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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
3章
25/138

3-5

 ●対象  守護者(ガーディアン) セス=クィン

 開始時刻 11:06


 職員が質疑を行う前に、対象からの申し出有り。


 対象:「…大体は仲間の出した報告書の通りです。皆の判断には落ち度は無かったと、思います。あの状況では、退避する事は出来なかったと思うので。…あの、皆まだ落ち込んでいると思うんで、そっとしておいてやれませんか?あんまり頭が回る方じゃあないけど、俺に分かることは何でも答えるんで…」


 職員:状況次第と返答。


 対象:「まぁ、そうですよね。…うん、まぁそうだ」


 職員:報告書を音読。内容に誤りが無いか確認。


 対象:「(短い沈黙)間違い、無いです。…何よりも、俺がちゃんと守ってやれなかったのが原因だと、思っています。俺の力不足が、直接の原因です」


 職員:精神状態の乱れを確認、一時中断。その後再度必要事項を確認、完了した為終了とする。


 終了時刻 12:29

 ──鏖殺し、排除しなくては。


 視界を覆う土煙が晴れると、侵入者が逃げ込んだであろう扉にゆるりと歩を進める。あれらが逃げ込んだ先に逃げ場は無い。

 後脚に力を込め、閉じられた扉へ力任せに背部の手を叩き付ける。何度も。何度も。何度も。何度も──


 僅かに出来た隙間に爪先を捻入れ無理矢理に抉じ開ける。不愉快な金属音を立てながら、扉向こうの空間が少しずつ顕わになっていく。

 通路と比べ幾らか薄暗い部屋の中に慎重に体を滑り込ませると、そこには機械人形が一体。湧出する光の玉の中、部屋中央のメンテナンスポッドの前に不自然に待ち構えていた。

 入り口から見る限りでは背後のポッドは稼動していない様に見受けられる。蓋は開け放たれているが、中に侵入者が潜んでいる可能性はあるだろう。


「…こんにちわ。再びお目にかかれて光栄です」


 唯一姿を見せている機械人形が深々と頭を下げ、慇懃無礼な対応をして見せる。


 ──ちら、と。

 頭を下げた拍子に、その背後に何かが見えた。最奥の壁面に不細工に開けられた小さな穴が一つ。黒々とした薄闇を覗かせていた。


 コイツは目的は何なのか。罠か囮か。

 前衛の一人は潰した。意図は不明だが、目前の機械人形の動作するであろう左腕も潰した。残るは三人、どこかにいる筈。周囲には既に機能を停止した機材が壁沿いにぐるりと設置してあり、所々物陰が出来ていることが分かる。

 そのどこかに隠れ、機を伺っているのか。


「……」


 互いに何も喋らず、瞬きもせず。無言で対峙し続ける。


 不自然でしかない目前の機械人形を注視する。

 先程まで身に着けていた外套は近くに乱雑に捨て置かれ、右腕を包んでいた白い布帯はポッドの横や床の上に乱雑に投げ捨てられている。


 顕わにされたアレは、錆び付いた右腕は──機能しているのだろうか?そも機体との規格すら合致していないように見受けられる。何かが装着されている訳でもないし、先程の一撃で潰した左腕には何も所持していない。とてもこの機械人形が何かを出来る様には見えない、が。


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 警戒しつつ一歩脚を前に踏み出すと、仄明るい室内にカツンと冷たい音が一つ響く。

 同時に機械人形の睫が微かに揺れるが周囲から他の侵入者が姿を現す様子は無い。


 もう一歩。

 こちらを注視し続けている機械人形はじわりと後ろに下がろうと身構えた。


 ──何かを打って出るつもりか。それとも、戦えぬ故に逃げる時間を稼ぐ為の囮か。


 先程僅かに見えた壁面の小さな穴。あれが分厚い岩石層を貫通し通路まで繋がっているのかは不明だが、万が一にあそこから退避が可能だとしたら。既にの侵入者が退避を完了していたとしたら──

 ここから一人でも逃がしてしまうことは許されない。自身の全てを以って、与えられた命を守らなければならない。


 食肉動物が獲物を前にする様に──バネを縮める様にぐぅっと後脚を折り畳む。警戒を継続しているものの、眼前の機械人形は変わらず突っ立っているだけだ。


 術師が一人いた。あれは距離を維持し近付くことは無い。

 盾持ちが一人いた。元より弱っていたが、あれの体力は削れている。体力が戻る前に押し込めるなら問題無い。

 遊撃に徹する軽戦士が一人いた。あれは距離を詰めるだろうが質量が足りない。あの程度の装備であれば掌で引き裂ける。


 順序が前後するだけで、結局は侵入者に与するこの人形も処理せねばならない。ならば。出来得る限り迅速に、策を弄する前に処理を完了するべきだろう。あまり時間をかけていられない。


 ──振り絞るように脚に力を込める。

 低く。低く。軋む音を立てる自身の身体を無理矢理に抑え付ける。何よりも、どの生物よりも。早く。早く。

 同時。襲撃を察知した人形がポッドの後ろに駆け出そうとする姿が見えた。その動きは哀れな程に鈍い。


 ──瞬間。限界まで蓄積された殺意が音も無く弾けた。

 岩石で出来た質量の塊は弾丸の様に射出され、周囲の景色は溶け後方へ流れていく。風を切る音を立てつつ急所へ狙いを定めるも間一髪、人形はポッドの裏側に躓く様に飛び込んでいた。


