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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
3章
22/138

3-2

 本項 調査概要追記


 本件において、第四階層部分へ割り当てられ調査を行った一党は五つである事を確認しております。また本項の補足といたしまして、先んじて質疑を行った際の仔細を取り纏めております為、併せて報告いたします。

 当該の一党の構成は、下記の通りです。


 戦士(ウォリアー)  アルマン=ダウズウエル※1


 守護者(ガーディアン) セス=クィン

 軽戦士(スカーミッシャー) ティル=ギースベルト

 魔術師(メイジ) ウィルマ=エヴァンズ

 同行者(機械人形) マギア


 以上五名。

 第四階層。

 この中階層を境に、迷宮内に人の手が加えられた痕跡が顕著に現れる。


 ここに至る迄の表層部と様相は一変し、植生は無く壁面には均一に削り取られた様な様子が見て取れる。

 階層を走る通路は碁盤の目の様に規則正しく、またそこには敷き詰められるように乾いた細かい砂が堆積していた。

 足先で撫でる様に砂を掻き分けると、金属を擦る硬質な音と共に錆色の床が姿を現す。意図は定かでは無いが、この階層の地表には所々に直線的な継ぎ接ぎが存在する。


 また表層と異なるのは階層内の明るさ、光源にも見て取れる。

 地面から絶えず湧き出てくる蛍のような灯りの珠が、階層内を一定に照らしているのだ。


 ──湧き上がる光の珠に手を伸ばす。

 それは重力に逆らう様にゆらゆらと浮遊すると、私の身体を透過しては中空に霧散していく。光が生まれている、と言えば幻想的なのだろうか。ここを初めて訪れた訳では無いが、何度見ても不思議な光景だと感じる。


「ふぅ…お待たせお待たせ」


 微笑を浮かべたアルマンが手を振りつつこちらに戻ってくる。

 散開前に今一度、各一党のリーダーが最終的な擦り合わせを行っていたのだが無事終わった様だった。


「皆、消耗した物資の補充は完了したかい?準備が整ったら改めて教えてくれ。…セス?準備は順調かい?」


 取り外し携行していた装備に身を包むと、真剣な面持ちで几帳面に確認を続けている大男にアルマンが声をかける。


「…ん?おぉ、スマンスマン。いつもの癖でなぁ…どうにも、何度か確認しないと落ち着かなくてね」


 自身の癖に自覚はあるのだろう、セスはバツが悪そうにしながら太く節くれ立った指でガシガシと頭を掻いた。


「いや、セスがしっかりしてくれるお陰で安心して戦えるんだ。いつもありがたいよ。そのまま進めてくれ」


 アルマンの言う通り、会敵すれば"守護者(ガーディアン)"である彼が率先して前に出て己が身一つで魔物とぶつかり合うのだ。自身の装備に神経質になるのは尤もだろう。


「はは、そう言ってくれると頑張り甲斐もあるってもんだ。しっかり守ってやるから任せとけ!…ん?なぁおい、ティルの方は準備は終わってんのか?」


 壁に身体を預け、退屈そうに欠伸をする少年に声をかける。

 セスと比べると幾分身軽な装備に身を包んだ小柄な少年──ティルは呆れた様な表情を浮かべた。


「僕はとっくに準備出来てるよ。いつも通りセスが一番遅いんだから、さっさとしなよ?」


 この一党で一番歳若いであろう彼が皮肉気に返すと、いつもの事の様に"へいへい"と笑いながらセスが受け流す。

 私の傍らでその様子を眺めていたウィルマは苦笑いしていた。


「あの二人はほんと変わらないんだから…あぁ、ティルはまぁちょっと口が悪いけど気にしないでね…?マギアさんは準備、大丈夫?何かあったら遠慮しないで教えてね?」


 杖を手にニコリと笑いかける彼女の表情は、随分と落ち着いて見えた。


「はい。問題ありません。お気遣いありがとうございます、ウィルマ様」


 ──皆の様子を笑顔で眺めていたアルマンは一呼吸置くと、"さて、皆"と口を開く。


「それじゃ、そのまま手を止めず聞いてくれ。今回私たちが調査を任されたのは西側の遠い方、六ヶ月程前に奇種の発生が観測された場所だね」


 視線が集まった事を確認しながら、アルマンは依頼書に記載のあった事項や先程の取り決め等を簡潔に述べていく。


「…最期に。大丈夫だとは思うけど、重要な事だからこれだけは再度共有するよ。今回は調査依頼だから必ずしも戦闘を行う必要は無い。状況の確認が最優先であって、討伐は必ずしも行う必要は無いってことだ」


