勇者じゃなくて門兵だった。
俺の名は、工藤正樹、25歳。フリーで仕事をしている。
何をしてるかって?
パソコンを片手に仕事をしている。
いわゆるITっていうやつだな。将来は、IT社長になって、引退したアイドルと結婚するという華々しい未来も待っている事だろう。
フリーなので、朝起きる時間は自由だ。
大体は、10時くらいに起床して、ブランチを食べながら報道番組を見る。
12時過ぎ頃から、パソコンを片手に家を飛び出し、歩く事5分程で着くカフェに入る。
いつも座るのは、角の席、ここから見えるカエデの木が風に揺れると高校時代の淡い夏の思い出が蘇る。
俺がいつも頼むのは、カプチーノ、このカプチーノの苦味が頭にツーンと走って目が冴え、仕事がはかどる。
これが日課になっているので、カフェの店員とも顔見知りだ。
カフェが空いてる時は、50代で白い髭が似合うダンディな男である店主がベイクドチーズケーキをサービスしてくれる。
これが、程よい甘さでまた美味い。
大体夕方くらいまでカフェで仕事して、それから家に帰る。
家に帰って、夕食を済ましてから好きなアイドルのライブDVDを鑑賞して1日を終える。
そして、今日は休みにしたので趣味であるフットサルをしに行き、汗を流す。
普段座って仕事をする事が多いので体を動かすと気持ちいいものだ。
フリーなのでいつ休むかも自由。
普段ならこのまま、家に帰ってシャワーを浴びるのだが、今日は温泉へと寄り道、なぜかって?な今日は気分がいいからだ。
なぜなら、ハットトリックを決めたからだ。
さぁ最近、近所にできたという温泉、そのドアを開けて店内に入って行く。
その瞬間白いモヤが正樹を包む。
なんだ?火事か??
モヤが収まって来た。
すると、あれ?
なんで外にいるんだ?ここはどこだ?先の見えない山道が広がっている。
しかも、俺の服なんか重いぞ。
なんだこれは!!
体に鎧をまとい、手には槍を持っている!
「おい、なに騒いでるんだ?」
正樹は隣を向いた。
だ、誰だ?同じく鎧をまとい、槍を持った男は!
「えっと俺は一体?ここはどこですか?」
「あー?なに言ってんだよ。ここは、Different world kingdom 通称〝DWK〟俺たちは国の入り口の門兵だろ」
雅は隣の男に聞いてみると、予想もしない答えが返ってきた。
お、俺は異世界に来てしまったのか!
アイドルと結婚するという夢が、、
しかも、門兵って、、
おそらく、冒険には出ず、通行人を国へ入れるかどうかの判断をするだけ人じゃないか。
しかし、そんな現実は嫌だった。
よし、ここから逃げてみるかな。
隣の門兵が見ていない隙を見計らって、後ろの門から国に入ってやる。
今だ!
正樹は門へと走った。
すると、急に足が止まり、字幕が下に入った。
〝だめだ。まだやる事があるのでここを離れる訳にはいかない〟
なんだ、この字幕は!
もしかしてゲームとかで進んではいけない場所へと進もうとすると出てくる注意みたいなやつか。
まだ、この場所でやる事があるから先に進めないというアナウンスだ!!
なら真っ直ぐ山道へと進んでみるか!
正樹は真っ直ぐに進むことにした。
よし、今だ!!
