5-2
ローブを羽織った女性はおずおずと扉を閉めると、店内は直ぐに静寂を取り戻す。
「…マギアさん、久し振り」
ちらりと覗く浅黒い肌と、耳慣れたその声から彼女が依頼を共にしたウィルマであることはすぐに分かった。身体の前で組んだその両手には包帯が巻かれている。
「お掃除中にごめんね?…今、大丈夫だったかしら?」
「お久し振りです、ウィルマ様。はい、構いませんが」
「そっか。えっとね…ちょっと、聞きたいんだけど」
見慣れた朗らかな雰囲気が一変して、怯えた様に慎重に彼女は言葉を紡ぐ。
目深に被ったフードから僅かに覗く彼女の表情は硬く、その瞳も昏い色が見えた。
「…貴女って民生用の機械人形、なんだよね?…えっと…花束の作り方とか、教えてくれないかな?」
「花束…ですか?」
「うん。…出来ない、かな?」
──思いもしない言葉に、思わず聞き返してしまう。
確かに私は民生用の機械人形である為、家事に関わる事柄であればある程度の知識を持ち合わせてはいるが。この店にいて魔具や収集品等、迷宮に関わる物事以外のお願いをされた事は殆ど無かったのではないのだろうか。
「…知識として、大まかにでしたら。この様な腕になって以来は作る機会はありませんでしたので、あまり自信はありませんが」
──その言葉に嘘は無い。
どうしても片手だけ作るとなるとその手段は限られるし、細かいバランスの調整などもやり辛くなる。当然ではあるが店で取り扱うような上等な物を作り上げることは難しいだろう。
「そっか。あの…それでも良いから、貴女の都合が良ければ教えてくれないかな?」
「私でよろしいのでしたら…はい、かしこまりました」
「あぁ、良かった…ありがとう。それじゃまだ早いだろうから…様子を見て、適当に幾つか花は買って持ってくるね」
私の返答に安堵したのか、彼女の表情が僅かに緩む。ウィルマの力になれるのであればそれは吝かではない。ないのだが。
──当然ながら一つの疑問が頭を過ぎる。
「ウィルマ様、申し訳ありません。一つお伺いしてもよろしいですか?」
「…何?」
「何故、生花店に頼まないのですか?大通り沿いに、いくつかある筈ですが…」
「今は…見知った人以外とあまり接したくは無いの。…あとは、どうしても自分で作りたくって」
先程僅かに緩んだ表情が再び硬くなる。
来店して以来、どうも彼女は目を伏せたままおどおどとしている事が多い。包帯で巻かれた指も身体の前で硬く組んだまま解こうとはしない。
「…ほら、二週間後。慰霊祭でしょ?彼に供えようと、思ってて。…自分で、作りたいの」
──彼女の口にする相手が誰のことなのか。聞かずとも、それがアルマンの事だと分かった。
「…成程。失礼致しました」
「うぅん…それじゃ、またね」
結局、終始眼を合わせる事は無く。口数少なく手早く要件を済ませると、彼女は静かに鈴を鳴らし店を後にした。
「…帰ったか?」
作業の物音を立てないよう気を使っていたのだろう。髪を纏め上げたレイシアが様子を伺うようにこっそりと顔を出す。
「はい。今お帰りになられました」
「慰霊祭なぁ…そうか。そんな時期か」
──年に一度開かれる、街を挙げての祭祀。
主に迷宮で亡くなった冒険者を弔う為の祭りであり、この街が出来た頃から催されてきた大事な祭りである。
「ギルドに問い合わせた時に、受付が言っとったが。今回お前さんが一緒になったパーティで犠牲者が出たらしいな」
──恐らくは私の帰りが遅いことを心配して問い合わせた際に耳にしたのだろう。
人体と鎧の区別も付かなくなる程に。人間だった物の塊になる程までに執拗に、何度も何度も石の掌が振り下ろされたあの惨状と。
ギルドで握手を交わした時の、彼の凜とした瞳と眩しい笑顔が同時に頭を過ぎる。
「はい。とても良い方でした」
「…そうか」
──小さく、一言。目を伏せ、彼女は何か思案するようにしながらそれだけ呟いた。
「…ふぅ。…続けようか。お前もさっさと準備を済ませろよ」
一度だけ息を吐くと、レイシアは硬い表情で工房に戻っていった。




