第四話 番長、冒険者になる
私の名前はアカリ。このフェルト村の冒険者ギルド出張所の受付員だ。
毎朝日が昇って朝ごはんを食べたらすぐに出張所に来る。
冒険者の朝は早いのだ。
そして職員は冒険者より早く準備をして依頼表を掲示板に貼り付けておかないといけない。
この出張所が出来てすぐの頃はほとんどいなかった冒険者だが、最近は少しだけ増えてきた。
この周辺は田舎の上に比較的強い魔獣が出没するので人気が無いのだ。
「ふぅ~。疲れた。」
朝の一番忙しい時間帯。それを乗り切ったアカリはようやく一息ついて椅子に腰掛けた。
忙しいといっても大きな街のギルドなどとは比べるまでもなく、たった十人やそこらである。
それでも出張所が出来てから2ヶ月程度の経験しかないアカリにとっては初めての仕事が多すぎるのだ。
「あとはお昼まで書類整理でもしましょうか。」
そう言って今朝受け付けた依頼書を集め立ち上がろうとする。
ギィ
扉のなる音がする。朝の時間に間に合わなかった冒険者が来たのだろう。
そう思って見ると、天井に頭をぶつけそうな見たことも無い巨漢が入ってきたところだった。
★
冒険者ギルド出張所。確かにそう書いてある。
なぜ読めるのか?おそらく言語理解というやつだろう。
言葉だけじゃなく文字も読めるようだ。こいつは便利だ。
(入ってみるか)
真新しいくせに妙に古びた音を鳴らすドアを開け中に入った。
中はそれなりに広く、入り口から正面に受付カウンター、
右側には掲示板が立てられ依頼表らしい紙がいくつも貼り付けられている。
左側を見ると殺風景ではあるが、待合所のようになっており、椅子と机が等間隔に並べられていた。
俺はカウンターにいる職員らしき女に話しかけようと近づいた。
「よ、ようこそ冒険者ギルド、フェルト出張所へ。ご用件をお伺いします。」
「おう。冒険者ってのになるにはどうしたらいいんだ?」
「え、えーっと。冒険者登録ということでよろしいでしょうか?」
予想外の答えにアカリは動揺してしまった。
剛田が知るはずのない事ではあるが、この出張所は初心者が来る様な場所ではない。
比較的安全といわれる王都や大都市部に比べてこのような辺境の村には大型の魔獣が現れることがままある。
それに加えて調査員と呼ばれるギルドの専門家も居ないのだ。不測の事態が常に付きまとう。
ここで普通に依頼をこなすとすれば、最低でもCランク、3年は冒険者を経験した者でなければ厳しい。
それ故に冒険者登録をしにくる人間など初めてだったのだ。
「そうだ。その冒険者登録ってやつだ。」
「えっと、登録手数料に銀貨1枚、そ、それと登録用紙に必要事項の記入をお願いしますがよろしいですか?」
「ああ。」
「で、ではまずこの用紙に必要事項を記入下さい。」
差し出された用紙には氏名、種族、年齢、特技、出身地、等の記入項目があった。
日本語で書くのか?いや、こちらの文字を読めるんだから書けるのだろうか。
そう思いペンを持った手を動かしてみる。
「書けるな。ゴーダ・タケルっと。」
(特技・・・?特技ってなんだ。リンゴを握りつぶせるとかそういうことか?)
「おう、ネーチャン。この特技ってのはなんだ?」
「そこはですね。剣術や槍術、魔法等の技能をお持ちの方に書いていただく項目です。
無ければ空欄のままで構いません。」
「なるほど。了解だ。」
1分程で用紙の記入を終え、ペンと一緒に返却する。
「それでは確認します。ゴーダ・タケル様、人種、18歳、特技はなし、出身地はニッポン?ですね?
ニッポンという地名は聞いた事が無いのですが、間違いはございませんか?」
「間違いない。俺はニッポン出身だ。」
「失礼いたしました。それではカードの作成を行いますので手数料として銀貨1枚をお願いします。」
俺はポケットの中から銀貨を1枚取り出しカウンターに置いた。
「それでは今から作成に10分程かかりますので、その間に冒険者ギルドの説明をさせて頂きます。」
そういって職員は説明を始めた。
要約するとこういうことだ。
・冒険者とは主に採集、討伐、護衛を行う者である。
・依頼の受注は掲示板の依頼表を持ってカウンターで行う。
・失敗した場合は違約金を支払わなければいけない。(期限なしの無制限依頼はその限りではない)
・冒険者ランクはA~G。Aが最高ランクでありGが最低ランクである。
・依頼にはランク制限がある場合があり、依頼表に記入されているランク以上でなければ受けることが出来ない。
・ランク制限とは別に推奨ランクが記入されている場合、受注は自由であるが危険な為に推奨はされない。
・冒険者ギルドは冒険者の生命の保証はしない。
・半年間依頼の受注が無い場合は死亡と見做し登録を抹消する。(例外あり)
大体は依頼表に書いてある内容を見て、後は自己責任といったところか。
こういうのは慣れだろう。考えても仕方が無い。
そうこうしている間にカードの作成が終わったようで、奥から男の職員が見たことの無い器具を持ってこちらにやってくる。
「それでは最後に魔力紋を登録するので手の平をここに付けて下さい。」
(鑑定してみるか。)
<魔力紋測定器>
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魔道具。魔力紋と呼ばれる特定のパターンを計測し、特定の媒体に記録する事ができる。
魔力紋は個人によって違いがあり、同じパターンの人間はは理論上存在しない。
身分証の作成等に使用される。
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男の言うとおり、平たい台になった部分に手の平を置く。
すると台の表面に青い光が輝き、明滅する。
しばらくすると光がおさまり、男の職員が台の下からカードを取り出す。
それを女の職員に渡し、測定器を持って去っていく。
「お待たせいたしました。これでカードの作成が完了しました。依頼を受ける際、報告をする際は必ずこちらをお持ち下さい。」
そう言ってカードを差し出してくる。
「おう、サンキュ。そんじゃ一つ依頼でも受けてみるか。」
俺は掲示板の方へ歩き出した。