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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
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-幕間-2-4

叫声する樹児(マンドレイク)討伐はどうでした?あんまり気持ちのいいモノではなかったでしょう?」


 依頼の清算が終わるというその時に、あたしは何となしに尋ねていた。三階層へ必要に迫られて赴く事はたまにあるけれど、大抵はあまり良い印象を持たれたことが無かったのだ。


「あぁ…確かに、見た目が随分人間に似通ってますから、いくらかそうかもですね」

「何でアレがわざわざ人型をしてるのかっていうのは分からないんですよね…保存性が良くないのもあって、やっぱりあんまり人気は無いんです。マンドレイク狩りって」

「ま、いくらか驚きはしましたけど大丈夫ですよ。二度目でしたし、俺達も受領する段階で流石に覚悟してますから。な?アルマン」


 体躯の良い方の冒険者──セスが生気の漲った快活そうな表情でアルマンに語りかけていた。

 依頼を遣り遂げる一方、迷宮での出来事に眼を輝かせ楽しむことも忘れない。どこか自信に満ちた雰囲気で微笑を交わすそんな二人がとても充足して見えて──


「お二人は、これからも迷宮に潜るんですか?」


 あたしの口からは、自然と疑問が零れていた。


「…?えぇ、勿論その予定ですが、どうかされましたか?」

「あぁ、いえ……貴方達には何か目的があるのかなぁと。ちょっと気になっただけなんです」


 目の綺麗に澄んだ透き通るような顔立ちの青年、アルマンはそれを聞いて僅かに首を傾げる。彼はしばらく視線を彷徨わせ思案したかと思うと、気恥ずかしそうに表情を崩す。


「目的、と言える程ではないのですが…はは、お恥ずかしい話ですし、ありきたりな理由ですが…人類未踏の地を踏み締めてみたい、っていうのが夢なんです」


 テーブルの上で指を組み、遠いどこかに思いを馳せて語る彼がとても心嬉しそうで。


「世界のどこかしこも、もう殆どは誰かが訪れたことがある場所じゃないですか。不思議なものっていうのがどんどん無くなっていく中で、まだ誰も見たことの無い景色が広がってる場所がある、っていうのが凄く魅力的に思えるんです」

「まぁ、人工的な作りをしてるから"人類初"ってことじゃあないんだろうけどな。それでも、今俺達が認識出来ない世界が広がってるってのは確かだよ」

「そう、ですか…」


 実際に迷宮に足を踏み入れて尚、今も昔からの眩しい夢を語れる二人が羨ましくて。──だからこそ、口が開くのを止めることが出来なかった。


「…すみません。正直に言うと、あたしあんまり迷宮って好きじゃないんです。なんというか…あまりにも命の生き死にに希薄な気がして」


 この街で生まれ育ったからこそ、幼い頃から色々な光景を見てきた。本当に、色々な光景を。羨ましさを感じるくらいに眩しいものもあったけれど、決してそうではないものも確実にあった。痛々しくてどうしようもなくて、思わず目を背けたこともある。


「この街がこんなに発展したのも色々なものを楽しめるのも、アレがあるからに違いは無いんだけれど。…軽々に良いものだとは思えなくて。だから、何で皆は迷宮に潜れるんだろうって」


 窓に眼を遣ると、言う迄も無くそこからも変わらぬ枯樹の姿がそこに見えた。


「成程……うん。ウィルマさん?私は、貴女のその感覚を否定する気はありません。それは貴女がこの街で生きてきて積み上げたからこそ、得られたものですから」

「うんうん。俺達も怖いと思うことはあるし、実際潜る度に危ない目に遭うしな」

「きっとそれも正しい側面なんです。でも私達は、決して自分の命を粗末に扱ってはいないんです。心の底から惹かれるものがたまたまそれだった。それだけなんです」


 そう優しく口にするアルマンも、視線を追うようにして窓の外に顔を向ける。


「幼い頃に読んだ本にあったその憧れで、ただただ全力で走ってきました。勿論、確かに良いことばかりでは無いですが、それでも…うん。本当に、諦めなくて良かったと感じています」

「それにまぁ憧れだとか夢だとか、そういう感性だとか…そういうのは、簡単に諦めたり変えれるものじゃないだろうからなぁ」


 ──幼い頃、考えても考えても分からないことがあった。死んだらどうなるのだろう、と。

 親に尋ねると大地に還るのだと言われたが、あたしが今この時に感じる意識や感覚はどうなるのか分からなくって。

 結局それらはいずれ消えてしまうのではないか。無駄になってしまうのではないか。それならば、自身の感情を積み上げる意味は何なのか、と。

 だからと言ってそれを切り離し手放すことも出来ない。それがとても怖くて、恐ろしくて。

 迷宮に潜る冒険者達の気持ちが分からなかった。"死"というものに近い場所へ自ら赴く彼らの気持ちが理解出来なかった。


「勿論そうならないようには努力しますが…それでもそう遠くない内に、私達も死んでしまうかもしれません。でも、だからと言って自分の感じたものを無駄にはしたくないんです。どうやっても限られた時間ですから、せめて自分のことは自分が一番信じてあげたいじゃないですか」


 ──自分の感性を疑うことは大事だ。

 最も近いからこそ見失い易く、気付きにくい。常に疑い、比較し、確かめ続ける必要がある。そしてその上で、自分の感じたものを信じることが出来たなら。

 最後にそれを失うことになったとしても、それは少なくとも"ウィルマ"という一人の人間にとっては無駄ではなかった、という事なのだろうか。


「…そう、かもですね。…うん」


 正直、まだ自分自身飲み込めていない部分もあるけれど。アルマンとセスが語ってくれた言葉はどこかすっぽりと収まりが良いようにも感じられて。

 何度も何度も反芻させることで、それが馴染むことで。あたしは納得出来るのだろうか。

 視線を落としたまま思案することに集中していた最中──遠くで鳴った、鈴の高い音がすぅっと滑り込んでくる。


「…あ、すみません。清算は終わったのに長々と引き止めてしまって」

「あぁ、いえいえ、こちらこそつい熱くなってしまって。先程の答えが貴女にとって意味のあるものであれば良いのですが」


 ──ギルドにまた人が増えたことを知らせる音を切欠に、皆が立ち上がる。

 言う迄も無く、用が済めばギルドのスペースは空けなければならない。無駄話をするのであれば場所を移すべきだろう。…ちらとギルドの職員がこちらの様子を伺っているのは気のせいではないだろう。


「…あの、今後も迷宮には潜るんですよね?…また機会が合えば、お願いすることがあるかもしれません。その時は、お二人にお願いしても良いですか?」

「勿論です!貴女のみたいに腕の立つ魔術師が助力いただけるのは、とてもありがたいですから!」

「ふふ、あたしは兼業で魔術師(メイジ)をやってるだけなんです。きっと買い被り過ぎですよ」


 苦笑いしながら、最後に握手を交わす。

 …うん。もしも今後も何か依頼を出すことがあれば、またこの人達と一緒だと良いな。また会えれば良いなと。そんなことを思いながら私達はギルドを後にした。


 ──数日後。

 別件の依頼で再びギルドを訪れた時に、早々に顔を合わせることになるとは思いもしなかったけれど。なんだかおかしくって、自然と笑みが零れ出ていた。

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