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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
1章
6/138

1-6

 地表に帰還するなり、二人は其の足で朝よりも随分と賑やかになったギルドを訪れていた。

 人足の多いエントランスを抜け、目的の受付に歩を進める。業務を行っている数人の職員の中に、今朝対応をしてくれた受付の女性の姿があった。

 朝からずっと忙しなく働いていたのだろうか。少々疲れた顔をしている様に見えたが、僕らを見付けた途端笑顔で出迎えてくれた。


「お疲れ様です、報告に来ました」

「あぁー二人ともお帰りなさい!初めての依頼、無事達成出来たんですね。良かったぁ、おめでとうございます!」

「あ、ありがとうございます」


 彼女はまるで自分のことのように喜んでくれた。初めての依頼達成への真っ直ぐな賞賛の言葉は、嬉しいようなくすぐったいような気持ちになる。


「公私混同はダメって言われるかもですけど…やっぱり友達が出した依頼はどうしても気になっちゃって」


 友達、とはやはりマギアさんのことなのだろう。

 人懐っこい微笑を浮かべながらも、職員の女性は僕らに書類をいくつか手渡しこちらに向けすっとペンスタンドを傾ける。


 ──書類に向き合って数分だろうか。

 僕の確認しなければならない書類はあっという間に無くなってしまった。横目に見ると、マギアさんはまだ黙々とペンを走らせている。

 依頼の募集主は確認事項が多いのだろうか。彼女の手元にある書類は僕に渡された分よりも多く見て取れる。


「はい、ありがとうございます。…うん、大丈夫。それじゃ最後にこちらもお願いします」


 ──繰り返される、書類の受け渡し。

 先程から見ていて気付いたが、職員の彼女は常にマギアさんが作業しやすいよう動いている様に見えた。

 ペンスタンドを傾ける方向も、書類を渡す時も。常に左手で作業しやすいように差し出している。なんでもないやり取りなのだろうが、ごく自然で動きもこなれている。


「えぇっと…はい、確認しました。全部オッケーです、大丈夫です!」


 最後の確認が終わった様だ。

 トントンと揃えた書類を置くと、にこっと笑ってみせる。本当に笑顔の似合う人だと思う。


「…それでは、あまりヤコさんのお手間を取らせてしまうのも申し訳ないので今日のところはこれで。また次回もよろしくお願い致します」

「いえいえ、マギアさんなら何も用事が無くっても大歓迎なんですから。あ、依頼は沢山あるので、クロアさんも是非またいらして下さいね~」

「あ、はい!今後もよろしくお願いします!」


 挨拶を済ませると、"ヤコ"と呼ばれた職員の女性に見送られながらギルドを後にする。


「さて…それではクロア様」


 一歩先に外に出たマギアさんが、静かにこちらに振り返る。


「最後に、依頼の報酬金の受け渡しと収集品の清算がございます。一度店舗に寄っていただいてもよろしいですか?」

「お店…はい、勿論大丈夫です」


 依頼書には彼女が店主である、と記載があったのを思い出す。

 反射的に了承したものの、機械人形が営む店とはどんな様相なのか。それを想像するのに頭が一杯だった。


 ───

 ──


 ギルドのある西区の大通りを抜けると、そのまま裏通りに入っていく。

 浮付いた雰囲気は少しずつ落ち着くと同時に、露店や商店は少なくなり一般的な家々が目に見えて増えてくる。人通りも決して多くはなく静かな空気が流れている場所だ。

 そんな一角。ギルドからもそう遠くは無い場所、小ぢんまりとした年季の入った木造の建物の前でマギアが立ち止まった。


「こちらです。どうぞ」


 ──何の気どりもなく、てらいもない店である。

 看板は出てはいるが、控えめなサイズで特に目立つ装飾も施されていない。実に簡素な作りである。しかしこの飾り気も商売っ気も無い感じが彼女らしい、と言えばそうなのかもしれないとも感じられた。

 扉に掛けたドアプレートをOPEN表示に返すと、彼女は一足先に店内に入っていく。


「…お邪魔します」


 続いて扉を開けると、来店を知らせる小さな鈴の音が控えめに響く。

 高窓から陽光が差し込む店内は色取り取りな商品で溢れていた。

 赤。青。黒──どぎつい原色をした何に使うか良く分からない鉱石の様な物の固まりや、差し込む陽の光を受けて柔らかい色光を落としている宝石。瓶の中でふわふわと舞う様に動き回る何か。得体の知れない粉末や、不思議な形状をした果実──

 一見して纏まりのない、見覚えの無い物ばかりが几帳面に陳列されていた。


 しげしげと眺めていると、その中に見覚えのあるクラニアの果実と樹皮が目に入る。つまりこれらは全て、迷宮内の収集品なのだろう。カウンターの上には水薬もいくつか置いてある。


「申し訳ありません、お待たせしました」

「あ、はい!すみません。ついつい物珍しくって…」


 店の奥から聞きなれた声がすると、間仕切り代わりの布の向こうから特徴的な右腕をした女性が姿を見せる。彼女は先程まで身に付けていた外套を外し、その顔を露にしていた。


 ──碧色の髪をした、ショートボブの女性。


 少し垂れ目がちで、控えめで小ぶりな口はきゅっと一文字に結ばれている。幾分硬く落ち着いた声とは対照的に、その容姿からは僅かに幼い雰囲気も感じられる。彼女がそう出来るのかは分からないが、きっと笑顔はこの上なく似合うのだろう。

 字面通り、人形の様に整った顔をした端麗な女性がそこにいた。

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