妖精隠しと幼馴染の杞憂
【姿隠し】という特殊魔法がある
それは妖精たちが使える特有の魔法で、簡単に言えば透明人間になれる魔法だ
妖精たちは虹色がかった半透明の羽とそれぞれがその小さい体とは裏腹に魔法の結晶のような膨大な魔力を持っている
大昔妖精たちを人間たちが乱獲するという事件が起こって以降妖精たちは彼等の世界に篭るようになった
だが人間たちの世界に妖精たちが来ないのか、といえばそれも否
けれど妖精たちの姿は幻のように思われている
その理由が最初に戻って、【姿隠し】という特殊魔法
妖精たちしか使えない【姿隠し】の魔法は使えば魔力探知などを用いても決して存在を認識させない特殊で特別な魔法、同じ妖精たち以外には決して見えない
だから妖精たちがこちらの世界に来ても誰も妖精に気づかない
けれど【姿隠し】も魔法の一種であるのには変わらないから、魔法を使えないほどの大怪我を負った時とかは使えず妖精たちの姿は誰でも認識できる
実はリリスが風の妖精を使い魔にできたのも、私が傷だらけの風の妖精を見つけれたのもこれが理由だ
リリスはこの風の妖精を(無理矢理)使い魔にしたけれど私個人としてはそういうのは特に望んでいないから置いておく
風の妖精_______基、シルク
魔法ぶっ放してくれやがって再び寝て、もう一度起きた後、警戒を解いてくれたらしいシルクは私に名前を教えてくれた
シルクの怪我は結構深いものばかりで、正直言えばよくあの時魔法を使えたな、と驚くくらい
家族や使用人の人たちがそういう人じゃないってことは分かっているけど、念には念をという意味と、シルクは私には警戒を解いてくれたものの人間そのものはまだ信じきれてない(多分当然だとは思うけど)、という理由からシルクは私の部屋で匿う形で怪我の療養中である
シルクがいくら小さいとはいえご飯は当然食べる……というかその小さい体のどこに入るの?ってくらいご飯は食べる
だからシルク用のご飯を部屋に持って行ったり、それに怪我の治療の道具とかも買い込んだりしていたり、前以上に部屋に篭るようになった
当然家族やあの幼馴染が疑問や不信感を抱くのは当然だった、ということに、じっとりと私を見て説明してくれるよねと背後に文字を背負っているリーヤの視線でようやく気づいた
side : liya
リリスの様子がおかしい
それは俺も思ってたことやし、リリスの両親や使用人たちも思ってたことやった
リリスは俺の幼馴染で、一番好きな子
リリスは知らんし俺も言ってないし、今はそうでもないから気づくこともないやろうけど、生まれた時俺は所謂未熟児で体も弱かった
幸いにか父さんも母さんも普通の子供として育ててくれたんやけど、周りの貴族にそいつらのガキからしたら格好の的やった
元々読書が好きやったこともあって、家にこもり切って本ばっか読む俺を囃し立てる声は耳障りでしゃあなかった
貴族の男で本を読むはあんまし多くない、男は体を鍛えて〜的な考えからやろうけど、やからこそ俺は格好の的やった
でも父さんの友人の娘、と紹介されたリリスは良くも悪くも周りを気にせん性質やった
元々母さんを除いて、俺の周りにおった貴族の女っていうのはアホみたいに着飾って色眼鏡で周りに合わせて悪口言いまくる奴ばっかやったけど、リリスはそんなん気にせん奴で一緒におっても自然体でおれる、初めての友達やった
マイペースでめんどくさがりやのに、俺がべたべたひっつき回ったりしても「しょうがないなぁ」ってへにゃん、て笑ってくれる顔がすきで、気づかんうちに「好き」になっとった
父さんとか母さんからはもろバレみたいで生暖かい目で見られる位には俺の態度は丸わかりらしい、リリスは全く気づいとらんけどな
リリスに一番近いのは、リリスの両親を除いたら俺やと言えるくらいにはいっつも一緒におる
多分リリスの家自体があんまりパーティとかにでぇへんから、リリスの同年代の知り合いが俺以外にはおらんってのも大きいけど
伊達にいっつもひっつき回っとった訳やないから、リリスの様子がおかしいことにはすぐに気付いた
元々あんまし外に出たがる性質やなかったけど、それでも最近は家に、ていうよりも部屋に籠りきりやった
けどリリスになんかあったか?て聞いても当然やけど口を紡がれる
もし、それがリリスにとって「悪いこと」やったら、そう思ったらいてもたってもおられんかった
リリスの両親も誰もいないはずやのに話し声が聞こえるとか心配がって俺に何か知らんか度々聞いてきた
大義名分を得た俺はリリスに怒られる覚悟でリリスが部屋を開けた一瞬の隙をついて部屋に突入した
ごめんリリス……!女の子の部屋に無許可で入るなんか紳士やないけど、もしリリスになんかあったら俺は……!!
「リリス?何か忘れ物、か……」
びしり、と音を立てて空中で固まった虹色の羽をもつ『それ』
「…………………妖精?の、おとこ……?」
互いに見つめ合ったまま固まること数秒
俺とその妖精はおんなじタイミングで声をあげた