彼の弱点
古屋胡桃は、牧師館の前に捨てられていた捨て子。
私を拾ってくれたのが、船沢一家だった。
代々牧師館で牧師している一家に拾われたというわけ。
で、今牧師館の牧師をしているのが私の13歳からの育ての親である凱。
彼は実は、吸血鬼。ヴァンパイヤって奴なの。
本でしか見たことがないヴァンパイヤが実在するなんて最初は私だってびっくりした。
だけど、凱は容赦のない食欲旺盛な奴で、彼がヴァンパイヤだって知って呆然としている私の首筋に噛み付いてきた。
おいしそうに喉を鳴らして私の血を飲み干した凱は、にこっと笑って「信じてもらえる?」って訊いた。
ってか、私の血を飲んでおいて「言う言葉はそれかいっ!」って感じ。
まぁ、信じざるえない状況にはなったわけだけど。
それ以来、2年間。
私は凱に血を与え続けている。
言ってみれば、ボランティア?
ある日、私はふと思った。
「ねぇ、凱って弱点あるの?」
凱は父親が生粋の人間。母親が吸血鬼のハーフなの。
だからか聖水にも強いし、十字架も怖くない。
日の光にも少しもおびえたりしない。
もちろん、心臓を杭で刺しても灰にはならないらしい。
――――――やってみたことはないけどね。
彼が言うには、身体は血を吸う以外は人間と変わらないらしい。
傷つけば痛いし、血が出てくるし、死んでしまうんだって。
「弱点って?」
黒い牧師用の服を着た彼がひょいっと振り返った。
教会を掃除中だったから、彼の頭には白い三角頭巾がくっついている。
なんかちっとも似合っていない。
「だって、十字架もにんにくも平気でしょう?だったら、何が弱点なのかなぁって」
「だから、僕は人間と一緒だって。刺されれば痛いし、死んじゃうよ?……人間の弱点と一緒だって。」
「ふ~ん」
私はつまらなくて、気のない返事をした。
だって、こいつだけの弱点とか聞いてみたいじゃない?
ヴァンパイヤなんだから、何かあると思ったのに。
「まぁ、僕にも一応弱点はあるんだけど――――――」
彼が言葉を濁した。
「えっ?!あるの?」
私は身を乗り出して、彼を見つめた。
きらきらした私の瞳を受けて、彼が見つめ返してきた。
「僕の弱点はね――――――」
そこで言葉を切って、じっと私を見つめてくる。
しばらくして、彼は息をついた。
「わからないかなぁ」
――――――意味不明な言葉を残して、黙ってしまう。
「ちょっと、言いかけてやめないでよっ!ちゃんと教えてよ。」
「君が自分で気づくのを待っているんだよ?」
「えっ?」
私が訊きかえそうとしたときには、凱は鼻歌を歌って掃除を再開していた。
もう、いっつも肝心なことははぐらかしちゃうんだからっ。
でも絶対にいつか、彼の弱点を見つけてやるからっ!
見ててよねっ?