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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
3章
23/138

3-3

 ●対象 魔術師(メイジ) ウィルマ=エヴァンズ

 開始時刻 09:11


 開始前から対象には落ち着きの無い様子が確認されたが、定刻を超過した為開始とする。


 職員:報告書を音読。内容に誤りが無いか質疑を行う。


 対象:「…誰にも、落ち度は無かったと思うのだけれど。…ごめんなさい、まだあまり気分が優れなくて。帰ってきたばかりなのもあって、ちょっと疲れてて。…ねぇ、申し訳ないのだけど、これはすぐに答えなきゃいけないのかしら?」


 (沈黙)


 対象:「ごめんなさい、整理する時間を頂戴」


 酷く困惑している状態。以降無言のままとなる。精神状態を鑑みて一時終了とする。


 終了時刻 09:47

 ──戦闘終了後の小休憩中。


「お疲れ様、マギアさん。葡萄狩りは捗ってる?」


 瓦礫の山から眼核を採集していると、柔らかい笑顔を浮かべながらこちらを覗き込むウィルマと視線が絡む。ゴーレムの眼核は小さな球体が集合している様に見える為、その外見から"葡萄の房"とも言われており、眼核を目的に狩りを行うことを葡萄狩りと表現する冒険者達もいた。


「はい、お陰様で既に六個ほど収穫出来ていますよ」


 硝子細工の様にキラリと鋭く反照する緑色の水晶体を布に包むと、バックパックに大事に仕舞う。


「良かった、採集ありがとう。本当に助かってるわ。…それにしても、そんなに沢山荷物持ってて本当重くない?大丈夫?」


 ──彼女の目線の先には、上部や側面に皆の持ち替えの装備や予備の武器が括り付けられアンバランスな荷物の塊と変貌した私のバックパックがあった。


「はい、問題ありませんよ。何か他にも持つ物がありましたら仰ってください」

「あはは…貴女が大丈夫なら良いんだけど…女の子なんだから、無理しないでね?」


 ウィルマは苦笑いを浮かべる。

 自身のような民生用の機械人形でも、同体格の人間の女性より出力はあるようで。この程度の荷物であれば稼動には何も支障無かった。


「それにしても…機械人形って何の為に作られたんだろうねぇ。マギアさんは覚えてる?」


 ウィルマがちらり、と見遣った先には金属の扉のような物があった。


 ──錆び付いた、金属の二枚扉。俗に「人形部屋」と呼ばれる場所。

 迷宮内で機械人形が発見される場所は、総じてこのような金属製の扉の先だった。


 何故迷宮の中にそんな物があるのか。なぜ機械人形が迷宮に放置されているのか。何の目的で機械人形は製造されていたのか。

 誰も答えは分からないが、それらは共通して"錆び付き朽ち果てた、既に役割を終えた場所"にいつも放置されているようだった。


「…申し訳ありません、私も分かりかねます」

「あぁ、いやいや謝らないで!よくある話題の一つというか…聞いて分かるなら、とっくに迷宮の謎も解決しちゃってるだろうし…!」


 彼女は慌てる様にわたわたと手を振る。答えを求めて聞いた訳ではない、ということは分かっているのだが。


「…実際、私には分からないことが多いのです。覚えていないことの方が多い、と言う方が正しいのかもしれませんが」

「…それって、どういう…」

「おぉい、二人とも!そろそろ出発するぞ!」


 ──セスの野太い声が遮る。

 武器の手入れをしながら男性陣は進行の相談していた様子だったが、その話が纏まったのだろう。


「あぁもう、いいタイミングで…もう行かなきゃ。ねぇ?さっきの話、気になるから良ければまたいつか聞かせてね?」


 ウィルマは立ち上がると、こちらに手を差し伸べる。


「はい、また機会があれば」


 彼女のスラリとした細い手を取り立ち上がると、いつもより重くなったバックパックを背負い直した。


 ───

 ──


 順調に進行を続けてしばらく。

 十字路の手前で全員が静かに息を潜めていた。曲がり角の先には目的の場所がある。


「…うわ、なんだこれ…行かないほうが良い。凄い数いるよ」


 角にしゃがみこみ、小さい鏡を使い先を覗き込んでいたティルが辟易した顔で声を上げる。


「報告書にあったのと同じ様なのがいるな。デカいのもチビもごっちゃごちゃだ…」

「そうか…サイズが異なる物が多数発生している、ということなら前回の通りだね」


 報告を受けたアルマンが呟く。

 他のパーティにも共有しておこう、と呟きつつアルマンは腰の円盤石に手を置き連絡を試み始めたその時。ティルの身体がビクリと跳ねる。


「…っ、ちょっと待て、動き出した!?」


 "なんでこの距離で…!"と呟きつつ、彼は焦るように手を振って後退を促す。


「…退路で巡回型と挟撃されるのは避けないといけない、ひとまず後退しながら、近付いて来るのがいたらそれは捌こう」


 眉を顰めたアルマンが円盤石から手を離すと、ソレは急速に光を失った。連絡は間に合わなかったのだろうか。

