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包み込む闇。散逸する意識。目の前にただ広がる、深い闇。
自身も気付かぬ間に意識は整えられ、私の目の前に一瞬見慣れない青い色のシステムメッセージが浮かぶ。
それは音も無く消えると、緩やかに、鮮やかに。世界に光と色が満ちた。
変わらず薄く表示されるエラー越しに見えたのは、陽の光で柔らかく照らされる規則正しく並ぶ天井板と。
柔らかな笑みを湛える眼差しを向ける老人の姿があった。漂白されたように白い髪をした彼は、優しい口元に薄笑いを見せていた。
「…おぉ、起きた起きた。今回はちゃんと目が合うぞ」
「当たり前じゃろ、同じような失敗は繰り返さんて」
自身は仰向けに寝そべり、見上げるような体勢になっているのだろうか。
ひょこりと右側から黒髪の少女が顔を出す。視界の欠けも無くなり、二人の表情はくっきりと見て取れる。
「おはようさん。こほ…さて。私たちの顔は見えとるか?声は聞こえとるかな?」
男性は目を逸らさず話しかけてくる。
「…ぁ"…rrr…っ…うございまs、ご主人」
──やはり上手く声が出せない。
まだ馴染んでいないのだろうか。一体どれくらいの間、喋れていなかったのだろう。
「ほほ、ご主人ときたか。まぁ確かに、ここの主ではあるからな。間違いはないな」
「あぁ…申し訳ないんだが、私はお前さんのご主人とやらではないんだ」
面白そうに、意地の悪い笑みを浮かべる少女の隣で。老人は苦笑してご主人であることを否定する。それならば、この者たちは何者なのか。
「一先ずはこれで基幹部の動作確認が完了か。…そんじゃまぁ、次は上半身くらいは動けるようにしてやらんとな。何、そう時間はかからんさ」
──上半身、くらい?
ふと疑問に思うも、そう口にした少女の意図は間もなく理解出来た。身体が一切動かない。手も、足も。それどころか、頭を動かすことすら出来ない。
自身の状況を少しでも理解しなければ。
唯一動く瞳でとにかく周囲を見回そうとすると、その姿を見て少女が言葉を繋げた。
「あぁ、焦るな焦るな。…お前さん、見付かった時に諸々駄目になっとったからな。…大丈夫、ちゃんと動ける様にしてやるから。安心しろ」
そう言い彼女が指の背でさらりと頬をなぜる。
「…次に起きた時は、少し話をしようか。それまで、ほんの少しおやすみ」
節くれ立つ深い皺が刻まれた彼の無骨な手がゆっくりと頭上に伸ばされると。僅かに視界が揺れる。
「…さ、一回電源落とすぞ。次に目が覚める時を期待しとけよ」
少女が口角を僅かに上げ微笑して見せると。再び視界に闇が満ち、意識は散逸していった。




