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風がすっかりと冷え切り、窓から見える空は透き通るような淡い水色に満ちていた。
ごほごほと、店内に一際苦しそうな乾いた音が響く。
共に店番をしていたアイザックは眉間に深い皺を寄せ、青い顔をしながら口元に手を当てていた。
「アイザック、大丈夫ですか?」
「こほ、大丈夫、大丈夫…申し訳ない、瓶を…そこのやつを取ってくれるか」
カウンターの裏側。
いつも服用している水薬の入った小瓶とは異なる、手の平大の丸い瓶を指差す。中には何も入っていないように見えるが封は切られていない。
「こちらでよろしいですか?」
「あぁ、ありが、とう…」
弱々しい笑顔を浮かべながら瓶を受け取ると、自身の目前で封を切り栓を抜く。瞬間、彼の顔の周囲が清涼な空色に染まった様に見えた。
「はぁ…少し、呼吸が楽になった。ありがとう」
そう口にする彼の顔色は、僅かばかりではあるが良くなったように見える。
「…以前レイシアから伺ったのですが。ご病気、なのですか?」
「あぁ…うん。冒険者の時分に無理をし過ぎてね。毒で、肺をちょっとな」
空になった瓶を手元で遊ぶように転がしながら、気恥ずかしそうに苦笑して見せる。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと薬を飲んでおけば問題ないよ」
「ですが…本調子ではなさそうです。まだ無理をなさらない方がよろしいかと」
大丈夫と言うが、ほんの先程まで咽ぶような咳をしていたのだ。恐らく薬のお陰で一時的に咳が治まっているだけだろう。長く病を患えば、相応に体力も衰えている筈だ。
「ふふ、気遣ってくれるのか。…まぁ念の為、少し横にならせて貰おうかな。何かあれば、すぐに声をかけてくれんか」
「畏まりました。アイザックこそ、何かあればご遠慮なさらずお申し付け下さい」
椅子の背凭れを杖の様にしながらゆっくりと立ち上がると、ありがとうと残しそのまま彼は工房奥の自室へ歩いていく。
──ほんの少し。少しだけ。気のせいか彼の背中が小さくなったように見えた。




