4-11
「アイザック様は何故、私を引き取ったのですか」
沸騰したての湯を注ぐと、ポットの中で茶葉がふわりと舞う。その様子に目を向けながら疑問を口にすると、アイザックは顎に手を当て視線を宙に彷徨わせる。
「アイザック"様"は止めろと言うとるだろ…んん、まぁそうさなぁ」
柔らかく湯気を立ち上らせる紅茶を二人分準備しながら、静かに彼の答えを待つ。
「お前さんを初めてギルドで見かけた時、だったんだが。なんかこう…必死に見えたから、かな」
「必死、ですか…?」
抽象的な表現に思わず聞き返してしまう。
「…申し訳ございません。…私には、その様な記録はございませんでしたので」
「いやいや、謝る事は何も無いさ。そういえば最初の頃は眼も見えとらんかったしな。しかし…うぅん、言葉にはし難いな。…まぁなんとなくなんだ。特段に理由なんぞ無かったんだよ」
「…そういうもの、なのですか」
──そういうものか、と。
相槌を打つものの、どこか腑に落ちてはいなかった。小さいながらも理由や理屈があるからこそ。それに従い人は行動を起こすものではないのか?なんとなくでここまで手間なことをやるものなのだろうか?
それに何度記憶を振り返ろうとも、私の中にある彼との記憶は全てこの店に来てからのものしか無い。彼の言う様なギルドでの記憶は存在していなかった。
「…ワシはそうじゃなぁ、お前さんのやりたい事に興味があったな」
レイシアはすぐには紅茶に口を付けようとせず、差し出されたカップをその小さな両手で包み込み、じっくりと暖を取っている様だった。
「今だからまぁ言えるが、最初はお前さんの為って訳じゃ無かったよ。よくある話だが機械人形が何を目的に作られたのかってやつが何か分かるかも、という興味からだったかな」
「本人を前にして、よくもまぁぶっちゃけるな…」
アイザックがじっとりとした目をレイシアに向ける。
「まぁまぁ良いじゃないか。お前さんのやりたいことをやって欲しいという事に変わりは無いしな。何よりまぁ…今じゃ個人的に好いておるよ」
眼を細めながら笑って見せるレイシアは、実に楽しげに見えた。
「…ま、ザックの事に話を戻すが。理由が無くても、人間そういうなんとなくで事を成す場合もあるもんさ。コイツはそれが多くてたまに困ることもあるがな」
「えぇ…?そんな多いかぁ?」
紅茶に口を付けつつ相槌を打つアイザックに、今度はレイシアがじっとりとした目を向ける。
なんとなくという曖昧で共有し辛いことをどう認識すれば良いのか。思考を走らせるが、私にはどこか理解が及ばない。
「…難しいことを仰います」
「ふふ、まぁ縁が合ったとか、そんなもんなんだよ」
──そういう事を、私もいつか理解出来るようになるのだろうか。
小さく呟く私を見る二人の目はどこか柔らかく思えた。