 ティルの言う通り、重く鈍い音が曲がり角の向こうから徐々に近付いてくるのが分かる。サイズに差があるせいか、音は不規則に届いてくる。


「チビから先に来る!気を付けろよ!」

「おう!あんがとな!」


 すれ違いざまにセスに共有するとティルが退路の先頭に向かう。先程同様に陣形を組むと、それを維持しながらの後退が始まった。

 数秒もかからず曲がり角から姿を現した巨岩の魔物たちは、迷い無く一直線にこちらに歩を進める。


「来るぞ!注意!」


 アルマンの指示が飛ぶ。じりじりと後退しながらの戦闘が始まった。


 ──穿ち、崩し、砕く。壊し続ける。魔物の進行は捌けてはいた。いたのだが。


 皆が、じわりじわりと気付き始める。何かが、おかしい。ゴーレムと会敵してかれこれ二十分近く経過しただろうか。後退を続け、目的の地点からは随分離れた。にも関わらず一向にゴーレムの追撃が止まらない。


 絶え間なく進行を続ける巨岩が、崩れ落ちた岩が、土埃を巻き上げ視界を濁らせる。

 大小様々なサイズが混じるソレらはそれぞれの速度も間合い違う。注意すべき範囲も負担の量も増え、皆の顔には戸惑いと疲労の色が見え始めていた。


「くっそ…まだ続くのか…!」

「セス、無理はするな!…何か変だ、変更して全力で引こう!」


 セスの装備には目に見えて歪みや欠け、傷が増えている。殺到する質量の暴力を受け続けているのだ、長期戦は不利である。決壊は避けなければならない。


「…一度押し込む、下がってくれ!」


 ──息を深く吐き出し、集中を高めていく。

 アルマンの握る槌の紋様が一際明るく煌くと、(かしら)を囲むように中空に小さな魔術式が展開される。キィン、と脈打つ様に高く澄んだ音を立てる得物を力強く握り締めると、少しの静寂の後に横薙ぎに力強く振り抜いた。


 一閃。中空に一文字の残光が描かれ空気が裂かれると同時に、眼前のゴーレム数体の胴下、脚が一気に破砕され派手に土煙を巻き上げた。


「アルマン!貴方も退いて!」


 アルマンの真横から飛び出すように。土埃で殆ど見えない空間に、追撃の水刃の魔術が放たれる。


「…っ、助かる!皆走れ!」


 崩れ落ちる大きな音とアルマンの合図を受けて、皆が一斉に走り出した。


 ───

 ──


 走り続けながら、アルマンはこめかみに手を当てつつ眉を顰めていた。


「おい。アルマン、大丈夫か?」

「あぁ…大丈夫。問題無いよ、セス。魔力振動の拡張開放は流石に消費がデカくってね」


 手にした槌の頭をコンと叩く。継続戦闘の消耗と、最後の全力の一薙ぎが消費が大きかったのだろう。精一杯の笑顔で返すも疲労が隠せていない。


「…どっちも無理はしないでよ?アルマンもセスも、いっつも我慢するんだから」


 魔術式を展開する為には相応に集中が必要になる訳だが、走り通しで離脱した時から治癒が行えていない。傷の度合いが気になるウィルマがそわそわとしながら二人を心配する。


 ──その横で。

 ずっと押し黙っていたティルが"なぁ"と切り出す。全員の視線を集めた彼はしかめ面をしながら口を開いた。


「…僕ら以外の足音が、ずっと離れてない気がする」


 一気に場の空気が緊張を帯びる。

 アルマンが手を上げると一斉に脚を止める。上がった息を必死に整えつつ耳を澄ませると、遠くに先程嫌と言うほど耳にした重低音が混じっている事に全員が気が付いた。


「…マジかよ…アイツらおかしいんじゃないか?」


 セスが顔を引きつらせる。


「…索敵範囲が広いは奇種特有のものかもしれない。皆には申し訳ないけど、休憩はせずに合流地点までこのまま移動しよう」


 アルマンがそう口にしながら円盤石に手を当てる。先程からもう何度か通信を試みているようだが、芳しくないのか険しい表情を浮かべていた。


「ま、そうなるよね。…セス、鎧でランニング頑張ろうぜ?」


 意地悪そうな笑みを浮かべたティルが、肩を落とすセスの鎧をコンコンと軽く叩く。


「申し訳ない、大変だろうけど…セス、もう一踏ん張り頼むよ。ティルはいつ追撃があるか分からないから念のため殿を。敵が視認出来次第すぐ教えてくれ。先頭は…うん、代わりに私が行くよ」


 "頼んだよ"と短い返事を交わしつつ皆がアルマンの指示通りの位置につくと、すぐに動き出す。 もう少しで進行した道程の半分を過ぎる辺りだろうか。


 ──目前には十字路。

 後ろから響く足音は未だに離れない、一定の距離を保っているのだろうか。そのまま直進、通り過ぎようと差し掛かった時だった。

 先頭を行くアルマンの視界の端に、ちらと何かの像が映る。


 ──左側の通路。そこには、通路を埋め尽くす多量の巨岩の魔物が音も立てず潜んでいた。


「な…?!」


 距離は目前。アルマンを察知すると同時に、その巨大な腕が振り上げられる。


「アルマン!!」


 セスの一際大きな声と、破裂するような金属音が鳴り響いた。

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