5-ep
ぱたん、と軽い音を立てて扉が閉まる。
店の中で一番奥まった場所にある小さなこの一室は、窓から差し込む柔らかな陽射しと静かな空気でいつも満たされていて。
ここだけ時間が切り取られ、昔のままに取り残されたような錯覚を覚える。
ウィルマに花束の作り方を教えた際に幾ばくか残った白のスプレーマムとカスミソウ、ピンクのガーベラで作り上げた小さくて少し不恰好なブーケを手にして。
私は当時のままに残されたアイザックの自室に足を踏み入れていた。
自身の目の前。部屋の中央から少しずれた床の上に、そう大きくは無い小奇麗な布が一枚敷かれている。
この布の下に"彼"が納められた骨壷があった。
衛生や土地の問題、他文化の流入もあって土葬から火葬に移行することが多くはなったが、元々の地母神信仰である"大地への回帰"という点を変わらず意識する住民は多い。その為、家主の管理の届く場所で、且つ最も地下に在る場所。
──小さな地下庫を作り、そこに遺骨を安置する家が決して少なく無かった。
硬い音を数度響かせて布の前に膝を着くと、その上に静かにブーケを置く。
差し込む陽射しが瑞々しく主張する花々を照らすと、不思議と一層輝いて見えた。
そのまま見上げるように窓に眼を向ける。
そこから見える空は、青く青く遠くまで澄んでいて。真綿の様な雲もただただ静かに流れていく。
ふと思う。彼も、同じ景色を見ていたのだろうか。
彼は、ここから見える空を見て何を思ったのだろうか。
今となっては知る由は無いのだけれど。
僅かに届く街の喧騒が、慰霊祭が近いことを知らせていた。




