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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
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-幕間-1-2

 ──そうする事を選んだきっかけは、実に些細で単純だったと思う。


 気の弱い僕は、幼い頃から何をするにもいつも周囲の顔色を伺っていた。

 何か原因があったのか、いつからそうしてたのかも覚えがないけれど。物心が付く頃から自分に自信が持てずにいたのだ。

 これと言った特長も無かったが、同年代の子達よりいくらか身体は大きかったと思う。まぁすぐに緊張して頭が真っ白になる僕は、運動でもそんなに活躍は出来なかったけれど。


 それでも。何をするでもなく、僕の隣に居てくれた友人がいた。

 同じ区に住んでいた、昔馴染みのアルマン=ダウズウエルという少年だった。


 彼は僕達の住む町から遠く離れた場所にあるという"迷宮"の冒険譚をいたく気に入っていた。

 暇があると表紙の擦り切れた文庫サイズの本を取り出し、面白おかしく誇張されたであろう物語を瞳を輝かせながら語ってくれるのだ。


「いつか僕も冒険者になれたら、っていう夢を笑わないで聞いてくれるのはセスだけだよ」


 時折、アルマンは話の合間に笑顔を作りながらも寂しそうに呟くことがあった。

 物語に語られる英雄になんてそうそうなれる訳はない。親からすれば我が子が自ら危険に飛び込む事を快く思わないのは当然だろう。そんなことにも薄々気付いているのだ。

 けれど僕は知っていた。冒険譚を口にするアルマンの瞳はいつも楽しげで、そしてどこまでも真剣なのを。だから、もしかしたら彼なら、と。理由もなく漠然と、そんな風に考えていたと思う。


 ──いつだったか。

 アルマンを中心に友人達が広場に集まっていた事があった。何をしているのかと、環の中から時折声が上がるのが気になって遠巻きに覗くと、一人が白藍色の丸みを帯びた石を手の平で転がす姿がチラリと見えた。


「…あ、セス!おーい!」


 僕に気が付いたアルマンがぶんぶんと手を振る。それを皮切りに周囲の視線もこちらに向けられたが、余程良いことがあったのかアルマンは満面の笑みを浮かべていた。


「うん?セス、いたのか。…なぁ、お前もやってみろよ?」


 その中の一人。目に見えて面白くないという顔で石を持っていた男の子が、石を投げて寄越した。突然の事に驚いた僕は上手く受け取れず、零れ落ちた石は足元で硬い音を立て転がった。


「ホント鈍臭いな、お前」

「ご、ごめんごめん…」


 あたふたとしながらも石を拾い上げる。

 大きさは銅貨と同じ程度だろうか。手の平に収まるソレは、黄味を含んだ淡い水色をして見える。転がす度、澄んだ色の影を落とすその光景がとても綺麗で。ついつい見とれていた。


「一度ぎゅって握って、手を開いてみな?オドを扱えるヤツが握ると色が変わるんだ」

「さっきアルマンだけ変わったんだぜ?凄いよな…なぁなぁアルマン?本当に冒険者になれるんじゃないの?」


 元より期待していないのか、皆の興味は僕の手の中の石ではなく早速アルマンに向かっていた。


 ──オド。内気、小源と呼ばれる特別な"力"。命そのもののエネルギーであり、それは常に身体の中を巡っている。しかし極稀に。その魂の器に穴が開いている人間がいる。そういった一部の人間は自身に満ちるオドを呼び水とし、より大きなエネルギーである外気/大源(マナ)に干渉することが出来るのだと言う。

 だとすれば、成程。何でも卒なくこなしてしまう人気者に特別な力があるということが分かったのだ。皆の反応は当然だし、彼の語っていた夢物語が俄かに現実味を帯びたのだとしたら、僕にとっても何より喜ばしい事だ。

 ただただ眩しいものを見る様にその光景を眺めていたが、アルマンだけはちらちらと横目で僕を気にしている様にも見えた。


「なぁ、もう良いだろ?次だよ次。セス、僕も試したいから貸してくれよ」

「う、うん。…ありがとう」


 自分もそんな存在であるかもしれない。そんな可能性に瞳を輝かせた一人がこちらに手を差し出す。反射的に礼を口にながら彼の手の平に落としたその石は──見慣れぬ濃藍色に染まっていた。


「…えぇぇ?!色変わってるじゃん!!」


 手にした男子は、途端目を丸くして大声を張り上げる。

 皆の視線が一気に石に向けられたかと思うと、驚きに染まったそれは瞬間僕に降り注いだ。視線に晒されることに慣れていない僕の身体は途端にビクリと固まってしまっていた。


 ──本当に色が変わった?僕にもアルマンと同じ様にオドを扱える力があるのか?本当に?

 ぐるぐると思考が渦巻く中、掻き分ける様に一人の少年がこちらに飛び出すと勢いよく肩を掴んだ。


「セス!凄いよ!きっと僕達だって、あんな風になれるんだ!」


 あの時と同じ様に。冒険譚を語って聞かせる時みたいに、歓喜に瞳を輝かせて。アルマンが自分のことのように喜んでくれている。そして何よりも"僕達"というその一言が嬉しくて。


 ──そうする事を選んだきっかけは、実に些細で単純だった。

 オドを外に向け扱えるかどうかは生まれ持った魂の器の形によるものだから、確かにそれを"限られた才能"だと言って間違いはないのだろう。ただ今になれば分かるが、あの時の鉱石は確かにオドに反応して変色はするものの、決してその質や総量を測れるような精密な物では無かった。

 自身の力量如何で、結果や出来る事が天と地ほど変わってくる。石の色一つで将来を決める程のものでは断じて無いのだ。


 それでも。僕がその道を選ぶには、それで十分過ぎたのだ。

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