〝だめだ。まだやる事があるのでここを離れる訳にはいかない〟
同じ字幕が出た。
くそ、俺は門の前で一生を終えるのか、、
諦めていたその時だ。
「ただいま戻りました」
門の前にやってきたのは、王の命で隣の国まで行っていた王の側近の者だった。
「これは、これは、お疲れ様でした」
そういうと門兵の男は、ごまを擦りながら、門を開けて王の側近を通した。
なんだ、ペコペコしやがって、さぞかし偉い身分の人なんだとは思うけどもさ。
側近の男が過ぎると
「ちょいとトイレに行ってくるから少し頼んだよ」
門兵の男はトイレに向かった。
なんだトイレに行くことはできるのか、でトイレってどこだ。
そういうと木の陰にある穴みたいなところへ向かっていった。
まさか、あれが、、、
正樹は目をそらした。
その時、
「ズシャ、バタバタバタバタバタバタ」
馬に荷台をつけて男が乗っている。
男は、門の前まで到達した。
「通してくれ!」
「はい、はい、はいどうぞ」
雅は男を通した。
男が通っていくと、門兵の男がトイレから戻ってきた。
「変わりなかったか?」
「1人の馬に荷台を引かせた男が来ましたよ」
正樹はさっきあったことを教えた。
すると門兵の男は
「へー珍しいな。どっかの行商人かな?」
「いや、わからないですね」
正樹はそう答えた、当然だ。
この世界に来たばかりなのだから、会う人全員知らない人なのだから。
「え、通行証見たらわかるしょ」
門兵の男がそう言った。
「え、通行証?」
正樹はそれが何か知らなかった。
「おいおい、もしかして通行証確認してないの!?」
「なんですかそれ?してないですよ」
門兵の男は真っ青な顔をした。
通行証は、国々を移動する際にその国の門兵に見せて、身分を確認したり、国へ来た目的などがわかりやすく書いてある物だ。
「おいおい、変なやつじゃないだろうな」
門兵の男は焦っている。
すると20分後
「ギィー」
門の中の方から門が開いて来た。
「おい!なぜこんなやつを通した!?」
そう言って現れたのは、王直属の兵士が現れた。
その兵士の隣には、先程、正樹が通してしまった男が縄で縛られている。
この男は、闇の行商人であったのだ。
そうとは知らず正樹は通してしまい、兵士に物凄く怒られた。
それと同時に、〝門番ランクがGに下がった〟と表記された。
え、門番ランクってなんだ?
「その名の通り、門番の質をランクにしてるんだよ!門番ランクが高いほど給料も高くなるし、王からの信頼も厚くなる。ちなみに俺は門番ランクFだ」
あまり、変わらなかった。
こうして1日が終わった。
目の前が暗くなった。
「コケコッコー」
1日目のストーリーが終わったかの様に目の前が勝手に暗くなり、気づいたら朝になっていて、門の前にいるというゲーム的展開が起きていた。
これってここしか俺は入れないのか?
正樹はもうこの現状を受け入れるしかなかった。
こうなったら、門番ランクを高めてやろう!!
そう意気込んだ正樹は、次々と通行証を確認していく。
行商人、旅の踊り子、狩人、さすらいの旅人、国々を回る占い師と数々の人を通行させた。
そして、ついに門番ランクBまでやって来たのだ。
そんな時
「通してもらえますか?」
やって来たのは、勇者とその仲間の魔導師だった。
「では、通行証はありますか?」
正樹はこのセリフが板について来た。
「通行証??ないんですけど」
まさかの勇者は通行証がなかった。
「なら通せないですよ」
正樹はちゃんとルールを守った。
「困ったな、王に呼ばれて来たんですよ」
そんな嘘見たいな事言っても騙されないぞと思ったが、門の中から門が開けられた。
また、王直属の兵士だ、今度は何しに来たんだ。
「これは、これは勇者様方ではないですか。お待ちしてました。どうぞ」
と、まさかの最初は決まりだから通行証ないと通れないけども、実は国の上層部からの命で勇者を呼び寄せており、その事情は門兵は知らないから通させない様にするけども後から国の上層部の者が現れて、門兵という仕事をしている人を差し置いて普通の兵士が門を開けて中に通すという、ゲーム的な展開に見舞われた。
正樹はなんか、悔しくなった。
それでも、また、頑張り出す。
その悔しさがあってのことか、1年後には、門兵ランクAまで上り詰めた。
なんか?ゲーム変わってない?門番王は君だ!みたいなゲームになってるよね。
だが、もうそんなことは気にしない。
正樹は、まさかのITから門兵になるという真逆のような仕事に就いた。
しかし、正樹はこの門番の仕事に少し誇りも持っていた。
思ったのだ、どんな仕事でも全力でやることに意味があると。
勇者じゃなくて門兵だった。
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