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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
1章
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1-8

「うぅ…すみません、取り乱しちゃいまして…」


 うっすらと目を赤くしてはいるが、今は落ち着いた様子だった。


「本当に、もう無くなっちゃったって思ったんです。あんな音がしたから…バラバラになって、消化されてるんだろうな、って…」


 マギアさんから受け取ったハンカチを握り込んだまま、少女は少し俯いている。


「こんな風に曲がっちゃったけど、ちゃんと帰って来てくれただけで…」


 僅かに覗くその顔は柔らかく見えた。

 しばらく沈黙すると"ハッ"と少女は思い出した様に顔を上げる。


「…あ、そうだ、報酬。あ、あの!回収依頼の報酬金って、本当にこんなに少額で良いんですか?」


 ──そうか、回収も立派な依頼になる。当然報酬金が発生する筈だ。


「はい。第一階層の回収依頼の報酬金は、一律銅貨5枚と定められております。それ以外の料金は発生しておりませんが…」


 ──銅貨5枚。本当に割に合わない気がして心中で小さく呻いてしまう。

 一律で定められている、という文言にこれ以上追求も出来なくなったのだろう。少女は改めて礼を述べつつ銅貨を手渡していた。…しかし本当に銅貨5枚は適正価格なのだろうか?


「…それじゃそろそろ行きますね。ちゃんと取り戻せたってギルドに報告してきます!」


 身嗜みを整えると、少女はマギアさんと真っ直ぐに向き合う。


「今回"テッカイを付けた回収屋ならすぐに対応してくれる"って教えてくれた職員さんにもお礼しなきゃです、し…あぁ…そういえば収集依頼も途中だったから、そっちも相談しなきゃ…」


 思い出したよう僅かに呻くと、今度は少女は少し暗い表情を浮かべる。コロコロと喜怒哀楽の変わる見ていて面白い女の子だ。

 しかしながら、今聞きなれない単語があった気がする。恐らくはマギアさんのことを言ったのだろうが、職員の口にした"テッカイ"とは何なのか。僕が頭を捻っている間にも、彼女は何度も頭を下げると礼を述べながら走る様に店を出て行ってしまった。


 ──彼女が出て行くと、店内がしんと静かになる。

 僕も元々依頼に関する諸々は終わっていたのだ。あまり長居をしては迷惑がかかるかもしれないし、そろそろ店を出なければいけない。

 名残惜しさの様なものを感じながらも、最後に一つだけ聞いてみる。


「あの…すみません。先程彼女が言っていた"テッカイ"って何なんですか?」


 彼女がふわりとこちらを振り向くと、右腕に視線を移す。


「あぁ…それでしたら、この右腕のことです」


 左手で柔らかく撫でながら、彼女は続ける。


「稀に迷宮で発見される機械人形の腕部パーツなのですが、見付かるものはどれもこれも錆付いてしまっていて。…これもそうなのですが、腕部としての機能を果たせていません。ですので"鉄の塊"という俗称がついています」


 意味合いとしては、役に立たない鉄屑という辺りでしょうか。そう続けながら彼女は大事そうに腕を抱える。


「…機能を果たしていないのに、付けているんですか…?」

「えぇ。私にとってこれでなくてはいけない、大事なものなのです」


 ──眩しいものを見るように。懐かしいものを見ているように。

 薄く細められたその瞳が、どこかとても柔らかで。彼女の顔はとても人形(つくりもの)には見えなかった。


 ───

 ──


 店を後にして、一人になって。考えていた。

 マギアさんの様に、あの少女の様に。あんなにも心から大事だと言えるものが僕にはあるのだろうか。そういうものを、見付ける事が出来るのだろうか。

 …分からない。今はまだ、分からないけれど。


 だから。

 一歩ずつ、薄闇を照らしていくように分からないことを知ってみよう。小さなことで構わない、自分に出来る何かを一つずつやっていこう。

 それを通して、自分にとって"それでなくてはならない"眩しいような何かを見つけられたら──それは、素敵なことだと思えた。


 ふと、思い出す。

 先程ギルドに向かった詠唱短剣の少女。確か、収集依頼が途中だと言っていた。もしかすると再び迷宮へ潜るのかもしれない。スライムの対処で僕が協力出来ることがあるかもしれない。


 ──まだ、間に合うだろうか。


 ギルドへ向け、静かな通りを駆け出した。

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