 ならば。

 そのままの勢いでポッドへ猛進、衝突する。部屋全体に耳を劈く轟音を反響させながら、装置は地面から僅かに浮き上がりグラリと傾いだ。施された意匠は無残にぐにゃりと押し潰され、装甲板も派手に歪み捲れ上がっていた。

 長年放置されて層となった埃がぶわりと煙のように立ち上がる。


 瞬時に体勢を整え距離を取ると、ポッドの端から覗く細く簡単に折れそうな指が跳ねる様に震えたのが目に入った。


 ──まだ何も仕掛けてこないのか?加勢すら無いのか?

 ならば。反対側から回り込むように──いや、ポッドを遮蔽にしつつ待ち構えている可能性は零ではない。殺すまでは慎重に。確実に。気を緩めてはならない。


 ──ポッドに前足を掛けると、身体を仰け反らせる。

 指が見えている以上は反対側に隠れている事は明白で。例え急所に刺さらずとも、身体に当たればこのポッド(がらくた)に磔に出来るのだ。人形を囮にするならそれでも十分であろう。


 フレイルを振り回し打ち付ける如く、尾の先に着いた掌を裏側に潜む人形の頭部に向け振り下ろす。尾が硝子製の蓋を割り砕き、先端の赤黒く脈打つ暴力の塊が弧を描き──ポッドの向こう側で甲高い音を響かせた。


 何も、動く音はしない。痛い程の静寂が訪れる。


 ──さて。

 念の為に逃げられないよう掌にぐっと力を込めて。軽い音を立てながらポッドをよじ登り、上から覗く様に裏側を見下ろす。

 そこにはポッドの縁に転がる切り離された左腕と、縫い付けられるように爪先で肩口を貫かれた機械人形の姿。そしてその足元に開けられた穴の中で潜む術師の姿があった。


 近付かせる為に、攻撃を予想して。左腕を切り離し、囮としていた。


 罠。策がある。

 確信する。爪を引き抜き即座に体勢を低くすると、ポッドから後方へ飛び退く為に脚を畳む──直後、ぐらりと世界が滑るように傾ぎ脚が空足を踏んだ。


 ──何が、起きた。状況が理解出来ず一寸思考が停止する。

 ゆっくりと世界が回る。落ちていく最中視界に入ったのは、今の今まで足場にしていたポッドが砂の山の様に崩れていく光景と。ちらりと、鉄砂の中に覗く数枚の白い紙切れだった。


 地面が遠い。不味い、不味い!不味い!!不味い!!!!どうにか、せねば──

 警鐘を発する精神と相反する様に緩やかに中空を落下する最中、何かが弾ける音が鳴った。


「…っ、が、あぁぁぁぁっ!!」


 部屋の隅、物陰からこちらに一直線に迫る一筋の青白い光。

 弾丸の様に、稲光めいた異常な速度で駆け寄る小柄な男と交差する瞬間。光の軌跡を描く鈍器がその勢いのまま尾にめり込み、張り詰め──引き千切る。


 激痛と共に切り離された掌が宙を舞う。飛び出した男はそのままの勢いで転がるように無様に壁に激突していた。


 ──今は、とにかく離れなければ。

 無様な格好を晒してでもとにかく戦う為に。刺し違えてでも、とにかく一匹でも殺す為に。

 着地の瞬間に動かなければ。このまま勢いを殺す事無く、転がる様に。


 迫る地面に集中する。乱雑に置かれていた白い布帯の山に脚先が触れた瞬間、ありったけの力を込め脚を伸ばした──筈、だった。地面を踏み締めた感触は無く、代わりに脚は空を切るように地面にするりと布帯ごと吸い込まれていった。


 ポッドと同様に床が崩れ、穴に転がり落ちていく。

 掌で体を止めることも出来ず、二転三転させながら。上下も前後も、何もかも分からなくなるほど意識が掻き回される。

 数秒。不愉快な破壊音と世界の回転がようやく止んだ。


 ──どう、なった。我は落ちたのか。

 ばたばたと足掻く様にとにかく脚を動かし、地を踏み締め立ち上がる。見上げると。


 ──頭上。見下ろすように取り囲む侵入者たちが視界に入る。

 それと同時に。魔術式を展開させ、杖に刻まれた紋様を溢れんばかりに煌々とさせた術師が魔術を発動していた。


「死ねぇっ…もう、これで、死んでよぉ!!」


 悲鳴に近い叫び声と共に降り注ぐ稲光の柱に意識が白く染められる。魔術抵抗を無視しそのまま押し潰す程の大出力。衝撃と轟音にの暴力に蹂躙され体の自由が利かなくなる。


 ──これ は

 数分、あるいは数秒だったのかもしれない。

 強烈に打ち付けられ感覚を奪われるほどに降り注ぐ魔術がようやく止んだ。


 マナの干渉影響で、体はぴくりとも動かない。


 ──申し 訳あ りませ  ん


 最後に目に映ったものは。

 飛び降り、勢いのまま大盾を振り下ろす怒りに満ちた男の形相だった。

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