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鉄塊のマギア  作者: 佐倉。
2章
10/138

2-1

どこまでいけるのか

どこまでいけばいいのか

どこまでつづいているのか


いつ おわってしまうのか

 ──澄んだ空気。

 朝の明るみが滲むように広がる中。とある店で伸びやかな大声が響いた。


「おぉー!マギアー、起きとるかー!」


 収集品雑貨店兼回収品取引所。声のした店の名前を「マテリア・コレクティオ」という。

 今しがた大声で呼ばれた碧色の髪をした店主、機械人形(マシンナリー)のマギアは静かに顔を上げた。


「…聞こえています、レイシア。またお酒を飲んで来たのですか?」

「んーちょいと違う、今も飲んどるぞ」


 けらけらと笑いつつ、頭を揺らしながら少女が店に入ってくる。来客を待つ間、待機状態(スリープモード)となっていたため少々遅れてマギアが顔を上げる。


 ──肩まで届く黒い髪。側頭部の片側で結んだそれが、着用している魔法使い然とした黒いローブと共にゆらゆらと揺れている。

 見た目は10代後半辺りだろうか、小柄な彼女は余計幼く見える。…のだが、その手には少女に似つかわしくない蜂蜜酒(ミード)の入った瓶が握られている。いつものことではあるのだが、また夜通し飲んで来たのだろうか。


「レイシア、飲み過ぎです。水を取って参ります、少々お待ち下さい」

「失礼な、言うてそんな飲んでないわい」


 店の奥。工房に備え付けてある水道からコップに水を注ぎ戻ると、彼女に手渡す。


「どうやら七階層の入り口が見付かったらしいからの。こんな朝っぱらでも通りの露店が賑わっとってなぁ、コイツも売っとったんよ」


 礼を言い受け取った水を一気に飲み干すと、背もたれに全身を預ける様にだらしなく椅子に座る。手にした瓶をしっかり抱えたまま、レイシアは機嫌良さ気に語り出した。


「んーで、さっきの話の続きだけど。探索隊が七階層ちょこーっと覗いて来たらしいんだけども、異様な位に寒かったらしくての」


 彼女の目は既に開いていない。いつそのまま寝てしまうとも分からない様子に見えるが、とつとつと語り続ける。


「とてもじゃないが、現状の手持ちのまま行軍すんのは無理ってことで一旦引き返してきたらしい」


 そこで、と彼女は眠そうな目を半分開けこちらに向ける。


「こりゃ稼ぎ時だぞ、と。なぁマギア、"耐凍(レジストアイス)の水薬"の素材を取ってくると良い。どうせ店に卸してた分は売り切れとるじゃろ?」


 力の抜けた眠そうな顔で喋ってはいるが、まだ多少頭は回ってはいる様だ。

 レイシアの言う通り、昨日の間に店にあった水薬やら素材やらは根こそぎ購入されていた。今、店には在庫も関わる素材の備蓄も一切が無かった。


 今回階層入り口を発見した一党は三十名以上で編成されていた。

 潜入から帰還まで一ヶ月近く時間はかかるだろう、当然一度迷宮に足を踏み入れれば途中で物資を補給する事は難しくなる。深層ともなれば尚の事だ。

 自然、持ち込むべき物資は多くなる。あれやこれやと用意する事になるので、街から大量に物資が消えるだろう。そしてそれは目指す他一党にも同じことが言える訳で。

 ──今、街は次階層発見の特需で沸いているのだ。


 いつの間にか体を起こしていたレイシアは蜂蜜酒を舐める様に口に含みつつ、鼻歌交じりにペンを走らせている。


「ベースになるクラニアやらは一階層、炎の欠片は二階層で採れるじゃろ。青晶片は…前に安く買い叩いた在庫が家に多少あった筈じゃからそっちはまぁ良い。今回は急ぎだしの、中階層のそこいらは手持ちで間に合わせよう」


 つらつらと必要な素材と、買取金額を書き出していく。必要となる素材だけでなく産地までよく頭に入っているものだと関心する。


「…前々から思っていましたが、レイシアは迷宮に詳しいですね」

「まぁ天才で凄腕の製造者(クリエイター)じゃし。その上勤勉でもあるからの」


 自慢げに、大袈裟に胸を張ってみせる。確かに彼女の作る水薬の質は評判が良かった。

 魔具の製作はマナを消費する"スキル"を使用する為、どうしても術者によって効能に多少のブレが出てしまう。

 その為、当然良品質のものを安定して作れる製造者は人気となる訳で。彼女の名はそれなりに知れ渡っていた。


「…さぁて。お膳立ては済んだし、あとは寝て待っとくかの」


 猫背でのそのそと店を出て行こうとする今回の提案の主に、一言問いかけてみる。


「レイシア。…分かってはいますが、貴女は行かないのですか」


 ──何度か投げかけた事のある質問。

 彼女は博識で且つ戦闘が行える魔術師(メイジ)だ。彼女が一緒に潜ってくれるのなら、この上なく心強い。今迄の誘いは全てお断りされてきたのだが。


「んなもんわざわざ言わなくとも分かるだろう?今なら同じこと考えて誰かと一緒に調達しに行きたがっとるやつが多いじゃろ。そいつらと行って来い」


 ──まぁ、想定済みの返答である。

 "くれぐれも気を付けろよ"と念を押すと、ひらひらと手を振りつつ少女は店を出て行った。


「…ふぅ」


 事実。彼女の言う通り、店の在庫が切れているのは問題ではある。遅かれ早かれ調達に行かないといけないのは確かだった。


 マギアは一つ、大きく息をつく。

 ギルドへ向かうため、いつもより少し賑やかな早朝の街へ踏み出した。

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