名預けの儀式
二人分の大声が私の部屋から聞こえた瞬間、やっちまった、と素直に思った
とりあえず過去最大を記録する速さで部屋に戻って扉を閉めた
遅れて心配して駆けつけてくれたメイドのメアリや執事のキースには何でもないと誤魔化して、互いに違った意味で私を見てる二人に向き合った
リーヤは滅多に見ない無表情で私にどういうことか説明しろ……と言わんばかりの視線を向けてくる、正直、普段にこにこへらへらしてる奴が無表情になると、普通に怖い
風の妖精ことシルクはどうしようと言わんばかりであまりに困惑してるのか姿隠しすら使わず私を見ている……いや、そこは姿隠しで隠れたらどうかな?うん、まぁ仕方ないし私にも非はあるから深くは言わないけど
「……リリス、これ、どういうことや」
「……あー、リーヤ、誤解しないでね、その風の妖精は、捕らえたりしてるわけじゃなくてあくまで保護し____」
「…………妖精は、俺らからしたら小さい体しとるけど、年は重ねるんや」
「て、え?」
うん、そりゃ妖精だって生きてるから年取るのは当たり前だよね
私達人間からすれば体のサイズこそ小さいけど、年功序列ってそこらへん大事だと思う
「……こいつは見たところ、俺らと同じかちぃと上位の年齢や」
「そうなの?ていうか、リーヤよくわかったね」
「本に載っとった……ってそうやない!」
「?リーヤが何言いたいのかイマイチわからないんだけど……」
首を傾げてそう言うとリーヤは更に不機嫌そうに頬を膨らませて地団駄を踏んだ
いや、そんな顔されても私も意味わからん
「リリスは年頃の女の子や!」
「男な子に見えるなら医者呼ぶけど」
「年頃の女の子が、例え妖精だろうと男と同衾したらあかん!!!」
「どう……いや、……何言ってるの……」
「男はみんな狼や」
キリッ、じゃないよばかなのリーヤさん
ていうかこの歳で同衾とか知ってるって……あぁいやまぁ日本と違って結婚できる年齢とかも違うし、貴族とかだったらこの歳で許婚がいるのも珍しくないけど…
なんか、こう……言葉にできないショックが私を襲ってるよ……
リリスは無防備や、俺がどんなに苦労しとると思っとる……などなど、リーヤから言われる言葉を軽く聞き流していると今まで当事者だったはずなのに蚊帳の外だったシルクが私の肩に飛び乗った
……まって、これやばい初めてだよかっわいい
「あーーーー!!??お前えぇかげんにせぇよ
……!リリスの部屋で一緒に寝とるだけでも許されへんのにくっそうらやま」
「……うるさい赤髪。ばーかばーか」
「……捻り潰すこのクソチビ……!はっ、関係に名前すらついとらんくせに」
「リーヤ苛めたらダメだよ」
でもリーヤがここまで人に嫌悪感……いや違うな、んー……犬猿の仲?みたいな態度取るのって珍しいなぁ
人見知りなのは相変わらずだけど良くも悪くも外面いいし……あー、私がいるからかな?
リーヤの言葉に頬を膨らませたシルクは鈍色の羽で私の顔の前に飛んできた
「ねぇ、君の名前はなぁに?」
「え?あれ、行ってなかったっけ……リリス・クルスフィアだよ?」
「……!!!お前ふざけっ」
「リリス、僕の名前は、シルク。属するのは風、僕の名前をリリスに預ける」
顔を青ざめたリーヤが止める前にシルクが言い切った途端、硝子が割れるような音と共に私の手の甲が一瞬火傷したみたいに熱くなった
熱くなったのはほんの一瞬だけで、咄嗟に手の甲を見れば其処には淡い緑色の風を表したような刻印があった
「これって……」
「名預けの儀式、所謂使い魔契約だよ。僕、リリスが大好きになった、だからずっと一緒にいたい。けど僕がリリスを守るためには、妖精じゃなくて、使い魔として、そばにいた方が色々と都合がいいんだ。……勝手にしちゃってごめん、けど、リリスが困るようなことは絶対しない!だから、ダメかな……」
例えるなら捨てられた子犬のような瞳で見上げてくるシルク……くっ、自分の可愛さわかってやってるよなこいつ……
……まぁ使い魔が居たところで実際困ることはないだろうし……リリスみたいな振る舞いしなければバッドエンドコースは避けられる、かな…?
頷けばシルクは嬉しそうに器用に空中で飛び跳ね、シルクがしようとしたことが使い魔契約と気づいていたらしいリーヤは色々と複雑そうな顔をしていた
きっとリーヤにも使い魔契約を結んでくれる妖精が現れるよ!っていって肩を叩いたら「そうやないばか!鈍感!」って怒られたなにゆえ
状況やら何から何まで違うけど、結局私はリリスと同じようにシルクと使い魔契約を結んでしまったらしい
うーん、これ、原作補正?みたいなので、ゲーム本編始まったら全部リセット改変される、とかないよね?流石に……
……なんか怖くなってきた、とりあえず何かしらあっても対処できるように魔法の特訓しとこ