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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
8章
74/138

8-5

 天井が高く格式張った柱が目立つ広やかな空間に、冒険者の面々が集っていた。

 石造りの壁には統一性の無い、型式も様々なランプが転々と掛けられ、その空間は不思議と穏やかな空気が漂っている。

 そこかしこで穏やかに交わされる談笑は小波の様にどこか心地よく、見上げると柔らかな燈色に照らし出されたステンドグラスの意匠が浮かび上がって見えた。


「おつかれさま、マギアさん。調子はどう?順調かしら?」


 手元を照らす燈火の下。随分と中身に余裕の出来たバックパックの整理をしていた最中、自身を呼ぶ声が耳に届く。石床に両膝を着けたまま視線を向けると、そこには見慣れた三人の姿があった。


「えぇ、問題ございません。皆様も中間報告と打ち合わせは完了されたのですか?」

「うん、お陰様でバッチリ。まぁあたしたちは殆ど戦闘行為も無かったし、後を着いて行くだけだしねぇ」

「…というか。さっきちらっと耳にしたけど、アンタの周りすげぇ人だかりだったんだって?そっちこそ大変だったんじゃねぇか?」


 ティルの言う先程の人だかり、というのは恐らく配給作業だろう。

 収集品を収容する事は元より考えず、量だけでなく想定出来る限りの種々様々な消耗品の類をレイシアが準備してくれていた為か。私の周囲は思いがけず盛況となっていたのだった。


「あぁ…いえ、慣れていますので。お気遣いありがとうございます、ティル様」

「んー…ねぇ、今度さ。同行者の仕事についてマギアさんから教わらない?きっとこれからも随伴をお願いすることあるだろうから、手伝える機会もあるかも」


 ウィルマが穏やかなで表情で皆にそう提案する光景を眺めている最中。不意に、大事そうに杖を握る両の手が目に映る。変わらず包帯で巻かれたその光景には、やはりどこか痛々しさを感じてしまう。


 ──私の気のせいか。

 皆は努めて明るく、前向きに振舞おうとしている様に見えた。我々の目的であった"彼"の回収品を手にする事も、目にする事すらも出来なかった。にも関わらず、四階層を後にして以降それに触れることすらしないのが、僅かばかりに気になっていた。


「回収品の…目的の件は、非常に残念でした」


 何でもない、他愛の無い話の切れ目。思っていた事が漏れ出す様に、つい口を衝いて出ていた。


「…うん。そうだったな」


 ここでは無い遠くに思いを馳せる様な、どこか物寂しげな瞳で。それでも精一杯の笑顔を作って、セスが短く答える。


「あたし達も、さ?そこまで回収品には詳しくないけど…流石に一ヶ月も放置されたらそんなこともあるのかなぁって。うん。どこか、そうは思ってたんだけどね」

「だとしても自分の目で確かめるまではな。…あとは荒らされるかもしれねぇから出来るだけ早く現場を見ておきたかった、ってのもあったかな」


 ぽつりぽつりと零すウィルマの傍らで、ティルは腕組みをして。思い入った決心をぎゅっと集めて、自らを奮い立たせるように。真剣な面持ちで口を開く。


「でもこれで……俺達も、ちゃんと終わりにしないとな」

「そう、だね。身体も魂も、全部。ちゃんと大地に還ることが出来たと願うばかりだわ」


 そう語るウィルマの視線を辿った先、古ぼけた祭壇には小さな女神の像が祀られている。目を閉じ穏やかな顔をした女性像の下には冒険者の小さな列が出来ていた。恐らく、出発を間近にした先遣隊が地上までの安全を願うのであろう。


「……神様ってのに祈ってどうにかなるなら、いくらでも祈ってやるけどな」

「ティル、あんまりそう言わないの。…ぁ、そういえばマギアさん。ナインさん、見てない?」


 割って入るウィルマが、いくらか強引に話題を逸らす。彼女に窘められたティルは、"へいへい"とうんざりした表情でヒラヒラと手を振っていた。


「いえ、私は存じ上げませんが…」

「んー、そっか…流石に一人で下降施設(ここ)からは出てないとは思うんだけど」


 私の記憶に在る限りでは、ナインは三人と共に中間報告へ向かっていた。割と早い内から彼女の姿はこの周辺には無かった筈である。


「途中まで一緒にいた筈なんだけどなぁ。そう遠くない内に出発するだろうから、そろそろ合流しとかないと…」

「畏まりました。私も積荷の整理が終わりましたので、手分けして探しましょう」


 ここを待ち合わせ場所にすれば問題は無いだろう。皆は短く言葉を交わすと、思い思いの方向へ早速散開していった。

 さて。私はどこを探したものか。静かに立ち上がると、食い込むような重さの無くなったバックパックを背負う。彼女がどこに向かったか検討もつかない以上、とにかく手当たり次第に探すしかない訳だが──


 ふと。礼拝堂から放射状に伸びる、増築された棟へと向かう一本の通路に視線が止まる。あの先には何があったか。


 吸い寄せられる様に歩を進めると、廊下口に立ち止まり様子を伺う。

 用いられている材質が異なるせいか、設置された光源の影響なのか。延びる通路に漂う雰囲気は、不思議とどこか冷たく張り詰めた印象を受けた。


 ──意を決して、一歩を踏み出す。

 カツン、カツンと石床を叩く硬い音を響かせながら。青白い燐光のガイドが導く通路を抜けた、その先に。

 下降装置に組み込まれた巨大な転移結晶を静かに見上げる、亜麻色の髪をした水雷型の機械人形の後姿がそこにあった。

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