-幕間-1-1
「はぁ……」
澄み渡った青空の下。何もかもが抜け出て行くような、深い息を吐く。憂鬱で、気分がしぼんでいたのは間違いない。
それの理由はまぁ、もう分かっている。前日に受諾した収集依頼でスライムに遭遇したのだが、僕だけが上手いこと貢献出来なかったのだ。
依頼自体は達成出来たが、滑り出しは決して良いとも言えない。一番浅い階層でこれでは、今後どうなるものか。胸中は言いようの無い漠然とした不安で満たされていた。
不安を振り払う為に何度握ったか分からない、ボロボロになった木剣を手にしたまま空を仰いでいると、後から呼ぶ声がした。
「どうした、セス?」
聞き慣れた声のする方に顔を向ける。均整の取れた顔立ちの、ブロンド色の髪をした青年が立っていた。
「あぁ、えぇと……いや、ちょっと疲れただけだよ」
咄嗟、不器用に笑顔を作る。
そこには見知った一人の初級冒険者──アルマンの姿があった。
「んー、そうかい?…まぁ、あんまり根を詰め過ぎるなよ?」
「あぁ、ありがとう。時間も良い頃だしな、そろそろ休憩にしようかと思ってたとこだよ」
──アルマンに無用な心配は掛けたくない一心で、自分の中の不安を抑え込んで笑顔を作る。それは誰でもない、自分の為なのだ。
「お、それじゃセスが良ければ昼飯でも行こうか?」
「良いね、それじゃあちょっと顔洗ってくるよ。待っててくれないか?」
短く言葉を交わすと、一人井戸に脚を運ぶ。木桶に張った水に手を浸すと、心地よい冷たさが両の手を包み込んだ。
スライムに対し、純粋な物理攻撃が効果的では無い事は前もって聞いてはいた。それでも無意味ではない以上、何か出来ることがあると思っていたのだ。結局、それが甘い考えだと思い知らされた。それだけの事、それだけの事なのだ。
──迷いも洗い落とす勢いで、何度も顔に水を掬い掛ける。いつまでも迷ってはいられない、諦める訳にはいかないのだから。
アルマンが帰還の際に"セスなら二階層ならもっと活躍出来るさ"と言っていた事を思い出す。ケイヴラットのことだろうが、実際にはどうなのだろう。
迷宮内のどこにでもスライムはいるし、同階層にはファイアウィスプもいるという話だ。どうやらそいつも、純粋な物理攻撃は相性が悪いらしい。魔術的な作用が施された特殊な武器は、駆け出しの冒険者にはとても手は出せない代物だろう。
消耗品の類で対処することになるだろうが、それも決して安くは無い。無闇矢鱈には使えない筈だ。
──本当に、僕が役に立てる事があるのだろうか。
それでも。とにかく、僕に出来る事を見付けなければならない。アルマンと、自分の期待を裏切りたく無いのであれば、そうするしかない。
洗い流した黒い靄を振り払うように僕は勢いよく立ち上がると、遠くに見える人影に手を振った。




