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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
8章
70/138

8-1

 薄闇の中を疾駆しギラついた眼を向けるケイヴラットが、牙を剥き次々と獲物に向け跳躍する。

 不細工な鳴き声が響いた次の瞬間、それぞれの頭蓋には音も無く穿孔が開けられていた。中空でびくりと獣が痩せぎすな身体を震わせると、そのまま力なく肉塊が跳ねる様に落ちていく。


「…いや、本当に安定感が凄いな」


 目前のケイヴラットを捌き終えたセスが感嘆の声を上げる。後方支援の依頼に就いた冒険者は二十名を越える部隊となり、私達一党は殿に程近い場所を歩いていた。


「ぶっちゃけ、あの人が動いてる間なら俺達やることないだろ」

「はは、まぁ…うん。そうかもね」


 苦笑を浮かべるウィルマの横で、ティルは進行開始から手にしたまま殆ど振るわれていないメイスを軽く素振りする。

 不測の事態に備え皆が気を張ってはいるのだが、今回依頼を共にする戦闘行為型の機械人形である"彼女"が魔物を真っ先に駆逐し続けていた結果であった。


「契約内容に基づき対応を行っておりますが、戦闘行為の効率を抑えた方がよろしいですか?」

「あぁ、いやいや申し訳ない。気にしないで続けてくれ。心強くてありがたいよ。…えぇと、"ナイン"さん」


 ティルの軽口を真に受けたのか、硬く遊びの無い声で真面目に尋ねる彼女にセスは僅かに困惑しながら否定する。ナインと呼ばれた機械人形は無言で小さく頷き返すと、音も無くふわりと浮遊したまま旋回し再び一足先に前へ進み始めた。


「初めまして。この度ご一緒させて頂きます、B06-01-N-0009と申します」


 ──出発の朝。

 広場で待ち合わせをしていた最中、見覚えのある一行と共に一体の特徴的な機械人形が姿を表したのを覚えている。自己紹介のつもりなのか彼女自身の機体番号を抑揚無く口にすると、ぴったりと閉じられた複数の瞼がじぃとこちらに向けられていた。


「握手の様な挨拶は行えませんが、ご容赦くださいますようお願い申し上げます」

「…こちらこそ、初めまして。マギアと申します、よろしくお願い致します」


 第一印象は機構的、機械的であった。

 出発の数日前、唐突ではあったが一党に同行する冒険者が新しく加わると話を聞いてはいた為に心構えはしていたのだが。やはりその特徴的な外見に視線が吸い寄せられる。


「えぇと。私達は機体番号から取って、ナインさんって呼ばせて貰ってるの。流石に、毎回識別番号っていうのはね?」

「…私から個人の識別呼称について要望することはありませんので、ご自由にどうぞ」


 青い血脈が浮く程の陶器然とした白い肌に、左の目尻の延長上に二つの瞳。フィッシュボーンに編み込まれた亜麻色の髪をサイドに寄せた手足の備わっていない機械人形が地面からぴたりと浮いたまま佇んでいる。

 下腹部は鋭利に尖り、それでいて滑らかな流線型でボディラインが描かれる彼女の身体は一見して水雷形と称することが出来たと思う。

 私とは異なる何かを突き詰めた故のその形。意思を持った形。だからこそ、眼が離せなかった。


「うん、彼女に護衛をお願い出来て本当に良かったよ」


 ──進む彼女の後姿を安堵した表情で眺めながら零すセスに、三人の視線が集まる。


「彼女は六階層で発見された機械人形でな。最深階層の探索依頼にも何度か参加したことのある、相当な実力者なんだよ」

「そんなこと言ってたね。…というかセス、よくそんな相手と契約出来たね?」

「はは…知り合いのツテを頼りに頼って、慣れないけどどうにかこうにか交渉したんだよ」


 その時の苦労が過ぎるのか、ウィルマに苦笑で返す。


「…俺達一党は、戦力を失っただろ?ただでさえ危険を侵すのだから、皆の安全を確保する為にも相応の助力を得る必要が絶対にあると思ったんだ」


 眼前に、再び。飢えたケイヴラットが姿勢を低くしながら、ナインへ向け不快な警戒声を上げる。


「そして、俺が出来る"皆を守る"っていうのにも、色んな形がある筈なんだよ」


 ──そのまま歩みは止めず、はらり、と。

 折り畳まれた布帯が崩れ解け落ちる様に。刻まれた薄い溝に添って肩部から腰部にかけての装甲が薄く剥がれていく。

 頭を擡げる蛇の様な緩慢な動きで。先端を鋭利に尖らせた金属の薄布は重力に逆らい持ち上がり、一瞬その姿が掻き消えると同時。先程まで目前にいた魔物の頚部と胴は分割されていた。

 終始、歩む速度を変えることすらなく。何事も無かったと言わんばかりに彼女はその遺骸の上を無言で通過していく。


「うん。きっとこれは、間違いじゃない筈だ」


 自身の意地や名誉、活躍は無視し彼女(実力者)に助力を請うという選択。

 それは彼が出した一つの答えなのだろう。セスが真面目な表情で小さく頷く。


 ──気のせいか。

 ナインの瞼はぴたりと硬く閉じられているのだが、何故か視線が合ったように思えてならなかった。

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