勇者じゃなくて最弱スライムだった。
僕の名は佐々木タクミ、29歳、生まれてこのかた彼女なし。
パン工場でひたすらケーキに苺を乗せるという地味な仕事をしている。
趣味はドライブだが、この前、鹿と衝突して車が大破した。
この歳になってくると遊んでくれる友達も少なくなってくる。
みな、結婚していくからである。
そんな僕は、友達を作りたくて、様々なイベントに参加している。
ドライブ好きのオフ会や河川敷でのバーベキュー大会、花見の婚活パーティーなどだ。
だが、中々気の合う友達が見つからない、僕の一体どこがダメなのか?やっぱりあれかな?
圧倒的、コミュニケーション能力の低さ!
どの集まりに言っても、自分から話すことなんてほとんどないし、話しても真面目な事しか言えないので面白くないのだろう。
更に年下にも敬語を使ってしまう。
そう、タクミは根っからの真面目人間だったのだ。
だが、自分を変えたいといつも思っていた。
自分の人生にレベルがあるとしたらレベル1だろうと、、
よし、明日から行動するぞ!
まずは、髪型を変えて、筋トレも始めよう。
タクミはそう決心して、布団を被って眠る。
次の日。
よく寝た。よく寝た。
さぁ今日から頑張るぞ!
タクミは目が覚めたようだ。
あれ?ここは?
タクミは辺りを見渡した。
そこは、とても殺風景な草原だった。
しかし、周りにある木が物凄く大きく感じた。いや、実際に大きい、近くにある岩も、草っ原も体が隠れるほどに。
なんでこんなにでっかいんだ!
いや、周りがでかいんじゃない!!
僕が小さくなったんだ。
あれ?手がない。足がない。声が出せない。色が青い。弾力がある。
僕はスライムになってるーー!
タクミは青ざめた。
もう、青いのだが。
ど、どうしたらいいのだ。
ス、スライムだと、、
スライムとは、最弱のモンスター、経験値上げにうってつけのモンスターという認識しかない。
しかし異世界とやらにやってきたわけだから、何かしなら特異的な能力を身につけてる可能性もある。
なんだ、右下にボタンがあるぞ!
これを押すとどうなる?
タクミの視界の右下にボタンがあり、それを押すように念じてみた。
お、押せたぞ!
なんだこれは、自分のステータスが見れるのか!
どれどれ、僕はスライムでレア度は星1つでレベルも1か、、技は体当たりだけか。
これは、終わったか。
人間の時でも大した人生を送っていないというのにスライムになってしまって大したことのない異世界生活を送るんだろうな〜
不安しかなかった。
「スライムがいたぞ!」
誰かの声がした。
これは、助けてくれる可能性が、、
〝ゴォォォォ〟
炎の攻撃魔法だ!
魔導師の攻撃だった。
アチアチアチアチ
スライムはHPが0になった。
終わった。
短いスライム生だったな、役10分後。
目が開いた。
うん?ここは?
え、さっきいた場所か?
スライムはさっきいた場所にまた、立って?座って?とりあえずいた。
僕は炎の魔法でやれたらはずなのに。
ゲーム的な何度でもチャレンジ出来ますよっていうやつか?
「いたいた!経験値上げだ〜」
ソードマンが現れた。
くそ、こんどは戦ってみるか!
体当たりだ!
その時ソードマンが剣を振りかざした。
その剣はスライムにダメージを与えた。
くそ、やられた。
スライムのHpが0になった。
今度こそ終わったか?
僕のスライム生
スライムは目が開いた。
次は山のふもとにいた。
いったいどこなんだ。
「グルグルグルグル」
よだれを流してこちらを見てくるのは、餓狼だ。
怖い怖いぞ!
来るなー
来たー
やれたら。
その後も、ゴブリン、戦士、ドワーフにも続々とやられた。
はぁーこの終わりのない戦いは一体いつまで?全然勝てないし。
比較的弱いとされるゴブリンにさえ、3回棍棒みたいなのに叩かれて負けたし。
一体どういうシステムなんだ?
また、右下のボタンを押してみた。
ステータスのほとんどが最初と変わらない。
しかし、1つだけ新しく追加になっている項目があった。
倒された回数6回
という項目だ。
なぜ、倒された回数を数えられているのだろうか。
規定回数とかあるのだろうか?
疑問はたくさんあったが、とりあえす負け続けた。
そこから3ヶ月経った。
勇者にも負けたし、雑魚キャラにもたくさん負けた。
しかし、思った。
他のスライムにはまだ、会っていない。
倒された回数は136回とかなり倒されているが、未だにスライムだけにはあった事がなかった。
スライムはもしやと思ってしまった。
この異世界のスライムは僕だけか?
だとしたら、経験値を稼がせる為に、ゲームに必要なスライムを登場させているのかもしれない。
となると僕は倒される為だけに存在するスライムなんだ。
なんと悲しい結末であろうか。
悲しさに溢れていたスライム。
しかし、そんな時でも勝負は始まる。
ウサギの亜人の女の子が勝負を挑んできた。
まだ、修行中の様で、木の枝で戦っていた。
何度か木の枝で叩かれたが、これならまだ持ち堪えられるぞ!
今までで1番いい勝負をしている。
亜人の振りかざした枝を避け、体当たりを決める。
ここで一気に追い詰めるぞ!
スライムはまた体当たりだ!
これしか使えないのである。
亜人も懸命に木の枝で突撃する。
お互いの攻撃が当たった。
やられた、、
ピタン。
倒れたのはスライムだった。
また、負けた。
スライムは目の前が真っ暗に、、
「スライムさん倒しちゃってごめんね。そして経験値ありがとう。スライムさんからもらった経験値できっと強くなるから」
亜人の子はそう言った。
スライムはその声を聞きながら目を閉じた。
そして再び目が開いた時には、スライムは笑っていた。
嬉しかった。
この世界で僕は経験値を稼がせるだけの負け組みたいな存在だけども、たった1人しかいない存在。
弱い冒険者やモンスターにとっては唯一倒せるのがこの僕、スライムである。
負け続けのスライム生だけど、この生き方で何か変えてみせる。いつかきっと。
感謝してくれる人もいる。
だから、今日も僕は胸を張って負け続ける。
勇者じゃなくて最弱スライムだった。