 他に質問は?と締めくくると、一人一人の目を見て確認していく。


「…うん。それじゃあ、今回も精一杯頑張ろうか」


 自信に満ちた、凛とした輝くような眼がそこにあった。


 ―――

 ――


「頼んだ」

「応」


 目的地点まで半分程度進行した頃、警戒しつつ先頭を歩いていたティルが短く呟いた。

 それと同時に入れ替わるようにしながら、魔術回路の施された大盾を構えたセスが前に出た。


 ──見通しの良い一本道。

 私たちが向かうべきその先から、こちらに向かって来る太い手足をした直立二足歩行を行う岩石の塊が姿を現す。


 その姿は四階層に見られる岩石の魔物(ゴーレム)と相違無かった。視認出来る限りでは、ゴーレムには異常は見られない。通常種とされる個体の様に見受けられた。


「…とりあえず、異常は無さそうかな。いつも通り油断せず行こう」


 一歩後ろから様子を伺っていたアルマンが大槌を構えると、セスの横に並ぶ。


「右は抑える。アルマン、左から削れ」

「了解。ティルは周囲警戒とスイッチ準備、ウィルマは叩き込める様に準備を」


 アルマンが短く指示を出す間にも互いの距離は詰まっていくと──

 全身を震わせる程の派手な金属の接触音が、開戦の合図の様に周囲に反響した。接触すると同時に大盾に魔力を通わせ、磨り潰す様にセスがゴーレムに圧力をかける。


「…っぐ…ぉぉお…!!」


 這う様に姿勢を低くし、歯を食いしばる。太い四肢を隆起させ全身全霊でセスは巨岩の行進を押し止めていた。


 ──見れば分かる通り、ゴーレムとは岩石の塊である。

 質量は人間のそれを優に超え、存在そのもの身体の全てが凶器となる。ゴーレムからすれば、手足を振り回すだけで十分。身体の一部が当たりさえすればそれだけで相手に致命傷を与えられるのだ。

 斥力の魔術回路が施された大盾を用いても、細心の注意を払いつつ脅威の塊を抑え付けるのは並大抵のことではない。


「やるぞ!」


 ──姿勢を低く、低く。

 風切り音を立てながら振り抜かれるゴーレムの腕を掻い潜り、アルマンは一閃槌を振り抜く。

 手にした得物を振るう度に槌の(かしら)に施された紋様が中空に残光を描く。彼が振るうソレは、マナを通すことで威力の増大だけでなく魔力振動を伝えることが出来る魔具としての性質も備えている特殊な武器であった。

 空気まで割くような轟音を立てながら振り抜かれた大槌に、目前のゴーレムは派手な音と土煙を立たせながら打ち崩れた。


「セス、下がって!」

「…っ、頼んだ!」


 ウィルマの合図に合わせ攻撃を凌いでいたセスがバックステップで距離を取る。

 杖を構えていた彼女が水刃の魔術(アクアエッジ)を発動させると同時に、ほんの今までセスが居た場所に二つの円状の水刃が疾走し──抑え付けていた巨岩を左右から瞬時に両断した。


「ティル、スイッチ!」

「分かってる」


 ──ウィルマが切り崩して出来た僅かな空間。

 ティルがすかさずそこに割り込むと、先程まで動いていた岩石の山の上で器用にメイスを手に立ち回る。

 彼が手にするメイスもアルマンと同様の物のようだ。小振りである為にそれだけでゴーレムを撃破するには心許ないものではあるが、腕部関節や脚部など的確に要点を砕くことで脅威を削いでいく。


治癒(ヒール)は必要?無理はしないでね?」


 ウィルマは一旦後退したセスが大きな傷を負っていないか、頭の先から注視する。


「これくらいならまだまだ大丈夫だ。ティル!それが終わったらスイッチだ!」

「はいよ!頼んだよ、オッサン!」


 ──実に慣れた手際で、彼らはゴーレムを捌いていく。


 会敵から数分。ドズン、と最後の一体が鈍重な音を立て地面に崩れ落ちた。

 半身を砕かれまともに動くことすら出来くなった巨岩の魔物は、それでも動こうと不愉快な音を立てながら足掻いている。

 未だ蠢く魔物に一息ついたセスが歩み寄ると、大盾を押し当てる。


「すまんな」


 小さく呟くと、ぐぅっと押し潰す様に体重をかけ全身で圧力をかける。

 ──ガキン、と砕ける乾いた音が響いた。

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