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朝の薄明かりが照らす街はいつもより忙しく歩く人が多かった。レイシアの言っていた通り、こんな早朝でも既にそこかしこで取引が行われている様だ。
前の日が終わりきっていないのか、まだ次の日が始まりきっていないのか。朝と夜の境が曖昧になった様な雰囲気の中、私はギルドの扉を開けた。
──やはり、ギルドの中も若干人足が多い。受付に歩を向けると、カウンターの中にいつもの明るい金色の髪が揺れているのが見えた。
「おはようございます。ヤコさん」
職員の女性──ヤコが手元の分厚い書類束から顔を上げる。
「…ぁ、マギアさん。おはようございます~」
迷宮に関する何かがあれば真っ先に忙しくなるのがギルドだ。
いつもの様に明るく出迎えてくれているがやはり多忙なのだろう、彼女の顔には疲労の色が濃く見える。
「マギアさんも、収集依頼ですか?それとも同行に?」
彼女の口ぶりからしても、今は収集依頼が多いことが伺える。
「今回は"同行依頼"です。最終目的地は二階層、"炎の欠片"の採集が目的です」
ヤコから依頼申請の書類を受け取ると、申請用紙を埋めていく。
収集依頼は当然現地で多量の収集品を集めることとなるのだが、付き纏う問題が一つ。それは積荷の管理だ。
迷宮に潜るとなれば魔物と会敵するのは必然となる。当然そうなれば武具が要るが、使えば磨耗もするし損壊してしまう場合もあるだろう。手入れの用具や修繕、期間や向かう場所次第では持ち替えや予備の準備も必須となる。
薄暗い迷宮内、明かりを灯すにも燃料が要る。治癒魔術にも行使出来る回数に限度がある、消耗品の水薬の類も大事だろう。探索に期間がかかるのなら勿論糧食だって欠かせない。
それら探索に必要な積荷に加え、現地で採集した収集品を保管し持ち帰らなければならない。
──収集依頼は、荷物管理との戦いとも言い換えられる。
そこで"同行"という役回りが必要となる。ざっくり言ってしまえば移動する倉庫である。
攻略を行う冒険者達の嵩張る荷物や道中の収集品を一手に引き受けるのだ。階層を跨ぐ程に必須となる役割であり、同行者の積める荷の量で運行や収益が左右されると言っても過言では無い。
「…書き終わりました?それでは、こちらでいただきますねぇ」
ヤコは受け取った申請書の確認と併行しつつ、同行依頼書への転記を手際よく済ませていく。ものの数分で完成させ早速掲示板に貼り出すと、近場にいた数人が早速それに反応を示していた。
「ふふ、やっぱりマギアさん人気ですねぇ」
掲示板から足早にヤコが横に戻ってくると、なぜか彼女の方が誇らしげにその光景を見守る。
「…人気、ですか。そうであれば良いのですが」
──同行依頼に付き纏うまた別の問題。
信用問題である。収集品や消耗品を一手に取り扱うという特性を悪用してそれらに手をつける者も少なからず存在し、トラブルとなる事例は決して無くならない。その為、安心して荷を預けられる同行依頼者は自然と冒険者の中で共有されやすいのだ。
また今は、少しでも多く収集品を持ち帰りたいタイミングでもある。
同行だけでなく収集品の採集にもある程度熟達する"マギア"という女性が注目を集めるのは当然だった。
「あ、これ!これ見て!マギアさん出てる!」
──遠巻きに様子を伺っていると、掲示板の方から聞き覚えのある声が響く。
しばらくして人だかりを掻き分けながら姿を現したのは、何度か侵入を共にした面識のある姉弟だった。
聖職者の少女と剣士の青年。あの子達なら問題ないだろう。その手には先程のヤコが張り出した依頼書がしっかりと握られていた。
──さて。何を、どれだけ持っていくべきか。
早速積荷の思考を張り巡らせつつ、手を振りながら向かってくる二人に一歩を踏み出した。




