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第七話 番長、戦う

森に入って約一時間、周りの草を鑑定しながら歩き、ようやく依頼にあった薬草の一つを見つけた。

この薬草はどうやら光の当たり難い場所に群生するようだ。

さっそく草を毟ろうと手を伸ばす、そして気がついた。俺、袋持ってきてない。

早速の失敗だ。これじゃあ手で持って帰るだけの薬草しか採ることができない。


(ただ草を毟るだけだと思って油断した。)


しかしこういう時に慌てないのが真の男というものだろう。

布なら自分の着ている服があるのだ。

シャツを脱いで口を縛れば袋になる。そう考え、とりあえず薬草を毟ることにする。

ひたすら地味に草を毟る。そろそろ飽きてきた。番長はこういう地味な作業が苦手なのだ。


「全部採ると生えなくなるだろうからな。このぐらいにしておくか。」


あくまで環境の為である。決して飽きてきたからではないのだ。

そうして一息ついたとき、森がざわめいた。


「なんだ、このビリビリする感じは。どこかで戦っているのか?」


耳をすませる。空気の振動を肌で感じる。そして最後に直感を信じる。


「こっちだな。」


より森の深い場所へ入る。

帰り道の事を考え、棒で時々地面に線を引く。

そうして数分歩いた場所にそいつは居た。



体長3m程だろうか、全身は黒の体毛に覆われ、鋭い爪を地面に食い込ませている。

足は丸太のように太く、繰り出される一撃は人間の骨など一撃で粉砕するであろう。

大きく開いた口からは牙が覗いており、その眼は赤く輝いていた。

熊・・・だがやけに凶暴そうだ。眼が赤いのは魔獣化しているからだろうか。


そしてその熊魔獣の前には3人の人間が居た。

一人は金属製のフルプレートを着用し、ハルバードを前に突き出し牽制している戦士の男。

そしてその後ろに、盾と柄の半ばでへし折れた槍を持った同じく戦士風の女。

その女に肩を貸され、片足を引き摺っているレンジャー風の男。肩から大きく出血しており顔も青ざめている。


なるほど、負傷した仲間を守っているわけか。


戦士のハルバードが奔る。その速さは野生の獣の反応速度をも凌駕し、熊の眉間を穿たんとする。

だが熊はその巨体からは想像できない素早い動きで穂先を掻い潜る。

幾度か斧刃が顔をかすめ、穂先が首元に突き刺さる。

だが浅い、致命傷には程遠い。


ピッ


<魔獣グレイベア>

――――――――――――――――――――

野生動物グレイベアが野獣化した個体。

非常に獰猛で、耐久力が高い事で知られる。

――――――――――――――――――――


鑑定で魔獣ということが分かった。

耐久力が高いというのは先ほどからハルバードの穂先が刺さらない事からも窺える。

グレイベアの毛皮か表皮かそれとも筋肉なのは分からないが、刃物による刺突すらはじき返す。とてつもない硬さである。

このままでは遠からず奴らは全滅するであろう。



更に幾度目か、戦士のハルバードがグレイベアの身体を捉える。

だがそれは眉間を外れ、さらに喉元を僅かに反れ肩に突き刺さる。

野生の獣はこの一瞬を逃さなかった。

肩に突き刺さった瞬間、手前に引き戻そうとするより早く前足を振り上げハルバードを跳ね上げる。

勝敗は決した。


唯一の武器を跳ね上げられた戦士は次の一撃を防ぐ手段を持たない。

手こずらせてくれた相手に止めを刺す、グレイベアが血に飢えた本能に従い無慈悲な一撃を繰り出す、その瞬間。


―その時を待っていた男がいた。



(真正面からやり合うのは厳しいか)


そう判断した剛田は、気配を消し息を潜め風下の方向へ回りこむように移動していた。

奴らには怪我人がいる。長引けば長引くほど助かる見込みは薄くなる。

不意打ちによる一撃必殺。それが最善であると判断する。

そのためにはタイミングを見計らう必要がある。


グレイベアが周囲への警戒を怠る、そんな一瞬。

その一瞬を待ち気配を殺す。


疲労からだろう、戦士の息が乱れている。

刺突武器というのは些細なブレにより軌道が逸れるものだ。

いくら鍛え抜いた歴戦の戦士であろうとそれは変わらない。

機会はすぐに来る。そう確信し、静かにハンマーを背負い直す。


戦士がハルバードを突き出す。しかしそれは今までの鋭い突きとは違い、わずかに軌道がズレた。

戦士の顔に驚愕の表情が浮かぶ。それは己の死を悟ったのだろうか。


俺はここが勝負どころだと、グレイベアの真横から飛び込む。

グレイベアが本能に任せ、止めを刺そうとしたその一瞬、攻撃の瞬間に存在する僅かな隙。

それを今、手繰り寄せる。


この場に居る誰もが凍りつく中、俺は全身の筋力を使い振り下ろす。


「ぉおおおおおお!!!」


かつて誰も扱えなかった、そんな馬鹿げた鉄の塊のような武器を。


その、時が一瞬止まったかのような静寂の世界。

しかし、野生の本能は予想を上回る反応を見せた。

振り上げた前足を強引にハンマーとの軌道に割り込ませ、顔面を狙う凶器を受け止めた。


次の瞬間、赤い花が咲いた。

剛田の渾身の一撃はグレイベアの前脚をへし折り、その顔面に突き刺さった。

そしてその質量でもって頭蓋を砕き、内部を破壊しながら首元まで突き進む。

結果、まるで果物が弾けたように真紅の液体が飛び散った。


どう、と音を立てて倒れるグレイベア。そこに頭部は存在せず、既に肉の塊と成り果てていた。

不意打ちは卑怯?いいえ、喧嘩に卑怯は存在しません。

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