第三話 番長、異世界に立つ
キィィイイイン
そんな異音が俺の耳にこだまする。
先ほどまで居た白い世界はぼやけ、光に包まれる。
次第に異音は小さくなり、目の前の光景も意味あるものに変わっていく。
「ここは、小屋か?」
とりあえず辺りを見回す。
小屋はすいぶんと放置されていたようで木製の壁の所々に穴が開き光が差し込んでいた。
とてもじゃないが人間が住んでいるとは思えない。
まあ小屋のことはどうでもいい。
まずは自分がどうなっているのかを確かめねえとな。
来ている服は学ランだ。登り竜が背中に刺繍された俺の一張羅だ。
こいつは天竜館でもただ一人しか着ることができない、つまり最強の男という証明書のようなもんだ。
自分の身体にも異常はない。
身長192cm 体重98kg 髪は黒のリーゼント。死んだにしてはどこにも怪我らしいものは無い。
しかし鞄も無ければ携帯もねえ。サイフすらねえってのはどういうことだ?
「ん?」
ポケットと探っていると上着の内ポケットに小銭が入っている事に気づく。
チャリン。そうやって出てきたのは100円や500円ではなく銀色に輝いた硬貨だった
。
「銀貨ってやつか?ひのふのみ・・・10枚あるな。」
価値はわからねえが当面の資金にしろてことだろう。
そういえば鑑定とかいうのを貰ったんだっけ。
どうやってつかうんだ?
「鑑定」
とりあえず言ってみる。
ダメだ。何も起こらん。気合が足りなかったのかもしれん。
「鑑定だコラタコ!!」
叫んでみる。
ダメだ。どうなってやがるクソ。
しばらく銀貨を睨みつける。すると
ピッ
という音がした。
<エンフェルド銀貨>
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人種国家エンフェルドにおける通貨。
エンフェルド銅貨10枚に相当する。また10枚でエンフェルド金貨1枚に相当する。
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なるほど。気合じゃなくしばらく睨み続ければいいのか。
ということは自分自身も鑑定できるということか?
自分の手を見続けてみる。
ピッ
<剛田 武>
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種族:人種
年齢:18歳
職業:異世界人
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なるほど、最低限の事しか表示されないのか。
まあ他人の事が何でも分かるなんてのはありえねえわな。
うっし。そんじゃ外に出て人間でも探すか。言語理解ってのも試さねえといけねえしな。
立ち上がり小屋の扉を開ける。
そこはまさに始まりの村だった。
★
見る限り、そこはどこにでもありそうな田舎の村だ。
ただしそれは、この世界におけるどこにでもある村であって現代日本の田舎ではない。
家は木造、それも先程の掘っ立て小屋を少し小奇麗にしたような何の変哲もないような家だ。
煉瓦や瓦なんて物もなく屋根も木の板が打ち付けられ藁が被せられているだけだ。
(違う世界・・・なのかどうかはわからんが日本ではないな)
とりあえず一番近い家に近づいてみる。
するとたまたま家の外に出てきたであろう老人に出くわした。
「ひぃ!なんじゃお主は!?と、盗賊か!?」
失礼なジジイである。
「誰が盗賊だコラ。ただの通りすがりだボケ。」
とりあえず怪しいものではないと伝えておく。
老人は剛田のつま先から頭の天辺までを見た後に武器を持っていないことに気づく。
盗賊ではないと判断したようだ。だが、盗賊ではないなら何者なのかが分からない。
「盗賊ではないようじゃが・・・商人でもなさそうじゃし・・・冒険者・・・でもないじゃろ。」
何やら考え込んでいるようだ。
(そういや俺は何を名乗ればいいんだ?学生だっつっても意味ねーよな)
「冒険者だ。」
もちろん嘘である。だがこういうときは自信満々に答えなければダサイのだ。
「冒険者・・・なら冒険者カードを見せてくれんか?」
なるほど。しまったなそういうのがあるのか。
「冒険者、志望だ。」
言い直す。もちろん自信満々にだ。
「なんじゃ、田舎から出てきた小僧かい。ビビって損したわい。
ちょうどこの村に冒険者ギルドの出張所ができたばかりでの。お主もそれを聞きつけて来たんじゃろ?」
そう言って安堵した様子で剛田を見る老人。
「お、おう。当たりだよジジイ。そういうことだ。」
全て俺の計算どおりだ。
「ついでと言っちゃなんだがその出張所とやらの場所を教えてくれ。」
「ああ、ギルドはこの先を真っ直ぐ行って井戸の手前で右に曲がればすぐじゃ。」
「わかった。サンキューなじいさん。」
そうして礼を行って俺は歩き出した。