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「あぁ~…うん、まぁ確かに言っとったが…本当に気になるか?それ…」
目の前の少女はグラスを手に、椅子に寄りかかりながら苦笑する。
──「貴女は、今年でいくつになるのですか?」
他愛も無ければ面白みも欠ける、実に陳腐な質問だろう。
しかしながらそれは、出会いから八年程経つにも関わらず全く"何も"変わらないレイシア=オルトハーグという少女に対する率直な疑問であった。
「はい。この際ですし、差し支えなければ経歴等もお伺いしたいのですが」
「この際て……まぁ今更お前さんに隠すようなもんでも無いんだろうけども」
少し思案するような仕草を見せた後。
くぅっと一口に勢い良く飲み下し、一つ息を漏らした。
「はぁ……んぅと、もう確かには覚えとらんが今年で七十か八十、まぁそこら辺りか。…いや十七のままなのか…んん?どれが正しいんだろうな…」
「…成程。今一度伺いますが、酔ってはおられませんか?」
「失礼なやつじゃの…最近なんか手厳しくないか?お前」
大袈裟に肩を竦めながら不満を口にする。
──恐らく彼女は酔ってはいない筈だし、冗談を言っている雰囲気でも無いのだが。どちらにしても俄かには信じ難い話である。
彼女の見た目は十代半ばのソレであり、老年の女性には到底思えない。
仮に諸々のことに眼を瞑ったとしても。一般的には数年も経てば著しく成長が見て取れる年頃であろうにも関わらず、"変化や成長"ですら全く見られないという点はどうも釈然としない。
彼女の在り方は何か不自然であった。
「殆どザックと同じ年だろうな。……昔はな、アイツと同じパーティで迷宮に潜っとったこともあるよ」
「それは…はい、存じております。会話の端々からそう伺える事がありましたので」
「ほぅ…そうか。そうだったか」
ぽつりと一言。
遠い何かに思いを馳せているのか、手の中で揺らぐ液体に視線を落としたままレイシアはそれだけを静かに返した。
一寸。
会話が不意に途切れ彼女の唇が微動だにせず、互いの間には厚い壁のような沈黙が横たわる。不思議ではあるが、遠くの喧騒がやけに際立って耳に届いている気がしてしまう。
洋燈のぼんやりとした灯りは、薄暗がりの中に瞬き一つしない少女の姿を浮かび上がらせていた。
──それなら、と。
呟くような声が沈黙の中に響く。
「ワシが……アイツの病を患う原因を作ったという事は。何度も冒険者達を死なせた挙句、アイツの命も奪った様なもんだという事は、知っとるか?」
目の前の少女の紡いだ言葉に。思考が、止まった。




