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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
2章
12/138

2-3

 揺れる赤髪が、まるで燃える炎の様だった。

 薄闇の中でくっきりと浮かび照らされるその姿はとても力強くて──


 それが二人に最初に抱いた印象だった。


「…すみません。少々伺いたいことがあるのですが…」


 迷宮内部で採集を行っていた最中。

 申し訳なさそうにしながら、遠巻きにこちらの様子を伺っていた真面目そうな少年が話しかけてきたのを今でも覚えている。

 目的とする収集品が同一の物であったことから、その特性など諸々を聞かれそのまま行動を共にしたのが始まりで。それ以降も精力的に依頼をこなしているのか、広大な迷宮内部でこの姉弟とは何度か顔を合わせる機会があり、少しずつ友好関係を築くに至っていた。


 ──姉ヴィルジニアと、弟のロルフ。

 二人は1ヶ月程前から迷宮の街(クリム・フィロア)を訪れた冒険者で、その時はまだある程度経験を積んだ初級冒険者(ノービス)だったと覚えている。聖職者(クレリック)剣士(フェンサー)に昇格した、と嬉しそうに報告してくれたのがほんの数日前の事だったか。


迷宮(ここ)って見たこと無い物ばっかり。ホント面白いよねぇ」


 何事にも興味津々の姉は、いつも愉快そうに弟を引っ張るようにして収集依頼の受注をしていた様子だった。同様に、彼女は興味の移り変わりも速いので、大抵の採集はロルフがやっていたと記憶しているが。

 明朗快活で、弟の先を歩きたがる聖職者のヴィルジニア。黙々と自身の役割をこなしながらも、姉に振り回されがちな剣士のロルフ。

 今回の二階層迄の道程は、この二人に同行することとなった。


 ────

 ───


 申請を済ませると三人はギルドの二階部分、依頼の打ち合わせに貸し出される小部屋に場所を移していた。


「またマギアさんと一緒で嬉しいよー、今回もよろしくね!」


 部屋に入るなり頭一つ程身長の低い彼女がすっと近付く。左手を握ると満足そうに顔を綻ばせ、仲の良い幼子がする様に大袈裟に手を揺らす。その様子を後ろで見ていたロルフは呆れたように嗜める。


「…姉さん、いきなり失礼だよ」

「えぇ?そんなことないよ…?最近あたしよりちょっと背が高くなったからって大人ぶっちゃって。可愛くなくなったよねぇ」


 ──この姉弟の見慣れた光景。

 その身なりや格好は出会った頃のそれとは幾分変わってしまったが。このやり取りはきっと、これからも変わらないのだろう。


「…さぁ、そろそろ一緒に依頼の打ち合わせをしましょう」


 出来るだけ優しく手を引き、そのままヴィルジニアを腰掛に誘導する。ロルフは何も言わず、一歩遅れて静かに姉の隣に腰かけた。


 私も二人の対面にゆっくりと腰を下ろすと、今回の探索について話始める。共有する事柄はいくつかあるが、まずは目的と行程を擦り合せる必要があった。


 既に依頼書には記載はあったが、目的地は第二階層。目標は"炎の欠片"を採集する事である。

 第二階層での収集依頼ともなると、一日で行程全てを終えるには少々厳しい距離となる。しかしながら、第二階層はあまり長居に適している環境でもない。そうなると自然、第一階層で一夜を過ごす事となる。


 ──それを前提として知っていれば、多少は動きがイメージし易くなるだろう。

 迷宮内で一夜を過ごすのも、第二階層への侵入も初めてとなる二人には必要なことである。


 それを済ませると、次に携行する物資の確認。

 消耗品、燃料、水脈石の欠片。糧食は勿論、収集に使用する魔具──それから"階層の特徴に合わせた対策物品"の共有である。


「最後に、ですが。今回は第二階層を広く探索いたしますので、防汚対策と衛生用品の携行が必須となります。それこそ、我々の様な機械人形(マシンナリー)には最低限で充分ではありますが…人間の方であれば、ある程度の量が必要になります」

「…二人なのに、そんなに沢山必要になるんですか?」


 今まで静かに聞いていたロルフが、かすかに眉をひそめつつ疑問を口に出す。隣の姉はおとなしく座っている事に少し飽きて来ている様子だ。


「はい、それなりの量があった方が安全です。…第二階層には、洞穴鼠(ケイヴラット)が"多々"おりますので」


 ラット。

 その名称を耳にした途端、彼は"あぁ…"と小さく息を吐き出した。

 ほんの少しだけ表情が曇った、かもしれない。おおよその想像が付いたのだろうが、この一党(パーティ)で前に出て戦うことになるのは勿論彼だ。


「私も出来る限りの準備をして参りますので…どうかよろしくお願い致します」

「あぁ、いえ…大丈夫です。こちらこそ、よろしくお願いします」


 ──互いに軽く頭を下げる。

 さて。これで打ち合わせは一通り済んだ、となれば。


「…それでは、私はこれから必要となる物資を露店で調達して参りますが…お二人も一緒にいかがですか?」


 二人が顔を見合わせると、表情がパッと明るくなる。


「是非!」


 ──姉弟の返答は、ぴったりと息が合っていた。

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