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幾度目か、短いノイズが走る。
意識がゆっくりと浮上すると、世界にじんわりと光が満ちていく。
「あー、あー…おーい、聞こえとるかー?」
今迄喧しい程に鳴り響いていたアラート音は止み、呼び掛けるような女性の声が聞こえる。若く、瑞々しい声色。
視界の右側半分は変わらず黒く欠けていて。光を捉える左側に、見下ろすようにこちらを覗き込む人影が朧気に見えている。
「コホッ…大丈夫か?本当に起きとるのか?」
乾いた咳に続いて、男性の声が聞こえた。咳で喉を痛めているのか、しゃがれているが落ち着いた声色を感じる。どうやら年配の人間であろうことが伺えた。
「んーぅ?ちゃんと基幹部は機能しとる筈だし、この前ダメになっとったとこの換装も済んどるはずなんじゃが…」
──手、だろうか。
左側に立つ人物が私の顔の前に手を伸ばすと、目の前でゆらゆらと動かして見せる。
指と思しき合間から光がちらちらと差し込むと、私の瞳の機構はそれでも静かに明暗の調整をし始めた。
「…ん…!?おい!動いとるぞ!反応しとる!」
興奮するように、男性の声は語気が強くなる。
「ぉ、おぉ…!?本当か!上手くいったか!…さすがワシ、機械人形の修理も出来る天才じゃったかぁ」
喜色を含む女性の声が聞こえる。どうやら女性は視界の欠けた右側にいるのか、その姿は目に映らない。
「…なぁおい。これ、見えてないんじゃないか?目線が全然合わん」
「まさか。女子じゃし、恥ずかしがっとるかザックが嫌われとるだけじゃろ」
"ちょっとどいてみろ"と言うと、暗がりから人影が現れる。
見えていた年配の男性より頭一つか二つほど低いその人影は、ぴょこぴょこと活発に動き回りながら何かをしているように見える。
「んぅ…確かに反応が鈍い。故障しとるのかもな…なぁ、おーい?聞こえとるか?喋れんかぁ?」
──もう一度。女性の呼び掛けが聞こえる。
彼女は恐らく私に話しかけているのだろう。が、相変わらず思考が纏まらない。どうにも、反応が遅れてしまう。
「…A……a…ぅ"…ttttt……ぁ"ぁ"」
──振り絞る。上手く、声が出せない。
「あぁ…こりゃ…発声器官もか?外傷は無い様に見えたんだがなぁ…ちょっと見てみるか」
「そうか…いや、頑張ってくれてありがとう。大丈夫、無理はするな」
身長の高い方の影が、私の頭上辺りに手を伸ばす。
いつか見た時のように、何度か緩やかに、漂うように左右に動かした後に。再び、意識は闇に落ちた。




