦めると、僕はおずおずと首から下げたアクセサリを手繰り寄せる。指輪に装着したリングホルダーからチェーンを手早く抜き取ると、それを彼に差し出した。


「えっと…コレは?チェーン…?」

「…担保にしては心許ないだろううけど、逃げない証として明日まで預かっておいて欲しい。登録証は渡しちまうと依頼の完了が出来ないし、こっちの指輪は形見だから…虫のいい話だとは思うけど、勘弁してくれるとありがたい」

「えっ…い、いやいや担保なんて無くっても良いよ!」

「無くったってって…いくらなんでも赤の他人を信用し過ぎだろ。…ソレ、そんなに良い物では無いけどさ、形見の指輪を通す為に買った大事な物なんだ。ちゃんと約束するよ」


 事が落ち着いて思考が緩んでいるのだろうか?このセスという男は何故そこまで接点を持たない僕を信頼してくれているのだろう。正直理解に苦しむ。


「それじゃ明日、夕刻の鐘が鳴る時刻に…そうだな、ギルドの近くにある白い看板の酒場に来てくれ。頼んだよ」


 こっちの男はこんなだが、目を覚ました本人が何を要求してくるかは分からない。とにかくある程度は手持ちを用意しないと──

 穏やかな寝息を立てるアルマンの枕元に強引にチェーンを置くと、うろたえるセスを横目に僕は急ぎ診療所を後にしていた。


 ───

 ──


「こんばんは。はは、いやはや昨日は面目ない。本当にご迷惑をおかけしました」

「……何で、責めないんだ。そっちが謝る様な事なんて何も無かっただろ」


 開口一番で交わしたアルマンのその言葉に、率直に言ってかなり困惑していた。

 だってそうじゃないか。僕が謝罪するより前に、僕の事を責めることすらせず。逆に"迷惑をかけた"などなぜそんな言葉が言えるのか。


「僕がアンタらの言葉を聞かなかったからこんな事になったんだぞ?注意された方向に行かなければ痛い思いもせずに済んだんだ」

「んー…確かにそうかもしれないけれど、誰が何に従うか、どこに行くかなんてその人の自由でしょう?」

「あぁそうだ。自由だからこそ、それを選んだ僕の責任だったはずだ。アンタが迷惑に感じるものなんて何も無いじゃないか」

「その点は確かにそうなんですが…頼まれても居ないのに私達が勝手に貴方を追いかけて、勝手に手を出したんです。私達も自由に動いただけなんですよ。まぁ、それで勝手に怪我をした、とも言える訳で…あはは、格好つかないなぁ」

「……」


 正気か?コイツは一体どれだけお人好しなのだろうか。つい言葉を失ってしまう。


「結局、私達もやりたいことをやっただけなんです。勝手に身体が動いたと言いますか…偶然みたいなものです」

「…それでも、その気まぐれで助かったに違いは無いんだよ。…とにかく、今日は改めて礼をさせてくれ」


 頭を下げると、怪我をした当人であるアルマンがどうしたものかと戸惑う様子が見て取れた。本気で謝罪を求めていなかったのだろうか?なんだか調子が狂う。


「…挨拶の時もそうだったけどさ。何でアンタらはそんな御人好しなんだ?こんな目に合ったなら、普通は誠意として金品の一つでも要求するもんだろ」

「えぇと、なんというか…私達そこまで他人に親切では無いですよ?あくまでも自分がしたいからしてるんです。それに対する反応だとかお礼だとか、そういうのを最初から期待していないだけなんですよ」

「そうそう。ある意味では相当に自分勝手だしドライだよなぁ、俺達。というか、やっぱり挨拶は気付いてたんだな」


 何が面白いのか、二人は顔を付き合わせ笑い合う。

 何をするにしても、自分がやりたいからやっているだけだと。最初から他人に期待していないから見返りが無くとも構わないと。そう易々と言ってのけるコイツらはやはりどこかおかしいのではなかろうか。


