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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
2章
19/138

2-10

「くあぁ…おはようさん」


 店内に高窓の形に切り取られた朝陽が差し込む頃、大きな欠伸をしながらレイシアが奥から姿を表した。


「おはようございます、レイシア」


 掃き掃除の手を止め、彼女に視線を移す。

 結局、彼女はあれから随分遅くまで今回用いた工具や装具ベルト、外套等々の洗浄を手伝ってくれた。眠た気にしているのも無理はないだろう。


「あぁふ…んーで、結局炎の欠片はどうなった?清算はいつ頃だ?」


 立て続けに出そうになる欠伸を噛み殺しながらふらふらとカウンターに近付くと、どかっと椅子に腰を落とす。


「先程終了しましたよ。収集品は等分ですので、私の分は全てレイシアが好きに扱って頂いて結構です」

「ん、おぉ…もう終わっとったのか。随分早かったな」


 彼女の言う通り、来店も早ければ取引の完了も早かった。


 ───

 ──


 空の端が白み始めた、まだ浮かぶ月がくっきりと見える時分。赤髪の青年が一人、来店を知らせる鈴を鳴らしていた。


「おはようございます。…すみません、早かったですか?」

「いえ、そのような事はありません。いらっしゃいませ、ロルフ様」


 その返事に偽りは無く、本当にいつでも問題は無かった。

 ここが自身の家でもあるし、休息が必要ない為に迷宮にいる時以外は店舗部分にいるのだ。


 彼を招き入れると早速清算が始まったのだが、話の(かた)は早々に付いた。

 昨夜の事だが、どうやら姉弟の間で"折角なので収集品の売買も自分達で経験してみたい"という話が出たらしく。早朝にここを訪れたのも、この後に一早く露店や商店を見て回り相場を調べる為…だったらしいのだが、肝心の姉は起きれなかった様で。

 先に自分だけでまとめて清算を済ませに来た、と小さな溜め息混じりに伝えられた。


 等分に取り分けていた収集品を包み、取り扱いの説明と共に手渡す。時間にすれば、二十分程度のことだった。


「本当にありがとうございました。…俺、もっと強くなれるように頑張ります。またよろしくお願いします」


 ロルフは丁寧に頭を下げると、賑わう大通りに向け駆け出していった。


 ───

 ──


「ほぉん…まぁ終わったなら何より。そんじゃ、お前の分は全部買取るよ。ちょいとばかし、工房借りるぞぉ」


 ぐうっと猫のように背伸びをすると、レイシアはよっこいしょと零しながら席を立つ。

 水薬の作製に取り掛かるのだろう。気を使う作業の為、一度取り掛かると邪魔されるのを極端に嫌う。

 作業を終える頃には朝食とも昼食とも言えない時間になるだろうが、その間に彼女の食事を準備して待つことにした。


 出来るだけ静かに工房を横切ると、その一つ奥にある小さな炊事場に場所を移す。

 さて。ある物で何が作れるか──思案していると、ここまで機材やガラス容器、薬皿の触れ合う小さな音が聞こえてくる。


 規則正しく、澄んだ音。

 私には出来ない事であり、彼女が得意な事。


 私が集めてきた物を用いて、彼女が異なるものに作り上げる音。


 清浄で、繊細で。それは囁きの様で。

 この音を聞いていると、なんだか穏やかになるような気がして。

 きっと、これを心地良いと言うのだろう。


 目を閉じ、静かに耳を澄ませていた。


 ───

 ──


「ふぃー無事完成!さすがワシ、天才製造者(クリエイター)よなぁ」


 工房に篭って数時間後、満面の笑みのレイシアがそこにいた。

 まるでプレゼントを貰った幼子の様に純粋な笑顔を浮かべるこの少女が、蜂蜜酒で酔い潰れ朝帰りしているとは誰も想像がつかないだろう。


「結構多めに作れたもんでな。いつも卸しとるより多めに置いとくぞ。分け前はいつも通りで良いからの」


 カウンターの端、一番目立つ場所に出来たばかりの水薬をカチャカチャと並べ始める。


「んで…相談なんだが、幾つかはあたしが買い取っても良いか?そんなに量は要らんのだが、こっちの知り合いにも欲しがっとる奴がおっての」

「えぇ、問題ないですよ」


 ありがとな、と白い歯を見せながら礼を言うと机上のペンスタンドに手を伸ばす。


「値段は、そうさなぁ…流石に吹っかけ過ぎか。いや今ならこのくらいでも…」


 ──レイシアは真剣な顔をして、一人ぶつぶつと呟きながら値札に数字を書き込んでいく。

 平常時より二割程度高めの数字が見えたのは気のせいでは無いだろう。それでも、今街中に並ぶ物より良心的な価格ではあるが。


「…おし。こんなもんじゃろ。まぁまた直ぐに顔を出すよ。それじゃあ、食事にしようか」


 工房に備え付けられた、丸型の採光窓の下。

 小さな机が一つ、壁に寄り添うように置かれている。機材の代わりに一輪挿しだけが載せられているそこは、この部屋の中で唯一小奇麗に整えられた場所である。

 その上に、一つ一つ料理を並べていく。外は綺麗に晴れているのだろう。差し込む陽光が静かにスープの上で眩しく揺れた。

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