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「さて。どうしたもんか…」
深く沈んだ闇の中、耳に届く少女の声で自分の輪郭を取り戻す。こうやって目を覚ますのは何ヶ月振りだろうか。視界の右端に、四角く囲まれた薄赤い警告文が一つ。ぽつんと寂しく浮かんでいる。
それほど間を置かずして鳴った眼球機構の小さな駆動音と共に、視界は徐々に世界を捉えていった。
「おはよう、マギア」
──目の前には、困惑した表情の二人。腕組みをするレイシアと、その横で佇むアイザックの姿があった。
「…おはよう、ございます」
「はぁ…良かった、目は覚めたか…調子はどうだ?まぁ、言う迄もなく万全では無いだろうが…」
そう口にするレイシアの視線は、私の右肩に未だ繋がったままの巨大な鉄の筒に向けられていた。
「これは…そうですね、問題なく起動は出来ている様ですが…」
「起動、はな。…結論から言うと、なんだが。その腕部パーツがな、外そうとしてもエラーが出て外せない状況でな…うん…」
眉根を寄せる少女は慎重に言葉を選んでいるのか、いつもより少し歯切れが悪い。
「傍におったのに、こんなことになって本当に申し訳ない…ただ…」
先程から押し黙るようにして佇んでいたアイザックが、煩悶とした顔をしつつ彼女の言葉を継ぐ。
「神経接続やら骨格調律やら、本来ならいくつかの工程を承認しないと接続進行は出来ない筈、なんだがなぁ…理由が分からんのだ」
──コレが何故か接続"出来てしまった"理由、とはなんのか。想定外の出来事に彼自身困惑している様子だった。
「うん…ザックの言う通りでな。接続すらしていないとなると、こちらからそういう操作は行えない筈、なんだ。…勿論原因と外す方法は探ってみるが、しばらくそのまま生活してもらうことになると思う」
最悪、無理矢理に切断することになるかもしれないと続けるアイザックの姿は本当にしおらしかった。
「そんなに後悔するなら、遊びでも最初っからやらんどきゃ良いものを…」
「ぐぅ…何も言い返せんよ…」
弱った顔の彼は、胸の中全てを吐き出すような深い後悔の溜息をつく。
「私が…ザックに右椀を催促したのです。それに、このパーツを試しに装着すると決めた責は私にあります。ですので…あまり、気に病まないで下さい」
──軽率だったのだろう。
損傷を負った機械人形を拾い、親切に世話をしてくれるだけでなく望むことまで大事にしてくれる人と出会えたことは、私にとってこの上ない巡り合わせなのだ。
そう思うのなら。二人にこんな顔をさせたくはないと感じるのなら。
私も慎重に行動すべきだったのだろう。
「あぁ…すまんすまん。ワシもザックを責める気は無いんだよ。言うた通り、事故の様なもんじゃからな」
レイシアが僅かに表情を緩めると、ハッと気付いたように目を見開く。
「…あぁ、そういえば。念の為だが。店のことは気にせんで良いからな?日常生活にも影響があるだろう、無理はするなよ?」
眼前に顔を近付け、出来る限り強調するように言い聞かせる彼女と視線を結びながら。
「はい、かしこまりました」
私は右側に少し身体を傾けながら、二つ返事に頷いた。




