6-ep
とうに陽は沈み空は暗く、染み入るような薄闇が店内にも遍く広がっている。その中で暖かな仄明かりに照らされ、私は一人佇んでいた。
目の前には空の酒瓶が二つ。瓶の底にほんの僅かに残った琥珀色が、ちらちらと眩く光を乱反射させている。
室温に温くなったものは好みではないらしく、先程まで目前にいた少女は"冷えた炭酸水を持ってくる"と席を外していた。
私は、彼女にどう応えられるのだろうか。先程からずっと思考を巡らせていた。
恐らく慰めや同情の言葉を求めてはいないだろう。そうした言葉を並べた所で彼女の過去や、身体の不変の根本も何も変わりはしない事は十分に理解している筈だ。
話を聞く限りでは数十年経過しても遺失した魔術式は発見されていない様子だし、まずまず機械人形は魔術の行使が出来ない以上、どう頑張っても私自身が働きかけ問題を解決出来る望みは限りなく薄い。
仮に。もしも作用している魔術を解除出来たとしても、過去の行いや費えた命、奪った時間は決して元通りにはならない。無かったことにはならない以上、それで問題が解決したとは決して言えないのではないだろうか。
そも、今迄彼女は自発的に自身の過去を打ち明けようとはしなかった。決してその傷口を曝け出そうとはせずに秘したまま抱えていたのだ。
今回はあくまでも私が問うたという切欠があったから教えてくれたのであって、彼女が私に何かしらの答えや救いを求めて曝け出した訳ではないとすれば、まずまず"自身に何が出来るのか"等と思い巡らせること自体がおこがましい様にも思える。
自身を曝け出すという行為の根本に、他者の理解を得たいという願望も僅かながらに込められている場合はあるだろう。そのような欲求が一切無いとは言い難いのかもしれないし、区別無く誰にでも話せる内容ではないという事を考えれば、私に出来ることは何かあるのかもしれない。
しかしそれは、あまりにも自身に都合の良いただの思い込みである恐れもある。
──彼女は、何を求めているのだろうか。
彼女は無理矢理に走り続け、結果元通りにはならない程に自らの全てを壊してしまった。
脆く、簡単に折れてしまいそうに見える少女の中に内包された痛苦は、私が共有出来るほど生易しいものでは無いだろう。
──私に、何が出来るのだろう。
「さて、さてさて」
思い耽る最中、それを遮る様に工房からこつこつと軽い足跡がやってくる。
「真面目な話もいいが、折角の年に一度の"慰霊祭"の日だ。楽しく飲まんと勿体無くもある。…だから今夜はもうちょっとだけ、付き合ってくれんか?」
冷えた瓶を手に、レイシアは今にも舌を出しそうな悪戯っぽい笑みを浮かべて見せた。
こんにちわ。お久し振りです。拙作をお読み頂きありがとうございます。
しばらく続けていた過去投稿分の修正ですが、今しがた六章の修正までが完了しました。これで一通りの修正は完了した、と思われます。
これからは七章の更新となりますが、今後もしばらくレイシアという少女についての話は続きます。
レイシアという少女は、主人公であるマギアの見ている世界において掛け替えのない重要な人物です。今後も冒険活劇のような、決して派手な描写がある訳ではありませんが、出来る限り丁寧に彼女たちの世界を描ければと思っています。
これからもお付き合いいただける方がいらっしゃいましたら、ゆるりとお付き合い頂ければと思います。
どうぞ、よろしくお願い致します。




