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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
5章
52/138

5-5

「はぁ…ごめんなさいね?見苦しいとこ見せちゃって…」


 落ち着きを取り戻したウィルマは、気恥ずかしそうに髪先を弄りながら泣き腫らした眼を伏せる。


「…どうしても、ね?今でも考えちゃうことがあるの。花束の作り方を教えて欲しいっていうのも、勿論嘘じゃなかったんだけど」


 ──自身の手が止まっていたことにようやく気付いた彼女が、淡紫の花に手を伸ばす。


 街を歩いている時、宿屋で一人窓の外に眼を向けている時。なんでもない時々の隙間にふとあの光景が過ぎるのだと言う。じりじりと燻り、消すことの出来ない火種が今でも奥底に灯っているのだろう。


「だから…あたしたちはどうしても贔屓目に見ちゃうから。いつもにパーティを一緒にしていなかった貴女に。一歩引いて物事を見ていた貴女と、話をしてみたかったの」


 ──ウィルマは私と会話することで何かしらの回答を得られると思ったのかもしれない。

 具体的に私は答えを提示出来た訳ではないし、今でもどう答えることが正解なのか分からない。彼女の抱える悩みを解決出来た訳でもないが、それでもそれを彼女が望むのであれば。


「…私が力になれることがあれば。何でも仰ってください」

「ありがとう。…私がこれからどうするべきなのか。ちゃんと、答えを探してみるよ」


 ギルドでこちらに手を振っていた時程とは言わないが。

 そう告げた彼女の表情は、柔らかく見えた。


 ───

 ──


「うぅん…これで、どうかしら」


 四苦八苦しながらも試作を続けた末。

 今彼女の手には、綺麗に整えられた小さめのブーケが出来上がっている。"紫苑"が瑞々しく顔を覗かせるそれは、本当に──


「はい、とても素敵だと思います」

「そう…良かった。ちゃんと出来たのね」


 出来上がったブーケを、胸前で愛おしそうに握り込んだ。


「大変お疲れ様でした。…まだ慰霊祭まで五日程度時間があります。あまり花が開いていないものを選びはしましたが、冷暗所に保存してくださいね」


 水を汲み置いた金属製の小さなバケツを彼女に寄せながら、簡単に手入れの説明を済ませる。本番はあくまで慰霊祭である以上、それまでは綺麗に保たせなければならない。


「あとは、時折水の中で茎を斜めに切り落として下さい。水も毎日換えられることをお勧めします」

「うん、分かりました」


 先生と生徒の間柄の様に彼女は素直に答えてみせる。


 ──そういえば。

 私たちの時は。アイザックを亡くした年は。私とレイシアはどんな花束を用意しただろうか。

 確か、白い花をメインに添えたものだった筈──


「……それでは、片付けに取り掛かりましょうか」


 今は、目の前に集中しなければ。

 近くに刃物もあるし、何より折角完成した彼女のブーケを駄目にするようなことがあってはいけない。机の上の細かい片付けを彼女に頼むと、私は箒を手に床に散らばった茎や葉の片付けに取り掛かる。


「…ねぇ、マギアさん?」


 掃除道具を手に互いが作業に取り掛かろうとすると、彼女が投げかける。


「慰霊祭の時は、このお店って開いてるの?それともお祭りの方に?」

「慰霊祭の日でしたら…祭に合わせて回収品の焚き上げがありますので、私は店を離れているかと思います」


 ──回収品を取り扱う店にとっては、慰霊祭は特別な意味を持つ。


 迷宮から持ち帰った回収品はギルドに申請、登録後に取引が行われている訳だが、保管スペースや物品の品質保持の観点から際限無くいつまでも保存出来る訳ではない。

 原則、最大三年間の保管義務が発生するが、それを超過しても取引が行われない場合。

 該当する回収品の保管義務は失われ、慰霊祭の際に炊き上げという形で処分するのが慣例となっていた。例年慰霊祭が近くなる頃は忙しなく動き回っていた覚えがある。

 幸か不幸か今年は迷宮の入場停止もあった為、精査に避ける時間には余裕があったのだが。


「あぁ、そっか……大変だね。マギアさんも無理しないでね?」

「はい、ありがとうございます」


 何事も無かった様にてきぱきと彼女は作業に戻る。一寸、思案するような間があったように感じたのは気のせいだろうか。


「…よっし。それじゃぁ、これで大丈夫そうかな?」


 綺麗に整えられた机を前に、ウィルマはぽんと手を軽く鳴らして見せた。


「えぇ、助かりました。ありがとうございます」

「い、いやいや!こっちがお世話になりっぱなしだったんだから!……うん、本当に助かったわ。ありがとう、マギアさん」


 ──ウィルマは軽く頭を下げ、ブーケの入ったバケツを大事そうに抱え街に歩を踏み出していく。

 ここを訪れた時にしっかりと顔を覆い隠していたフードは取り払われ、彼女の艶やかな髪が陽光に煌いて見えた。

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