禁断症状
「ねぇ、血をちょうだい?」
昼間から近づいてきて、猫なで声でささやいてくる。
「もぉ、だめだって!最近、貧血気味なんだもん。凱のせいだよ。」
私は頬を膨らました。
私の親代わりをしてくれているこの男、船沢 凱にはちょっとした秘密がある。
それは彼が、ヴァンパイヤだってこと。
ヴァンパイヤって知っているわよね?
血を吸う化け物、いわゆる吸血鬼ってやつ。
そんな男が養父だなんて信じられる?
「えぇ~、でもヒモジイよ。ちょっとでもいいからさぁ」
凱は私より8歳年上で、25歳。
もう大人も大人なのよ?それが、この子どもっぽいしぐさ。
すねたように唇を尖らせている。
「だから、私が貧血気味なんだって!!」
「胡桃ちゃぁんっ~~」
泣きそうな顔を見せて、いじけて身体を縮めている。
「本当はさぁ、成分抽出もできないわけじゃないんだけど――――――」
「成分抽出?それって、献血でやるやつ?血の中から成分だけを抽出するってやつでしょう?」
確か一度、血を抜いて成分を抽出したあと、抜いた血を身体にもどしてくれるってやつよね。
昔、献血でやったわ。
今はこの食欲旺盛なヴァンパイヤに血を抜かれて、献血どころじゃないけど。
「うん。献血と同じような仕組みで成分抽出はできるんだ。だけど、血を戻すのがマウストゥマウスになるんだよね」
まうすとぅまうす?
つまり、口から口にってこと?
「やっ、やだっ!」
私はとっさに声を上げた。
「だって、口の中に血が広がるじゃんっ!鉄の味がするからやだぁっ!」
怒鳴ったら、凱はきょとんとした顔をした。
「そ、そっか」
彼はうつむいて、肩を震わせている。
「どうしたの?そんなに血が欲しいの?」
禁断症状ってやつ?
奴は血が不足すると、死んじゃうらしい。
もう、仕方ないわね。
「少しだけだよ?」
首筋を見せて、「いいよ」と彼に告げた。
彼はうつむいたまま、私にも聞こえない声で小さくつぶやいた。
「本当にまだ子どもなんだから」
妖艶な顔でふふっと笑った凱。
私が彼の顔を覗き上げたときには、いつもの表情に戻っていた。
だから、私はまだ気がつかない。
私はまだまだ、こいつのことを何もわかっていなかったのかも――――――