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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
3章
27/138

3-ep


 以上、報告追記を終了とする。


 尚、他一党からも同様、または類似した報告を多数確認。※2

 上記と併せ、犠牲者が多数発生している事を考慮し奇種発生と判断。

 報告書にも記載を行っておりますが、第四階層への立ち入りを一時禁止することを併せて提言致します。


 また本依頼の遂行期日は超過しているが、現在も帰還を確認出来ない一党(計六名)は行方不明者として計上。

 探索依頼の発令については検討中。別紙にて報告を行います。


 ※1 本一党を構成する一人。今回の依頼遂行中に死亡との報告有り。

 ※2 本依頼を受諾した五組の一党から提出された報告書にて確認。


 ギルドの扉に右腕を当て体で押し開けると、眼前にいつもと変わらない街並みが広がる。人々のざわめきの中に一歩踏み出し、歩き出す。

 行き交う人々は笑顔を浮かべ、笑い合い、思い思いの話に花を咲かせている。誰もが日常を謳歌し、楽しんでいる様に見えた。


 この日常のすぐ足下には非日常が広がっている。ここではそれが目に見えないだけなのに、それがとても遠いものの様に感じられるのは何故なのか。


 店主の呼び込みの声が次々に投げかけられる。露店に並ぶ色鮮やかな商品はそのどれもが瑞々しく主張し、調理された食品から漂う様々な香ばしい香りが鼻腔を刺激する。迷宮から得られたものを素材に作られた魔具や消耗品は見渡す限りに並び、あちらこちらで取引されている。

 変わることの無い、この街に住む人々の日常。


 きっと非日常の中で何が起こったとしても、きっとこの風景は変わらないのだろう。

 何事も無かったかのように。誰かが居なくなったとしても、きっと私が居なくなったとしても。何も変わることが無く世界は回り日常が流れていくのだろう。


 自身が記憶する八年間。この街で繰り返されてきた日常。きっと、それ以前からもずっとずっと繰り返されている、この街の日常と非日常。

 それらに取り残された様な錯覚から、少しだけ目を伏せるようにしながら。私は店とは逆方向へ静かに足を運んだ。


 ───

 ──


 この街の東区は多くの工業施設が集積した工業地帯である。私がメンテナンスに通う工房もそこにあった。


 西区と同様に賑わっているが、目に付く商店の数や飾る色々が僅かに少なくなる。華やかさは抑え目になり、多少雑然とした雰囲気が漂うそこはまた違う街の表情を見せている。

 金属がぶつかる高く乾いた音や火を熾す唸りのような音がそこかしこから聞こえ、周囲には熱気と独特の匂いが立ち込める。


 しばらく進むと、とある簡素な建物の前で歩を止める。

 小ぢんまりとりしたそこは一見すると倉庫の様な佇まいであり、開け放たれた大きい入り口からはその中が覗き見れる。

 何か細かい調整をしていたのだろう、一人の痩せぎすな初老の男性が真剣な面持ちで機械と顔を突き合わせていた。


「…ん?おぉ、マギアちゃんか。…これはまた、今回は派手にやったなぁ…」


 皺がれた声が名前を呼ぶ。こちらに気付いた男性、エドワードは苦笑いを浮かべていた。


「おいおい。そんな怪我してたら、ザックに怒鳴られるぞ」

「そうなのかも、しれませんね」


 いつも通りの平板な返答に少しだけ肩を落としながら息を吐く。


「…とりあえず、こっちに来な。どんなか見てみよう」


 作業を中断し立ち上がると、片足を引き摺る様にしながら彼は建物の奥に向かう。エドワードに続くように、通りよりいくらか薄暗い工房に歩を進めた。

 決して綺麗とは言えない何に使うか分からない機材で雑然とした店内を行くと、その先には大きな卵型の装置がひっそりと佇んでいた。人が一人すっぽりと納まる程度の大きさの、様々な太さのケーブルが繋がれた機械仕掛けの椅子が中に見える。


「ほい、いつも通りだ。ここに座れ」


 ぽんぽんと、エドワードは装置の縁を叩く。

 彼の横を通り過ぎ椅子に座ると、身体を預けもたれかかる。すっぽりと包まれるような、懐かしいような感覚。


「…おい、おいおい!お前さん、左肩ぐずぐずになってるじゃないか…」


 袖口の衣類は僅かに残っていた為、なかなか気付けなかった様だ。


「はぁぁぁ…なぁ、他の部位は大丈夫か?ちょっと開けさせて貰うぞ」


 眉を顰めながらエドワードが手を伸ばす。

 鎖骨の下辺り、服の上から探るように指で何度かなぞると、ぐぅっと親指を押し込む。音も無く肩回りの皮膚装甲が剥がれる様に開くと、その下に無骨な鈍色の機械の塊が姿を現す。


「お前さんは五階層だったよな。…こいつか」


 細く節ばった指で浮いた皮膚装甲をほんの少し動かすと、その下のプラグの差し込み口が電球の明かりを僅かに反照する。天井から垂れ下がる幾つかのケーブルの中から一本を手に取り差し込むと、モニタを睨め付ける。


「…お前、その腕以外にもどっかやらかしてないか?」


 視線を外す事無く、険しい表情のままエドは尋ねる。


「…恐らく脇腹辺り、でしょうか」


 腕を無くして以来、確認が出来ていないので定かでは無いが。何かあるとすれば、という確信はあった。ちらりと左の脇腹を見遣る。


 腹ァ?と怪訝な顔で答えたエドがその視線を辿る。


「…ちょいと見るぞ」


 一言断りを入れてからエドワードが私の服をたくし上げると、皮膚装甲が蜘蛛の巣の様にひび割れ内部機構が露わになった脇腹がそこにはあった。彼の前で小さな皮膚片が数枚、音も無く崩れ落ちて見せる。

 呆気に取られた彼の目は丸く見開かれていた。


「…こりゃお前、だいぶかかるぞ…?全く、本当ザックのとこの娘さんは…」


 苦笑いしながら、彼は私の座る機械仕掛けの椅子に手をかける。ゆっくりと椅子と共に視界が倒れていくと、天井の電球と向き合う様にしてぴたりと止まった。


「いつも言ってるけどな。まぁやりたい事もあるんだろうし、難しいのかもだけど…お前さん、出来るだけ無茶はすんなよ。あいつもお前さんが怪我するのは望んでないはずだぞ」


 この忠告も何度目か。見下ろすようにして、エドは柔らかい声で言い聞かせるように話しかける。


 ──ザック。

 マギアの記憶にあるご主人(マスター)の名であり、ご主人(ザック)とエドは知り合いだった。だからこそエドワードは残された彼女を心配し、親切心から声をかけてくれている。それは理解している。


「…はい、ありがとうございます」


 迷宮に行かなくてはならない気がする、という不確かな衝動に突き動かされている私は、恐らくこれからも迷宮に潜り続けるのだろう。

 そうであれば当然、今後も機体を損傷して帰ってくることもあるだろう。その度に、これからも彼の手を煩わせてしまうのかもしれない。それは容易に想像出来たことだ。

 だからこそ。その心遣いに応えることが出来ない申し訳なさは、常に付き纏っていた。


「おぅ、出来るだけそうしてくれ」


 相槌が聞こえると、ずるずると足を引き摺る音が頭頂部側に向かう。


「さて…準備は良いか?開頭すんぞ?」


 無言でこくりと頷き返すと、目を瞑る。


「個体名B05-02-W-0029。開頭」


 彼の声が聞こえると同時に。

 後頭部に軽い衝撃を感じ、意識は暗い暗い闇に落ちていった。

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