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「またのご来店をお待ちしております」
「こほっ…また来とくれなぁ」
──客を見送る言葉と共に頭を下げると、店内に小さな鈴の音が響く。
コツ、カツと硬い足音を鳴らしながら。
腰部に繋がれていたケーブルを外した私は、自由に店内を歩き回れるようになっていた。
会話の端々からここが彼の店であることは把握していたし、彼の用意してくれた書物の中にいくつかこの街について記した歴史書の様なものもあった為その類の存在は認知していたのだが。
自身のいるこの場所が迷宮に関わる魔具消耗品を取り扱う場所であったことは、工房から出れるようになって初めて知った事実だった。
「おう、お疲れさん。この様子だと心配なんぞする必要も無いな?」
硝子瓶が触れ合う音と共に、客と入れ違うように奥の工房からレイシアが姿を見せる。その手には新しく作製したばかりの色鮮やかな水薬が見える。
「ふふ、まるでお前に娘が出来たようじゃな。良かったじゃないか」
「阿呆なこと言ってるなっての…」
呆れた顔をしたアイザックがカウンターの裏側から小瓶を取り出し、慣れた手付きで封を切る。そのまま呷るように瓶の中身を飲み干すと、途端に苦い顔をした。
「はぁ…どうしようもないが、本っ当に不味いな…」
「自分で製造すれば、多少は好みの味にも調整出来るじゃろうに」
「こんな複雑なのは俺じゃ作れんのは知っとるだろ」
アイザックがレイシアに悪態をつく。
どうやら彼は病を患っているらしく、定期的に薬を服用しなければならない様子だった。彼が空瓶を片手に苦い顔をするのを度々目にする機会があったのだ。
「ふぅ…さぁ、納品が近いのがまだ残っとるだろ。阿呆やってないで、ちゃっちゃと作っちまうぞ」
「分かっとる。…というか、ザックと違ってさっきまでワシはちゃんと製造しとっただろ…」
ぶつぶつと文句を言いながらも、二人は工房へ入っていく。
──しばらくすると。
カチャリ、カチャリと硝子容器や製造機材を扱う高い音が聞こえる。遠くから聞こえてくる澄んだ音色は心の中にすとんと落ち込み、心の中で反響していく。
──この音を聞いていると、不思議と穏やかな気持ちになる。
何度も、何度も聞いても飽きる事の無い。まるで昔から知っていたかのような錯覚を覚えていた。
カウンター奥に置かれた椅子に腰掛け、新たな客が来るのを待ちながら。目を閉じ、じぃっと耳を傾けていた。




