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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
4章
41/138

4-13

「アイザック。申し訳ありません、今お時間をいただいてもよろしいでしょうか」

「ん…どうした?何かあったかい?」


 ──あれから数日。

 真冬の陽が静かに降り注ぐ朝、幾分調子を取り戻したアイザックが工房にいた。


「差し出がましい質問で大変申し訳ないのですが…私の右腕は、いつ頃装着していただけますか?勿論私に出来る形で必ず対価はお支払いさせていただきますので」

「いや、対価なんぞ要らんのだが…」


 僅かに驚いた顔をしながらも、最初から期待していないという様子で彼は即答する。


「どうにかしてやりたいのは山々なんだが…深層の機械人形のパーツともなると、なかなか出物も少なくてなぁ」


 嵩張り易く重量もある収集品、特に機械人形に関わる部品を好んで持ち帰る冒険者は唯でさえそう多くは無い。最深層である六階層に続く五階層の物ともなれば尚更だ。


「…そうなのですね、申し訳ございません。時折調子を崩されている様子ですし、負担を少しでも減らせればと思ってのことでした」

「いやいや謝らんでくれよ。お前さんに不便をさせとるのも事実だしな。…すまんね、気にしてくれてありがとう」


 深い皺が刻まれた顔で目を細め、微笑んで見せる。


「ただまぁ…うん、長いこと待たせてしまっておるのは確かに申し訳ないし、何よりお前さんが望むことを無碍にもしたくないんだがなぁ…」


 自身の要望をこうして口にしたことが今まで無かった為か。私の要望、ということを殊更気にしているのか彼は視線を落とし真剣な面持ちで一寸考え込む。


「…部品取りが目的ではあったんだが。裏に、纏めて買取ったジャンクがあるにはある」


 彼は見上げるように、目線だけをこちらに動かした。


「まぁ…接続工程を進めなければ装着されることは無いし、ちょっと改めて漁ってみるか」


 こっちに来てくれるか、と告げて奥に向かう彼の一歩後ろを付いていく。

 少し薄暗い廊下の突き当たり。倉庫として用いられている小さな一室の壁際に、白い布に覆われた山が出来ていた。

 彼がゆるりとした足取りで近寄り布を剥ぐと、積み上げられたパーツの山が姿を現す。


「さて…何か残っとったかなぁ…」


 そこにあったのは彼の言う通り、機械人形だったもの(ジャンク)の塊だった。

 それは例えば接続部が焦げた顎部であったり、腹部から下だけとなったものや胴部分だけとなったもの。内部機構なのか、一見何に用いるのか分からない様な部品も多数散見された。保存状況も様々で、皮膚装甲に割れが見られたり一部には汚損が見られるものもある。

 規格も同様で、自身とは機構の異なる物も混じっている様子だった。


「…そう、これ。これは五階層の腕で、パッと見は状態が良かったんだなぁ…」


 彼が幾分綺麗な状態に見える右腕パーツを持ち上げる。

 私にも分かるように回して見せると、二の腕の内側に当たる部分の皮膚装甲が肘の辺りまで欠落し抉れており幾らかのケーブルが垂れ落ちている。言う迄も無く、一目見て使えないことが見て取れた。


「これは…残念ですね…」


 ──ふと。視界の端に転がっているものが目に入る。

 それは丸太の様に太い鉄の筒であり、他のパーツとは異なる異様な存在感を放っていた。


「…すみません。あれも、機械人形に用いられるパーツなのですか?」

「ん?…あぁ、四階層でも五階層でもちょいちょい見付かるもんだな。接続機構はある様だから、そうだとはあると思うんだが…」


 ソレに近寄り、静かに指を這わせる。赤錆びた鉄の塊の表面が音も無く、ざらついた感触を返した。


「お前さんも、こいつに見覚えはないか?」

「はい、ありませんが…」


 確かに接続機構は存在しているし、恐らくは機械人形にも合致する規格だろう。損傷や欠損があるようには見受けられない、が──これはまともに挙動する部品なのだろうか。


「それも使い道が分からんものだな。…ふふ、装着はしてやれんが試しに当ててみるか?」

「……」


 どこか楽し気にしている彼に一つ頷き返す。

 膝立ちになり左腕で抱き起こすようにして、ソレを慎重に壁に立て掛ける。自身の腕よりも一回り、二回り程も太さのある鉄の筒は重々しい存在感を放っている。

 袖を捲り上げ無骨に突き出す骨格機構を肩の装着部分に押し当てると、寄りかかる重みが身体に負担を掛ける。


「はは、まぁそういう浪漫はあるな。こう…可愛らしい機械がゴツい部品を着けてるってのもギャップがあって──」


 ──瞬間。

 弾ける様な大きな音が彼の言葉を遮るように鳴り響くと同時、身体が跳ねた。赤いエラーメッセージが脳を侵す様に、波の様に視界を端から覆い尽くしていく。


「マギア?!」


 自身が硬い床に転がったことだけが理解出来る。突き刺さる様に頭の中でけたたましく響く警告音がやたら喧しい。


「ア■■■■ク…」


 何が起こったのか、理解が出来ていなかった。やっとのことで捻り出した言葉も、警告音に埋もれ遠くに聞こえる。


「何で■■■■、ちょっと待■■■■よ。一回電源を■■■■らな?!」


 警告音の合間に聞こえる彼の言葉が届いた後。ふつり、と意識が暗闇に落ちた。

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