「そう言えばコレ、大事なものなんですよね?」


 アルマンは思い出したような表情の後に、ポケットから何かを取り出し握らせるようにして渡してくる。そこにあったのは、僕が昨日枕元に置いて行ったチェーンだった。


「…あぁ。こんなものでも、僕にとってはな。…ありがとう」


 早速リングを取り出すと、ホルダーに通し首に掛ける。慣れ親しんだ重さが首に感じられると僅かに気が緩んだ。首から提げていないと無くさないか不安で仕方なかったのだ。やっと安心出来た。

 アルマンはそんな僕を見て、何か思う所があるのかうんうんと満足そうに頷いていた。


「話は少し戻りますが、私達が何かを要求することで貴方が納得出来るとするなら…うん。それじゃあ、お願いしても良いですか?」

「……見たまんま、駆け出しの貧乏冒険者だから多くには応えられないだろうけど。出来る事はさせて貰うよ」


 これまでの会話で、この二人が何を求めているのか全く想像が付かない。分かり易く金銭を要求してくれた方がまだ幾らかマシな気がするのは気のせいだろうか。

 きゅっと口を結び言葉を待っていると、二人は顔を見合わせ"にぃっ"と楽しげな表情を作りこちらに向き直った。


「私達とパーティを組みませんか?」

「……は?」


 虚を衝かれ、思わず間抜けに返してしまった。何を言っているのだろうか。


「そちらは気付いてなかったかもしれませんが、実はたまに見かけてたんですよ。いつも一人で頑張ってるし、凄く真面目なんだろうねって話してて」

「そうそう。俺達もそれなりに短いスパンで潜ってるつもりだったんだけどな。誰にも頼らずそれだけ依頼を受けて完遂してる実績があるってのは、本当に凄いと思うよ」

「ぁ~…評価をしてくれるのはありがたい、けどさ。バランスを考えたら、魔術師(メイジ)とか射手(シューター)だとか雇ったほうが良いんじゃねぇですか?」


 僕も幾らか動転しているのか、ついおかしな口調で聞き返してしまう。


「んー、そういうのも大事なんだろうけど。俺達は折角なら、一緒に冒険したいと思える人に背中を預けたいかな」

「あとは…そうですね。勘違いなら申し訳ないですが。先程のチェーン、リングを繋ぐホルダーとセットになってるものじゃないんですか?」

「……そう、だけど」


 どきり、と心臓が跳ねる。

 何故コイツがそれを知っている?形見の指輪とは言ったが、そんな事までは伝えていなかった筈だ。


「あぁ、そうなんですね。当たってて良かった。…うん。本当に大事なものだったんですよね?きっと。謝罪の為の約束にそういうものを差し出せる人は、私達は十分信頼に値すると思えるんです」


 ──まさか。先程こちらをまじまじと眺めていたのは、リングとチェーンを見比べていたのか。だとしたら、どこか抜けてる様に見えて食えない男だ。


 一つ、心中で溜息をつく。

 一人の方が絶対に楽だ。気を使わないで済むし、時間の束縛も無くなる。

 ただまぁ。こういう奴らを使えるなら。多少は楽に稼ぐことも出来るかもしれない。上手く利用出来ればより効率的に、ともすれば深い階層の依頼を受けることも出来るかもしれない。


 ──それに。全く期待していないと言ったコイツの思い通りのままなのも何か癪だ。いつか想定外の何かで返してやることが出来たなら。それなら、それも悪くない。

 全く、誰に対する言い訳を考えているのか。


「……ティルだ」

「うん?」

「僕の名前。……ちゃんと言ってなかっただろ。改めて、ティルだ。よろしく」


 何故か眼を合わせることが出来なくて。視線を逸らしたまま、初めて自分の口から名前を告げた。二人は顔を合わせ破顔一笑すると、アルマンが笑顔で手を差し出す。


「よろしく、ティル!」

「…っさぁ!話が終わったなら飯だ飯!今日はティルの奢りでガッツリ喰うぞ!アルマン、お前は昨日の今日なんだししっかり体力付けろ!」


 切り替えも早く、セスは早速店員に声を掛けていた。


「今日は快気祝いと新メンバーの歓迎の席だ。折角だし遠慮せずにパァッといこうか!」

「あぁ……うん、お手柔らかに頼むよ」


 いつぶりか。誰かと食事をするのは彼女と食事をしていた時以来だ。随分と騒がしくなるなと溜息をつきながら、僕は苦笑いを浮かべた。

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