大人の女
吸血鬼っていると思う?
実はね、ある牧師館に吸血鬼がいる。
しかも、そいつは表向きは牧師館で牧師をやっているの。
牧師のくせに吸血鬼。
しかも、そいつは私の養父ときたもんだ。
私は、秋と冬の変わり目の季節に牧師館の軒下に捨てられていた。
所謂、捨て子という奴だ。
13歳のときに今の育ての両親が事故で亡くなって、それ以来、吸血鬼の凱に育てられている。
彼がヴァンパイヤだって知ったのは意外に最近。
15歳の誕生日に彼の口から聞いた。
「ねぇ、なんで15歳の誕生日だったの?」
私は不思議に思って彼に訊いてみた。
ちょっと、気になっていたのよね。
わざわざ15歳の誕生日を選んで、秘密を話してくれたんだから何か意味があるのかなぁって。
「う~ん、そろそろ大人になる頃からなぁと思って。」
「大人――――――」
私はちょっとうれしくなった。
今、私は17歳。
凱は25歳で、私よりも8歳も年上。
いつも子ども扱いされて、悲しい思いもいっぱいした。
だから認めてもらえているのだってわかってうれしかった。
「だけど、年の割には――――――胡桃ちゃんは子どもっぽいけどね。」
「なっ」
「う~ん、年齢とともに大人になれるわけじゃないからね。」
彼のとぼけた口調に、私の怒りが爆発した。
「私は子どもじゃないっ!!!」
怒鳴った私に、凱は目を丸くしている。
私を侮辱したんだってわからないの?
「胡桃ちゃんが――――――大人だって言うの?」
「そう!もう大人なんだからっ!ちゃんと大人扱いしてよっ!」
私が叫ぶと、凱は目を細めた。
「でも、僕が君を大人扱いしたら――――――君は怖がると思うけど――――――」
「えっ?」
時々、凱は私にわからないことをつぶやく。
「まだ子どもでもいいんじゃない。」
凱は私にしがみついてきた。
私に言わせれば、凱の方がよっぽど子どもっぽいと思うの。
猫みたいにじゃれ付いてきたりするのはいつだって、凱の方でしょう?
「もう少しだけ――――――」
凱が耳元でささやいた。
「えっ」って聞き返したら、彼の笑顔が飛び込んできた。
「もう少しだけ、見逃してあげるよ。」
彼の言葉の真意がわからない。
だけど、なんだかそれ以上聞いちゃいけない気がして、私も口を閉じた。
「どうしたの?」
急におとなしくなった私に、凱が理由を聞いてきた。
素直に気持ちを告げたら、彼は「ははっ」と声を上げて笑った。
「なんだ、本能的に自衛できるんだね。」
彼の目がきらっと光った。
今日の彼は少しだけ――――――少しだけ、怖かったりした。
でも、私のほうが大人なのよ?
甘える彼をなだめるのはいつも、私なんだから。
今に見てなさいっ!
「あっ」というほど、素敵な大人の女になってやるんだからっ!