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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
6章
61/138

6-7

 魔物の塊をどうにか散らした時には、彼女は辛うじて人間の形を保っているような状態で。冷たく随分と軽くなってしまった彼女だったものを手に、私たちは地表への帰還を始めた。

 皆は私を責めはしなかったが、誰も口数が少なく度々訪れる沈黙はじりじりと心に圧し掛かる様だった。


「それからは、奴等とは少しずつ距離を取ってしまうようになってな」


 ──逃避と言われればそれまでなのだろうが。

 自身の過失で見知ったの人間が死んだ事実と、彼女の大きく見開かれた瞳がこちらに向けられていたあの光景が頭から焼き付いて離れなかった。


「それでも……それでも、私にかけられた魔術の問題は何も解決しとらん。そうである以上、潜らざるを得なかった」


 ──当然、迷宮に深く足を踏み入れる以上は危険が付き纏う。

 程度の差こそあれ全員が無傷で帰還するという事は無いも同然であり、何かしらの手傷を負うことが殆どであった。

 勿論治療魔術を行使すればある程度の傷は癒えるし、痕も無くなるだろうが、しかし潜る事を止めない限り誰かが傷付く場面に遭遇する事は避け様が無い。


 それでも潜らねばならない。それならば──

 実に身勝手な考えではあるが、目の前で傷を負う者が自らにとって縁遠いのであれば多少はマシであると感じた為に。臨時増員や欠員補充を募る野良の一党に混じる機会が増え、自然と傭兵紛いのことをやることが多くなった。


 しかしながらそれはつまり。

 そうせざるを得ない程には不安に思い、恐れていることの証左であって。


「薄っすらと気付いてはいたんだよ。結局、向き合う度胸が無かったんだ」


 ──少女が自嘲気味に笑みを浮かべる。


「"今回は誰も欠けずに帰ってこれるか"だとか、"誰か手酷い傷を負いはしないだろうか"だとか。…次第に、そういうことばかりに目が行くようになってしまってな」


 傷付きながら命を危険に晒す彼らと、私は違う。

 毒がいくら蓄積しようが、飛び散った石片が腹部に深く刺さろうが。私は特段意識をせずとも暫くすれば"元通り"になっている。

 それと引き換え、細心の注意を払い適宜治癒を行って。それでも運が悪ければ命を落とす彼らとは、背負うリスクに相当な差が発生してしまう。

 それでも自身の異常を隠す為に、そんな彼らを盾にするしかないという負い目の様な感情は次第にじわりじわりと大きくなっていった。


 しかしながら、傭兵紛いの活動もさして長くは続かなかった。


 "またレイシアは一人、かすり傷一つも作らず戻ってきた"だとか。

 "収入度外視で、間を置かず迷宮に潜り続けているのはおかしい"だとか。

 "消耗品か魔術かは定かでは無いが、その無茶を継続する為に高額な収集品を掠め取っているのでは無いか"だとか。

 一部の冒険者の間で決して良くは無い噂話が幾つか流れ始めていた。


「まぁ仕方のないことだけどね。どこもそんな厄介事とは距離を置くもんさ。お陰でこの街での仕事が長かったり、腕の立つような一党の募集には殆ど断られていったよ」


 結果、玉石混交を覚悟の上で自ら調査協力の依頼を立てるか、拒否されることを覚悟した上でこの街に来てそう間もない一党に声を掛けるしか無くなっていた。

 冒険者に事欠かない街である為、その点では恵まれた環境であったとも言えるのかもしれないが。


 がむしゃらに縋り付く様に、迷宮に潜り続けた。ただただ目的に向かって進展していると信じて自身を奮い立たせたものの、その頃には無視することが出来ない程にとある疑問がくっきりと形を浮き彫りにしていた。


「自らの為に立てた依頼に参加したばかりに、傷を負う者がいるんだ。…無視なんぞ出来る訳ないよな」


 ──私に、私の目的に。それだけの価値が本当にあるのか。


「…もう、止まれなかったんだ。これだけの時間を費やして、犠牲を払って。他の者を踏み台にしてまで走ってきたのに、ここで足を止めたら本当に顔向け出来ないじゃないか」


 意地だった。怖くて怖くて立ち止まれなかった。

 そんな折、悶々とした気持ちを抱えながら伏し目がちに大通りを歩いていたある日。懐かしいとある昔馴染みのメンバーの一人に声をかけられた。


『久し振りじゃないか、お前は本当変わらないな』


 彼の開口一番がそれだった。


「悪気が無いのは分かっとるし、向こうからすればだいぶ理不尽だとは思うが…うん、どうにも我慢出来んかったんだよなぁコレが…」


 変わりたくなくて今の姿でいる訳じゃない。人の事情も知らないでよくもまぁそんな事を──

 抑圧されていた感情にあっという間に火が回るとそのまま溢れ出し、気が付けば爆発していた。


「大通りだからな。回りで人が見とるにも関わらず大声出して文句を吐き出しまくって……いや、本当に恥ずかしい限りだが。…うん、その後は謝罪も兼ねて改めて言葉を交わしたよ」


 ──その相手が、アイザックであった。


「精神的にだいぶ参ってたし素直に悪いとは感じたからな。迷いはしたが、ヤツには事情を話したら…うん、なんかまぁ、キザな台詞を吐いとったな」


 その時の事を思い出しているのか、レイシアはどこかむず痒い様に頬を爪で掻く。


「んんっ、それはまぁどうでも良い。…結局、事情を把握してくれたザックの方でも調査を手伝ってくれる事になったよ。あれは本当に助かった」


 ただ、芳しくない噂が流れる今の私ではアイザックに迷惑をかける恐れの方が大きかった。その為、共同調査は控え各自で併行して調査をすることとなった。

 前述の通りレイシアという少女に助力してくれる冒険者は少なかった為、成果らしい成果を上げることすら出来なかったが。


「互いに調査をしては報告をして。そんな関係も幾年近く続いたが…うん。覚えとるだろう?五階層は毒気がある、と。……アイツは元通りにはなれんのにな。肺をやられてリタイア、だ」


 私の話から、原因と思われる建物があった中心部を重点的に調査し続けていたらしい。今からすれば決して十全ではない装備で致死毒が蔓延する区域の探索を続けたのだから、それは当然の帰結ではあったのだろう。


「アイツは気にするなとは言っておったがな。見知らぬ者達だけでは飽き足らず、また馴染みの者の人生まで奪ってしまった訳だ」


 ──もう、どうしようもなかった。

 ただただ"進み続ける"という行為を選ぶ以外、私に選択肢は残されていなかった。

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